34 たまにはおいしいものを食べに行こう
宿屋からそう離れていないところに、グリフィンの目的地はある。眠そうなヒトの多い街中を移動して、グリフィンは商業ギルドへ訪れた。
「む、こちらのギルドでよいのか?」
「あれ、ここ商業ギルドじゃなかった?」
「商業ギルドであっておるが、普通冒険者であれば冒険者ギルドの方に金銭を預けておると思うじゃろ」
「地元に冒険者ギルドはなかったけど、商業ギルドの小さい窓口はあったからね。お小遣い預けたりとかできて便利だったよ」
シャクラは以前訪れたグリフィンの地元――アンワズと会ったときのことを思い出し、商業ギルドにしては利益の出なさそうな場所に窓口を置いたものだと考える。アンワズの家と畑以外は森か草原で、遠くになだらかな丘があるだけの魔物がほとんどいない場所。のどかすぎて、武器は売れなさそうだ。
グリフィンは商業ギルドのロビーで、右奥の壁に掲示されている依頼を確認する。と言っても依頼は木の板ではなく紙で貼りだされており、グリフィンは困った声でシャクラに読み上げを頼んだ。
「ヘイゼル商会、っていうところからの依頼はないか見てほしいんだけど……」
「ほう、どれどれ」
シャクラはしばらく依頼の内容を見て、ちょこちょこと移動する足音をグリフィンは聞く。
しばらくして足音は止まり、シャクラが振り向いたところでグリフィンは「どう?」と声をかけた。
「これがそうじゃ。薬草の納品と書かれておる」
「どれどれ。や、く、そ、う、の、の、う……ひん。薬草の納品か」
シャクラに渡された紙を息で揺れるほど顔に近づけ、グリフィンは1文字ずつ内容を読む。
幸いにも、グリフィンの持っている分で数が足りそうだ。
「いっそ眼鏡でも調達するか? そんなに近くなければ文字が読めないなぞ、面倒じゃろ」
「眼鏡って何?」
「眼鏡というのは……いや、実物が手元にないのに説明しても仕方あるまい。その依頼を受けるなら窓口へ案内するが」
「よろしく」
グリフィンの返事に、シャクラは頷いてお互いの腕を組み、窓口まで誘導する。
グリフィンが窓口のカウンターに依頼の書かれた紙を置き、冒険者ギルドのギルドカードを提示すると、職員は「ご用件をどうぞ」と言った。
「この依頼を受けたいです。それと、口座からお金を下ろしたいです」
「かしこまりました。口座処理は奥の個室で対応させていただきますので、先に依頼処理をさせていただきます」
グリフィンが受けると言った依頼は、特定の薬草を指定の数量納品するというもの。幸い、グリフィンの空間魔術にはその薬草が指定の数量より多く入っていたため、その場で薬草を渡せば完了となる。
「薬草はこれで大丈夫だと思います」
「かしこまりました」
カウンター上に空間魔術から取り出した薬草を置く。採集したのは数年前だが、グリフィンが持っている間に劣化した様子はない。
薬草の検品を待っている間に口座処理をするとのことで、窓口の職員とは別の者が部屋を案内する。シャクラはついていこうと思っていたが、口座処理は1人でしかできないからとロビーで待つことになった。
案内されたのはどの商業ギルドでも同じつくりの、グリフィンにとっては見慣れた銀行の窓口。口座を作った場所以外でも、小窓から口座を持っている証明となる物を提示すればお金の出し入れが可能になる。
グリフィンは小窓から、自身の人差し指ほどの長さを持つ藍色の針を提示する。細い中に見えるかどうかの金細工が施された針は、グリフィンが勇者パーティに加わると決めた日に貰ったものだ。
「今日はいかがいたしましょうか」
「匿名送金と、ポーラ王国連邦の通貨に両替して引出をお願いします。送金先はミンター領の、セルヒオ・マッシャーの口座に銀貨20枚を」
「かしこまりました」
セルヒオ・マッシャーはトレイの実の父の名だ。グリフィンはトレイが勇者として自分の収入が確保できるようになったときから、定期的に生活費を送金していたのを知っている。それゆえ、トレイの動けない今は代わりにと送金をした。
「引出はおいくらほどいたしましょうか」
「うーん、銅貨1枚ってどれくらいです?」
「原則として、クロスランド通貨とポーラ王国連邦通貨の直接の両替は行っておりません。間にシレーネシア通貨をはさみますが、銅貨10枚につき980トーカほどになります」
グリフィンはしばらく悩み、銀貨25枚を両替してもらう。手数料として両替1回につき200トーカ支払うことになったが、30数枚の紙幣と10枚程度の貨幣を受け取ることが出来た。
受け取ったお金を財布代わりのマジックバッグに入れ、残高を確認してからグリフィンはロビーへと戻る。
ロビーで待つシャクラは地図を見ていたようで、グリフィンがおよその方角に手を振ると駆け寄ってきた。
「薬草の検品が終わったそうじゃ、いかほどになるかわくわくするのう」
「わりと群生している薬草だから、買取価格自体はそうでもないと思うよ」
シャクラに手を引かれ、グリフィンは再び窓口へ。職員から依頼の達成報酬を渡され、手触りで額を確認するとマジックバッグに収納した。
と、シャクラがグリフィンの服を引く。
「グリフィン、懐に余裕があればなんじゃが……なにか肉を食べに行かんか? できれば、魔物肉の」
ちょっと照れたような、言いづらいような顔でシャクラは訴えかける。
グリフィンはたまの贅沢とそれを了承し、窓口の職員に良い店がないか聞いた。
商業ギルドの職員はいくつかの店を教えてくれた。その中でもお勧めだという店にグリフィンたちは向かうことにした。
「魔物肉と偽った普通の肉が出てくる店もままありますが、ここは専属の冒険者を雇っている高級店です。ドレスコードがありますが、確実に魔物の肉は取り扱っていますよ」
ただ、魔物の肉を食べるのはたいてい吸血種であり、彼らの活発な時間に合わせて深夜でなければいずれの店も開いていないという。
グリフィンたちは宿で日が暮れるまで仮眠を取り、街がにぎやかになったころに目を覚ました。
「わしはシレーネに持たされておるドレスがあるが、グリフィンは何を着るつもりじゃ?」
「えっと、クロスランドの礼服をひとつ持ってるから、それを着ようと思って」
グリフィンがそう言って空間魔術から取り出したのは、ややみすぼらしい礼服だ。目立つ傷やほつれはないものの、葉っぱがくっついていたり土埃がついていたりとこのまま人前に着ていくにはよろしくない。
「……しばし貸すがよい、手入れをする」
「ありがとう」
シャクラはグリフィンの礼服を、手早くきれいにすることにした。




