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47 ダンジョン・コアを探そう(3)

 安全地帯に戻り、できる限り腹持ちのよさそうな昼食を食べてグリフィンたちは再度探索へ向かう。

 グリフィンが探査し、シャクラが魔物を討伐、そしてセヴェルスはシャクラの補助をしながら地図を描いていく。どこまでも広がる草原に見えたダンジョンはしかし、安全地帯から1時間もまっすぐ歩けば壁にたどり着いた。


「あの安全地帯は中心地ではなさそうだな」


 見た限りではわからないものの、地図を確かめれば確かにどこかを中心として円を描いているようだった。ただ、地図に書かれている弧は直線と言われても納得できるほどで、これをもとに中心を割り出すことは難しそうだった。

 グリフィンはセヴェルスの考えに、それはそうだろうと答える。


「中心地がどこだったとしても、そこにダンジョン・コアが存在するとは限らないよ。ダンジョン・コアが移動させられている以上、こっそり別の階層に持ち込まれている、なんて可能性もあるし」

「そうじゃのう。水場らしきものも見つかっておらんし、もうしばらく歩かんと分析は難しいか」

「かろうじて、スライムの水っぽさが強くなっているし、安全地帯よりかこっちの方が水場に近いんだろうけど……そうだ」


 グリフィンはセヴェルスに地図を借り、武器として手に隠していた針を取り出す。


「おれは水を探すといえばダウジングかなー、って思うんだけど、2人はどう?」

「えらく古い迷信じゃな」「水を探すより魔術や妖精に頼む方が早くないか」

「さすがにシャクラもダウジングは迷信って言うよね。でも、手がかりもないしやってみていい?」

「よかろう」


 シャクラが了承すると、グリフィンは近くに魔物の気配がないことを確認して地面に地図を置く。

 地図の上に描かれた、およそ自分たちのいるあたりに刺さないように気を付けながら針を立て、グリフィンはゆっくりと手を放す。針は地図に垂直に立って、わずかな風に揺られたのか少し震えた後、ぱたりと倒れた。

 針の指す方角は、安全地帯がある方角でも、円の中心と予測される方角とも異なった。グリフィンは針を拾うと、地図をセヴェルスに返し「行ってみない?」と聞いた。


「セヴェルス、」

「まあ、スライムくらいしか手がかりがないからな。違ったとしても進むしかないだろ」

「そういってくれると助かるよ」


 針の示した方角へ、グリフィンたちは進む。途中で紅群蜂(ル・ビー)の大群に遭遇した時は逃げることに手いっぱいで目指す方角が分からなくなったが、再度ダウジング(?)をすれば行き先の修正はできた。

 そうして、地図に記録をしつつ進んだ先。グリフィンは弾かれたように顔を上げ「水の音がする」と言った。


「スライムの音じゃないだろうな」

「こんなに短期間でたくさん聞いてるのに、聞き間違えるなんてしないよ」

「グリフィン」

「もう少し近づいたら2人にも聞こえると思うんだけどなあ」


 視覚以外の感覚すべてで水の存在を感じ、グリフィンは迷いなく歩き出す。シャクラとセヴェルスはそれに続き、そう歩かないうちに水音を聞き取ることができた。

 水音は雑木林の中から聞こえてきた。グリフィンたちはいまさらながら姿勢を低くして茂みを進み、見つからないように警戒する。

 雑木林の中心近く。緩い下向きの傾斜の先に、安全地帯よりひと周り広いくらいの沼が現れた。沼の淵、水面近くにつやつやとした蛙の卵がささやかに揺れているのを見るに、目的の水場とはここで間違いないだろう。

 そして、蛙の卵があるということは当然、親だろう蛙もいた。しゃんと立ったグリフィンよりも背の高い、緑を基調とした泥臭い大蛙。王冠のようなものを頭に据えているのを見るに魔物なのは間違いないだろう。


