45 ダンジョン・コアを探そう(1)
体調がちょっと良くなったので久々の投稿です
分岐のない洞窟の道をグリフィンたちは歩いていく。足音が反響するおかげで、グリフィンは索敵に困らない。
「液体みたいな敵……スライムが来る。まず2体、離れてもう2体」
「それは本当にスライムか?」
「なんていうか、べちゃべちゃーって音だから間違いないよ」
「ほう。であれば間違いないな」
グリフィンは小声で情報共有をし、シャクラは確認の上魔術を編む。
「痺れろ」
その言葉に応じ、シャクラは掌に生まれた雷の球を進行方向へ向かって投げる。雷の球はややいびつな放物線を描き、水音をさせながら現れたスライムへ吸い込まれるように落ちた。
雷の球が当たったスライムはその場で雷に焼かれて死に、残った体液が帯電したことで、後続のスライムにも雷の力が伝導して死んでいく。
瞬きの間に片づけられたスライムの残骸を遠目に、セヴェルスはシャクラへ何をしたのかを聞いた。
「スライムを1つの魔術で4体も倒すなんて、どういう原理なんだ?」
「罠の魔術に雷の属性を付与しておる。複数来るというのはグリフィンが聞いてくれたからの」
スライムの残骸を踏み超え、しばらく進む。
洞窟の先からは光が差し込んでおり、どうやら明るい場所につながっているようだった。
シャクラは森そして洞窟と打って変わってまぶしい行き先に顔をしかめ、改めて情報収集をする。
「グリフィン」
「すぐのところに敵はいなさそうだけど、広いのかも。ここからじゃ全然わからない」
「セヴェルス、最近増えたという魔物は?」
「シャインライノーとコカトリス以外で目撃したと話があったのは、緑のもやをまとった馬、群れで行動する大きく赤い蜂、通常よりも大柄な豚人と牛人、それと血濡れの熊だ。別の集落にある冒険者ギルド曰く、それぞれ、苔蛍馬、紅群蜂、斑豚人、斑牛人、鏖血熊だそうだ」
「鏖血熊は仕留めたか? 逃げ切ったと思わせて獲物の巣を狙うのは熊型の魔物によくある習性じゃぞ」
「仕留めたさ。ただ、怪我人が多いから次は相手できないな」
シャクラは魔物の情報を自身の知識と照らし合わせ、セヴェルスの挙げた魔物が知っている物と同じならという前提で、1体ずつなら完封できるだろうと判断する。
「まずは洞窟を出る。その先の状況によっては一度引き返すとするかの」
「わかった」
洞窟に差し込む光へ、グリフィンたちは踏み出す。
そこに広がっていたのはなだらかな草原。遠目に小規模な雑木林がいくつか点在するのが見え、魔物のものだろう鳴き声が聞こえる。
明るさからして昼過ぎから夕方の手前くらいか。洞窟の外は夜であることを考えれば、齟齬があることは間違いない。
「広いね。端がわからない」
「……俺はダンジョンに詳しくないんだが、どうやってこの空間があの洞窟の先にくっついているんだ?」
「安全な場所を確保してから、そのあたりは説明するかの。ええと」
シャクラは洞窟の方へ振り返る。今同行している中で最も背の高いセヴェルスより頭1つ分だけ高さのあるなだらかな丘に、洞窟の道のりを無視して出てきた口が斜めにくっついている。
グリフィンから離れすぎないよう気を付けながら、シャクラは丘の上を確認する。そこには狭い面積だが隠蔽の魔術がかけられており、しばらくそれを見つめたシャクラは「暴露」と隠蔽の魔術の解除を試みる。
シャクラの魔術は効果を発揮したものの、1回では成功しなかった。やれやれとも仕方ないともとれる、焦りを隠した表情で再度魔術を唱え、隠蔽の魔術は解除された。
「ん、シャクラ」
「ちと時間がかかってしまったからのう。迎撃する」
グリフィンが察知したのは苔蛍馬。1頭だけ草むらから顔を出し、こちらの様子をうかがっている。
「あれしかいない」
「それはいい、な!」
シャクラは尾を振り、槍を投げる。槍はまっすぐに飛んで苔蛍馬の頭を貫通し、確認せずとも即死させたことがわかった。
「なんじゃつまらん。二人とも、この上に行くぞ」
「引っ張り上げてくれると嬉しいな」
「わかっておるとも。少し待て」
シャクラはその場で跳ねて丘の上に登る。それからすぐに、尾を下ろしてグリフィンを、そしてセヴェルスを丘の上に引き上げた。
