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42 スキノスの集落

 妖精の小道は先ほどまで居た森の中とは違い、明るい霧の中にある獣道のような場所だ。グリフィンが左右に視線を逸らすと、洞人(エルフ)は道を外れないようにと手を引っ張った。


「はぐれるなよ。迎えに行けるとは限らない」

「わかった」


 グリフィンはおとなしくついていく。誰かが髪や服をつまむような感触があるが、手の感触以外を無視することにした。

 妖精の小道を歩きながら、シャクラは洞人(エルフ)に話しかける。


「自己紹介をしておらんかったな。わしはシャクラ、ポーラ王国連邦にはヒト探しで来ておる。もう一人は」

「グリフィン・ミンターです」

「俺はセヴェルス・スキノスだ。といっても俺たちの集落はスキノス姓しかいない、セヴェルスと呼んでくれ」


 洞人(エルフ)──セヴェルスはそう答える。グリフィンが首をかしげると、シャクラが解説をし始めた。


洞人(エルフ)の集落というのは、基本的には特定の一人を先祖に持つ血族で構成されておる。集落の結成からおよそ800年ほどすると集落は株分けをされ、株分けされた際に姓を改めるのが一般的じゃな」

「よく知っているな。洞人(同族)には見えないが」

「ちょいとシレーネシアに伝手があっての」


 シャクラの開設を聞く限り、今向かっている集落はスキノス姓の集落なのだろう。

 グリフィンがそう理解したところで、セヴェルスは足を止める。どうやら妖精の小道を進むのはここまでらしい。


「我らが友よ、道を開きたまえ」


 セヴェルスは入ったときと同じ言葉で妖精に語りかけ、出口を開く。入ったときよりも狭いそれを何とか潜り抜けると、出た先は狭いながらも広場の確保された森の中だった。

 グリフィンは周囲を観察し、こちらを伺う存在をいくつか発見する。セヴェルスはそれらに気づいていないのか、広場に隣接した木製の建物のひとつへと歩いていく。


「戻ったぞ」


 建物はどうやら集会場のようで、セヴェルスと同じ洞人(エルフ)が数名円座を組んで待っていた。

 洞人(エルフ)たちは顔を上げ、年かさらしい1人が「そちらの2人は?」と聞いてくる。


「先ほどのコカトリスの原因だ。ただ、悪意があってのことではないと」

「であれば、どちらかはコカトリスを先祖に?」

「いや、(くちばし)を持っている。冒険者だそうだ、魔物の撃退に協力してくれるという」


 グリフィンたちは洞人(エルフ)へ自己紹介をし、ほんの少しとはいえ話したことがあるセヴェルスを連絡調整役にしてもらう。

 魔物を撃退する間の拠点として集会場の一室を借り受けたグリフィンたちは、地図の調達と妖精への声掛けをセヴェルスに頼み、これからの行動について話し合う。


「シャクラ、先に言っておくけどおれは戦力に数えないでよ」

「パライズボールのような投げ物で遠くから、というのもか?」

「もちろん。おれは武器を持ったことがないし、パライズボールとか回復薬を投げるにしても量に制限があるからね」

「であれば仕方ない。(くちばし)による周囲の探索だけは頼んだぞ。それと、」


 先手を打って自主的に戦力外通告をしてくるグリフィン。シャクラはそれもやむなしと、これまでの探索結果についてを聞く。


「先ほどの探索結果についてなんじゃが、詳しく聞いてもいいかの?」

「今と場所が違うのを前提に聞いてくれるならいいよ」

「もちろんじゃ」


 シャクラの返答に、グリフィンは簡易の地図にと手持ちのノートにペンを走らせる。ノートにはグリフィンの立っていた場所を示す丸と、そこから扇状に聞こえたものが書かれている。


「あの音で調べられたのは大体こんな感じで、聞こえる範囲に魔物の音はなかったよ。この集落は大体右手のほうで、距離は……」

「徒歩四、五時間程度か?」

「ううん、表面が平たいものは正面右寄りのほうだったから別」

「角度はどれくらいじゃ」

「うーん、これくらい」


 グリフィンはシャクラの手を借り、音の方角にシャクラを立たせる。同じように、ほかの音の方角もシャクラに伝え、シャクラはそれをノートに書きこんでいく。


「確認じゃが、聞こえた範囲にあった主要なものは」

「表面が平たいものと、たぶんこの集落だと思うもの、通ってきた方の川と、それとは別の川」

「そしてそれぞれ1時、3時、6時、10時と」

「なにそれ」

「クロックポジションというやつじゃ。海の上では船を時計の中心に見立て、敵影の方角を示すのに使われるの」


 ほかにも動物らしきものがいくつか確認できたとグリフィンはいうが、(くちばし)の音に驚かされて移動してしまった可能性が高い。

 ただ、ダンジョンと思われるものは特に見当たっておらず、場所を変えながら調べる必要がありそうだ。

 と、セヴェルスがくたくたになった紙を手に部屋に入ってきた。


「邪魔する。地図の用意と、集落の者への声掛けはできた。ほかの集落から聞いている話ではここと同じかそれ以上の被害は出でいないから、できれば地図のこの辺りを優先して調べてほしい」


 紙は集落周辺の地図となっており、これがこのまま他者の手に渡れば攻め落とすことができそうなほどに精緻な内容が書かれている。


「この地図はわしらが見てもよいのか?」

「魔物に滅ぼされて更地になるくらいなら、俺の責任で公開もするだろう。それで、いつ調べに行く」

「先ほどわしらと会ったのはどの辺じゃ、その時の情報と合わせて考えねばならん」

「それならここだな」


 妖精の小道が通っている場所と歩いた距離をもとに、セヴェルスは地図の一点に指を置く。

 シャクラはその位置と地形をもとに向いていた方角を調べ、セヴェルスの言う「調べてほしい地域」の中でも特に狭い辺りを示す。


「この辺りに表面が平たいものがあるはずじゃ。何か心当たりは?」


 そこは地図によると森の中。セヴェルスは問われたことが不思議なのか、首をかしげながら答える。


「なぜ? 特に動物も多くなく狩り場に使われてもいない場所だ、木と草くらいしかない」

「当たりじゃな。グリフィン、今日のうちに先の広場でもう一度(くちばし)を使ってもらえんか?」

「わかった」


 グリフィンはシャクラに手を引かれ、広場にて(くちばし)のカスタネットをたたく。しばらくして、グリフィンは「見つけた」とシャクラの方を見た。


「シャクラ、歩いて2時間くらいのところにダンジョンがある。魔物が少しこちらに来ているみたいなんだけど、」

「では支度をして明日、」

「大きいのがひとつこっちに向かってきてる!」


 グリフィンの叫びにシャクラはダンジョンのあるだろう方角に視線を固定する。

 やがて木々のへし折れる音とともに、周囲の気温が上がってきた。


「あれは……」

光幻犀(シャインライノー)だ! 全員逃げろ!」


 広場に飛び出してきたのは光幻犀(シャインライノー)。本来ならば水場の近くでなければ生きていけない熱に弱い生き物が、魔物として光と幻をまとうようになって弱点を克服したもの。

 セヴェルスが集落中に聞こえるよう声を張り上げる。しかし、それを聞いたシャクラとグリフィンは臨戦態勢になった。


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