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40 エコーロケーションとデメリット

 チェルシーが去った翌日。グリフィンが寝すぎに気付き慌ててテントを飛び出すと、シャクラは意地悪く笑いながら「おはよう」と応えた。


「ごめん、すごく寝ちゃった」

「かまわんよ、下手に夜の番をさせても心配で眠れんからの」

「そうは言っても」


 起きれなかったことの反省半分、起こされなかったことへの文句半分で機嫌の悪いグリフィンにシャクラは目玉焼きを乗せたパンを差し出す。


「わしは眠らなくとも死なんからの。それを食べたら出発の支度をせい」

「……わかった」


 グリフィンは熱を頼りにパンへ顔を寄せ、そのままかじりつく。パンは焼き立てなのかさっくりとした食感がささやかな食欲を掻き立て、目玉焼きをすすり取ると半熟の柔らかい黄身が喉の奥へ流れる。


「おかわりもあるぞ」

「いらない」


 シャクラに手ずからパンを与えられ、口にある分を飲み込むと最後のひとかけが押し込まれる。

 グリフィンたちは川で手と顔を洗い、テントを空間魔術(ストレージ)に入れる。鍋を下げられる三脚(トライポッド)は鍋ごと空間魔術(ストレージ)に収納され、軽く服を払えばグリフィンの支度は終わる。

 シャクラはたき火を川の水で消火し、念のために土をかけて埋める。森に入るため今着ているワンピースでは動きにくいと判断し、ワンピースの裾が入るように大きめのズボンを穿()いた。


「準備できたよ」

「ではゆくか」


 シャクラはグリフィンに手を差し出す。グリフィンも同じく手を出してきたので、シャクラはしっかりとグリフィンと手をつないだ。


洞人(エルフ)の集落はここから南西の方にあるはずじゃ。疲れたらすぐに言うんじゃよ」

「森歩きなら慣れてる、そう疲れたりしないよ」


 踏み出してすぐ、シャクラの尾がグリフィンの背に触れる。何が当たったのかとグリフィンは空いた手で背中をさすり、正体がわからずシャクラに聞く。


「今の何?」

「あー、わしの尻尾じゃな。竜尾人(リザードマン)の姿も見せると話したじゃろ?」

「そんな話もあったねえ」

「ていくつーじゃ、尾は気を付ける」


 今度こそ、とグリフィンたちは歩き出す。

 森は静かにそこにたたずんていた。



 羽音と鳴き声が混ざる中、グリフィンたちは森を進んでいた。

 地図は手元にないが、方位がわかっていることとグリフィンの聴覚をあてにしてヒトの居そうな方へ向かっている。正直博打に近いが、当座の食料はあることと追手がかかっていることから


「集落に行き当たらんでもよかろ」

「そうだね」


 と呑気なものだった。

 ミンター(故郷)の森とは違いにぎやかな森を歩き、グリフィンは時折シャクラの手を引いて進む角度を修正する。

 グリフィンが意識して知覚できる範囲にはヒトの立てる音がない。シャクラのように心拍音も呼吸も聞き取りにくい存在がいるのかもしれないが、洞人(エルフ)がそうとは限らない。


「グリフィン、あまり曲がりすぎると国境()に戻ってしまう」

「心配しなくても大丈夫だよ。川はおれの背中の方にあるから、太陽のある方に歩き出すとかしなければ」

「と言ってものう」


 グリフィンは自信たっぷりで言うが、シャクラは信じている様子がない。

 仕方なく、グリフィンはとっておきを使うことにした。


「じゃあ、もうちょっと探索範囲広げるから」

「既に只人(ヒューマン)の探索範囲は超えとるんじゃが」

「まあまあ」


 空間魔術(ストレージ)に腕を入れ、ごそごそと中を探る。指先が目当ての物をつついた気がしたので、腕を伸ばしなんとか引き寄せる。

 取り出したのはカスタネット。大型の鳥類から取れた(くちばし)で作っているため、形が妙に細長い。

 深呼吸をし、グリフィンはカスタネットをひとつ鳴らす。遠くまで響いた音に驚いたのか、周囲の木々に止まっていた鳥たちが逃げていった。


「方角はあってるね。歩いて4、5時間くらいのところに表面が平たいものがあるから、建物だと思う」

「いや、今のは何をしたんじゃ」

いつも通り(・・・・・)音の反響で周囲を視ただけだけど」


 シャクラの問いに首をかしげるグリフィン。それ以上は答えないところを見るに、当然のことだと思っているか教える義理がないと判断したのだろう。


「あ、今の音でこっちに気付かれたみたい。ごめんね?」

「ごめんねで済むか?!」


 そう話している間にも、遠くから近づいてくる草の擦れる音。

 シャクラは音の方角を警戒し、尾を振り上げる。


「シャクラ」

「今忙しい」

「もう少し右」


 グリフィンの言葉に思わず振り返り、尾の軌道を垂直から斜めに変える。

 飛び出してきたのはナイフを手にした洞人(エルフ)。シャクラの振りぬいた尾は飛び出してきた洞人(エルフ)をしたたかに打ち付け、持っていたナイフを叩き落とすことに成功する。

 ナイフが手から消えたことに驚きながら、洞人(エルフ)は木々の間を転がりひときわ太い木に激突する。そこへグリフィンの投げたボールがぶつかり、短い悲鳴がグリフィンの耳に届く。

 シャクラは警戒を緩めず、グリフィンは大して気にした様子もなく洞人(エルフ)の転げた方に視線を向ける。


「久々にやったけど、当たるものだね」

「何を投げたんじゃ?」

「パライズボール。名前のとおり、麻痺毒が入れてあるボールだよ」

「ああ、あの時も似たようなものを投げておったの」


 シャクラはグリフィンと初めて会ったとき──勇者パーティのひとりとしてシャクラの前に現れた時を思い返す。あの時は味方にも何かしら投げていたことから、グリフィンの持ち物には回復効果のあるボールもあるのだろうとシャクラは推察した。


「今なら麻痺してると思うし、縛り上げに行かない?」

「拘束するつもりはないが、様子を見に行くのは賛成じゃ」

「そう?」

「下手に誤解を与えてみよ、追手が増える」

「それもそうか」


 グリフィンはシャクラの説得に納得し、後ろ手に取り出していた縄を空間魔術(ストレージ)に戻した。

グリフィンの探索範囲

すっぴん:かなり広い

カスタネット使用:とっても広い

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