4 グリューネ教会ロウリィトン支部2
依頼掲示板を眺めながら、グリフィンは時間をつぶすためにシャクラへ依頼の説明をする。
依頼は『採集』『討伐』『護衛』『調査』『踏破』に大別される。『採集』は植物をはじめとする「動かないもの」を取ってくること。『討伐』は魔物を一定数倒すことや、魔物の素材を獲得してくること。『護衛』は基本町から次の町までで、長距離の場合は冒険者が入れ替わることが多いこと。『調査』は護衛対象がいたりいなかったりだが、どちらにしろ難しいものが多いこと。『踏破』はダンジョンを攻略してくることで、ダンジョンマスターと呼ばれる存在を撃破するとダンジョンが崩壊するのでわかりやすくはあること。
そして、大半の冒険者は長い文章が読めないため、依頼の種類は記号で、依頼者、詳細、報酬、はそれぞれ三十文字までで書かれていること。
と、話し込むグリフィンたちの背後から声がかかる。
「お待たせしました」
女性が連れてきたのは、上半身は人間、下半身は大蜘蛛の『アラクネ』と呼ばれる種族の女性だった。アラクネの女性は買取用らしい窓口を開けたので、グリフィンたちはそちらへ向かう。
「あたしはアリア、ロウリィトンのアリアさ。早速で悪いが、買取希望のものを出しとくれ」
シャクラは空間魔術から一握り分の素材を取り出し、窓口のカウンターに乗せる。アラクネの女性は口を何度か開閉させてから「あんた、どこの田舎出身だ?」と聞いてきた。
「おれですか?」
「いいや、そっちのお嬢さんさ。空間魔術なんて珍しいのに、今さっき知り合ったような他人に見せるんじゃないよ」
「それは、あとでよく言っておきます」
「それがいい。あんた、いい兄貴でよかったね」
グリフィンは似ているだろうかと横目でシャクラを見る。どうやら同じことを思ったようで、シャクラは肩をすくめて返事をした。
改めて、アラクネの女性は鑑定をはじめる。
「これは……討伐部位じゃないものばかりだね。これは砂漠蠍の脚、こっちは草ヤギの角、これはその辺の魚の鱗じゃないかい?」
他にもいくつか素材が出してあったが、アラクネの女性の挙げた魔物は主に砂漠に住み着いているものの名前だった。と言っても、強さとしては駆け出し冒険者が相手をするようなものばかりで、シャクラは若干不満そうだ。
「ふむ、では買取はあきらめようかの」
シャクラは出していた素材を空間魔術に戻す。そのままグリフィンの手を取ると、「おにーちゃん」と甘ったれた声を出して冒険者ギルドの外へと引っ張っていった。
「シャクラ、どうしたの」
「ひとまず野営広場まで戻る。グリフィン、テントの支度はどれほどかかる」
「すぐ」
「ならいい、ちゃっと用意してもらおうかの」
冒険者ギルドから逃げるように野営広場に戻ったグリフィンたち。グリフィンはマジックバッグから出したように偽装しながら空間魔術のテントを取り出し、「狭苦しいところですが」とシャクラを招き入れた。