「ふむ」

「どう?」


 シャクラは大蛙を見て、ひとつ瞬きをする。


「奴で間違いないの。水生の蛙型魔物のくせに、遮音の魔術を使っておる」

「それは面白い性能の魔物だね」

「スリーカウントで行くぞ。いち、にの、」


 さん、とシャクラの声に合わせセヴェルスの放った矢が大蛙に刺さる。シャクラは茂みから飛び出し、水生の魔物であればと雷の魔術を放つ。

 グリフィンは遅れて飛び出し、遮音の魔術を自身の魔術で上書きして打ち破った。


痺れろ(クゥシェン)っ!」


 大蛙はセヴェルスの2射目をたたき落とし、雷の魔術をそのまま受ける。雷の魔術が効いた様子はなく、シャクラは威力と属性の相性が悪かったのだろうと火の魔術で攻撃する。


焦げろ(アデューレ)!」


 火の魔術は明確に回避され、まずはシャクラを(たお)すと言わんばかりに投げられた泥玉をグリフィンの魔術が防ぐ。

 グリフィンは手持ちの投げられるものから油の入った革袋を取り出し、大蛙の居場所からずれたところへ暴投した。

 嗤うように鳴く大蛙。セヴェルスの矢はその脚を射貫こうと風の魔術の乗った矢が飛び、大蛙は喉を膨らませてけたたましいまでの声で魔物を呼ぼうとした。


「グリフィン」

「対策済み、だよ」


 増援はやってこない。困惑した大蛙に、シャクラは尾で叩きつけて吹き飛ばす。そこへグリフィンの投げていた革袋が落ち大蛙は油にまみれる。シャクラはすかさず火の魔術を放つが、大蛙は大きく跳び上がってそれを避けた。

 とっさにグリフィンはシャクラを突飛ばそうと駆け寄った。しかしグリフィンの足では間に合わず、シャクラはなすすべもなく大蛙の下敷きになる。

 グリフィンの目の前で高笑いする大蛙。グリフィンは大蛙の着地で生まれた風にあおられながら、針を自身の指に滑らせた。


「――死んじゃえ」


 大蛙の手が振り上げられ、グリフィンは針を刺す。それが原因だったのか、大蛙の手はだんだんと灰色に、紫色に変色し、反対の手が振り下ろされるのをグリフィンは後ろに下がって避けた。

 そうしてひと呼吸おかないうちに、大蛙の魔物は全身が紫に変色し、王冠と大きな羽根を残して消滅していく。セヴェルスは弓を下げて茂みから出ると、グリフィンを心配して顔を覗き込もうとする。


「無事か?」

「見ないで。それより、シャクラを」


 グリフィンは消滅しきった大蛙の、真下になっただろうところを調べる。シャクラはうつぶせでそこにいたが、生きているとは言い難いせんべいのようになってしまった。


「……どうしよう。護衛の仕事、失敗だよ」


 思案する。シャクラは有用であり、良き友人でもあった。グリフィンにとって苦手なことはシャクラができることで、シャクラの苦手なところはグリフィンが適当に笑って対応できることだった。

 依頼の不履行については正直にシレーネへ連絡し、そこからはまたひとりで旅をするしかないと、グリフィンは結論を出した。そうすると必然、空間魔術(ストレージ)に入れている勇者にかけられた呪いのことで思考が埋まる。


 ダンジョン・コアは、摩訶不思議な力を持つという。


 グリフィンは大蛙の落としたもの――王冠と大きな羽根に手を伸ばそうとして、ふとシャクラの心音がまだ聞こえることに疑問を抱いた。


「シャクラ」


 心なしか、ふちがめくれている。


「生きてる?」


 ふちをつまみ上げて、ゆっくりと地面からはがしていく。セヴェルスは何事かと思ってみていたが、シャクラをはがすことに集中しているグリフィンの代わりに周囲の警戒を始めた。

 小指の爪ほどから親指の爪ほどに、猫の額ほどに、手のひら大に、そして顔がひと通り地面からはがれると、シャクラの体がぺらぺらになっていることが分かる。

 あまり丁寧にはがさなくとも問題なさそうなので、残りはえいやっと力を入れてべりべりと地面から引っぺがす。ぺらんぺらんとしたシャクラは、どうやっているのか自分の足で立ち、同じくぺらぺらの声帯で何かしらを言おうとする。


「 -,       」

「シャクラ、声までぺらぺらだね」

「? ……?」

「        ,            ?」

「わかった。セヴェルス、ここはおれとシャクラだけでなんとかなるから、雑木林の外から安全地帯までの最短ルートを探しに行ってほしい」

「わ、わかった」


 困惑するセヴェルスを放置し、シャクラは身振り手振りぺらりとグリフィンに何かを伝える。グリフィンはシャクラの言葉を実行するため、セヴェルスが雑木林の外を見に行くように誘導する。

 幸いにして、気が動転しているのかセヴェルスはグリフィンの指示を聞いて雑木林の外へと歩いていく。シャクラはセヴェルスの背が見えなくなったところで、いちど魔王の首の姿になり、改めて尾を生やしたヒトの姿になった。


「死ぬかと思ったが、案外死なんもんじゃな」

「おれはどうやってシレーネシア撃墜しようか考えてたのに、のんきだよね」

「お前が過激すぎるだけじゃろ! まあよい、何か着るものを出さんとな。セヴェルスに悪い」


 そう言っているうちに、セヴェルスの足音が戻ってくる。

 シャクラは空間魔術(ストレージ)から適当な服を取り出して着ると、大蛙の落とした王冠と大きな羽根を拾ってグリフィンの手を取った。

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