登った丘の上は、直径10メートルほどの円を描いて灰褐色のレンガが敷かれていた。円の外周も同じ色のレンガがグリフィンの膝くらいの高さまで積まれており、レンガの円の内側には金属製のシンプルなガーデンテーブルと、テーブルとセットだろうガーデンチェアが3脚置かれている。
シャクラはガーデンテーブルに積もった土埃を撫でて払い、テーブルの天板にあるへこみを確認して「なるほど」とつぶやいた。
「グリフィン、セヴェルス、ここはいわゆる安全地帯じゃ。腰を落ち着けるにはちと埃臭いが、ないよりかはマシじゃろ?」
「ダンジョンに安全地帯なんてあるんだな」
「モノにもよるが、たいていは作っておるな。ダンジョン・コアの設置場所も、魔物が出ないという意味では安全地帯じゃ」
風と水の魔術で埃と汚れをきれいに洗い去り、シャクラはテーブルに向かっても尾が邪魔にならないようガーデンチェアの向きを変えて横座りする。グリフィンとセヴェルスもシャクラに合わせて残りのガーデンチェアに座り、グリフィンはついでとばかりに空間魔術から夜食を取り出して人数分を並べた。
「セヴェルス。先の質問──今わしらの足元にある洞窟からいかにしてこの草原につながっておるか。理解できそうな回答としては『基本的に物理法則は無視している』というとこか。作り手の好きなように作られておるゆえ、わしでもダンジョン・コアそのものを見ぬ限りさっぱりわからん」
「ダンジョン・コアを見ればわかるのか?」
「わしはわかる。お前たちが理解できるかどうかはわからん、が勧めぬ。シレーネシアの管轄と言えばわかるか?」
シャクラはグリフィンへ向けて、暗に『魔王だから理解できる』と伝わるように言う。しかし、
「わかった」「わかんない」
とセヴェルスは納得したもののグリフィンはよくわかっていなかった。
シャクラはテーブルに突っ伏しそうになるのを寸前でこらえ、共有しても問題なさそうなことを伝える。
「まあよい。ダンジョンにも作り手があり、その作り手がどのように作ったのかによってダンジョンは千差万別となる。ただ、シレーネシアの管轄だけあって、ダンジョンにはいくつか決まりごとがある」
「安全地帯とか?」
「その通りじゃ。可能なら換金性の高い宝物を置く、ダンジョン・コアの守衛の前に休息所……安全地帯を設置する、ダンジョン・コアの守衛の前とは別にシレーネシア向けの安全地帯を設置する、といったところか。もちろん、この決まりごとに従っておらんダンジョンも存在するが、それはシレーネシアの知らんうちに作られたダンジョンじゃからの」
「じゃあ、今いるここはシレーネシア向けの?」
「これがどっこい、ここはダンジョン・コアのあるべき場所のようじゃ」
だからこそ、2回魔術を使わなければ隠蔽の魔術が解かれなかったようだ、とシャクラは言う。
セヴェルスは周囲を見回し、グリフィンへ「ダンジョン・コアはありそうか?」と聞いた。
「ここにはないと思うよ。さっきの苔蛍馬も、集落で遭遇した光幻犀より弱いからボスってことはないだろうし」
「そうじゃな。予想するに、ダンジョン・コアが動かされたことで、ダンジョンから魔物が飛び出すようになったんじゃろ。もともとダンジョンに居った魔物が動かしたのか、外から来たものが動かしたのかはわからんがな」
「ダンジョン・コアが外に持ち出されている可能性は?」
「ないない。持ち出されておったらそもダンジョンが維持できん、そうしたらそもここには入れぬ。心臓じゃからな」
疑問は解消したのか、シャクラの否定にセヴェルスはいくらか恥ずかし気に頬を染める。どうやら、子供のように質問攻めにしてしまったと考えているようだ。
シャクラは夜食として用意されている小さなパンを口に放り込み、機嫌がよさそうに尾をゆらす。
「ダンジョン・コアさえ見つけてしまえばよい。持っておる魔物は目に見えて強化されておるはずじゃから、探すのもそう手間ではなかろ」
「そうだね」
「そうと決まれば、交代で寝るとするかの。グリフィン、テントの用意を。安全地帯はこのレンガの円の内側じゃから、はみ出ぬように。セヴェルスはわしとともに焚きつけの枝を拾いに行こう」
シャクラの指示に、グリフィンとセヴェルスは頷く。
グリフィンは空間魔術からシャクラと出会ったころのテントをいったん取り出して、まとめて仕舞っていた魔物除けのランプを残してテントを仕舞いなおし、遮光性の高い別のテントを取り出した。




