39 ゆるゆる情報交換
テントの側に野営用の椅子を取り出し、グリフィンの用意した枝の山にチェルシーが人差し指で自身の唇をつつき「火よ」と唱えて火を着ける。
グリフィンは火に何度か手をかざし、料理に使えそうだと判断する。チェルシーだろう視線が何か言いたげに向けられていることを感じながら、面倒臭そうだからと放置して夕食の支度に手を付け始めた。
「まずはシャクラちゃんが知ってる、今の洞人の特徴を言ってみてほしいんだけど」
「よかろう。洞人と言えば外見ならとがり耳で美形が多く、能力的には生まれつき魔術が使える者が多いの。確実に洞人であると特定するならば、まだらな模様の毛が生えていない、耳の長さはこめかみから先端までが本人の親指より長く中指より短く、というのも必要になるはずじゃ」
話を聞き流しながらグリフィンは自分の左手を撫で、親指より長いとなるとかなり耳が長いのではと考える。
ただ、言われた特徴に当てはまる相手も同時に思い浮かぶ。グリフィンの養父アンワズと、その弟だ。
「だいたいあってるね。忘れちゃダメなのは、この辺りの洞人はダンジョンに住んでるんだよ。ボクからすると泥臭い耳長のもごもご」
シャクラの尾がチェルシーの口に押し込まれ、チェルシーは喋ることが出来ずうっかり尾に噛みついた。
どうせ余計なことを言いそうになったのだろうと、グリフィンは鍋を下げられる三脚を火の上に設置しようとして、誰かに取り上げられてしまった。
「チェルシー、もう少し慎重に情報を吐かんか」
「うあい」
鍋を下げられる三脚が設置できたのを確認して、シャクラはチェルシーの口から尾を抜いてグリフィンの手を誘導する。鍋をかけるフックに触れるように誘導すれば、グリフィンは思い出したように料理の続きをする。
「それで、昨今のリンクドスクの情勢は?」
「平和も平和、唯一のダンジョンが閉じそうなのもここ数百年変わらないよ。ダンジョンについてはシレーネシアから技術提供をしてるからまだしばらく維持できるんじゃない?」
「不死鳥の“しばらく”、のう?」
「あはは、しばらくはしばらくだよ」
スープが煮立ち、夕食の準備ができたとグリフィンはシャクラに声をかける。チェルシーは苦笑いしながら自分の食事を空間魔術から取り出した。
「チェルシー、シレーネにメモを渡してもらえるか?」
「忘れてもいいならいいよ!」
本日の夕食は塩味のキャベツスープと固いパン、それと林檎だ。シャクラの分は焼き魚の切り身が追加で提供されている。
シャクラはシレーネ宛のメモを手早く用意し、念のため口頭でも伝える。
「わしらはこのままレムリウス王国を目指す。会都にて“ポーラいち有名なアルヴィ”について調べるゆえ、なにかわかったことがあれば連絡を、というわけじゃ」
「うーん、今のボクは知らないなぁ。前のボクならすぐわかったかも」
「必ずメモをシレーネに渡すのじゃ。よいな?」
「確約はできないネ!」
チェルシーは太陽よりもまぶしい笑顔でシャクラの言葉をかわした。
夕食で使用した食器を片付け、グリフィンはシャクラに促され仕方なくチェルシーの見送りをする。
「シャクラ、」
「ここは押さえよ。珍しいものが見れるぞ」
「どうせぜんぜん見えないのに?」
「それでもじゃ」
簡素な魅了封じをかけて貰い、グリフィンは前髪を上げてチェルシーの居る辺りを見る。
「じゃ、またシレーネシアでね~」
日が陰り薄暗くなった川沿い。そこに突如として赤と白の塊が出現し、助走もなく真上へと飛び立つ。鳥のような姿のそれは、グリフィンにもまばゆい不死鳥であるとわかった。
「どうじゃ、チェルシーはあれで単独行動が出来るゆえシレーネが重用しておるわけじゃが」
「……むかつくけど、きれいだね」
「そりゃどういう感情なんじゃ」
チェルシーの姿はすでに天高くに消えて見えなくなった。
シャクラは火の番をすると言い、グリフィンにテントで眠るよう促す。言われるがままにテントに入ったグリフィンに、シャクラは「要改善じゃな」とつぶやいた。




