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3 グリューネ教会ロウリィトン支部1

 簡易救護所の入口で分かれたシャクラとグリフィンは、専用の待ち合わせ場所で合流して目的の町・ロウリィトンへ入る。この規模の町にしては珍しく、石造りの壁で町全体が囲まれており、どうやら国境に近いため警備が厳重になっているようだ。


「シャクラさん。ひとまず寝泊まりする場所を確保しようと思うのだけれど」

「さんづけなどいらんわ、おまえも疲れるじゃろう?」

「ならお言葉に甘えて。シャクラは宿を取るのと、町営の野営広場に場所を借りてテントを使うのと、どっちがいい?」


 冒険者同士ならともかく、シャクラはグリフィンの客である。グリフィン一人なら町の外で野営一択だが、ここは意見を聞こうと考えたのだ。


「ふむ。わしはどちらでも構わんが、いかんせん元手がない。野営はいかほどかかるかの」

「野営広場はたいてい、併設の管理所に利用日数を申し出て、所定の預け金を入れれば区画を貸してもらえる。預け金は場所によるから行ってみないと分からないな」

「では野営広場へ案内してほしいのう」


 シャクラの歩幅に合わせ、のんびりとグリフィンは歩く。

 野営広場は壁の内側にある休耕地をそのまま流用しているらしく、雑草だらけの地面がペグとロープで区切られているだけだった。

 管理所と書かれたテントについた鈴を鳴らし、中で寝ている管理人を起こす。


「預け金はいくらですか」


 管理所から這い出てきたのは、上半身は人間、下半身は蛇の『ラミア』と呼ばれる種族の男性だった。シャクラを見ると少し驚いたような顔をしたため、さすがにまともな服を着せたほうがいいとグリフィンは考える。


「預け金……ああ、一区画一泊銅貨五枚。代表者はこれに記名するか、ギルドカードを持っているなら見せること。帰りの時は貸し出し票かギルドカードをもとに本人確認をして、必要なら差額を。何泊だ?」

「今日入れて五日間でお願いします」


 グリフィンはギルドカードを見せず、銅貨を数えながら渡し差し出された書類へサインをする。管理人も銅貨を数えたのち、グリフィンに数字の書かれた鉄の札を渡した。


「区画の中ではたき火をしないこと。調理場、水回りとトイレは別のところにまとまっている。案内は必要か?」

「大丈夫だと思います」

「じゃ、何かあったら起こせ。ふぁあ」


 奥に戻る管理人。グリフィンは鉄の札に書かれた数字をもとに野営広場を進む。

 管理所からほど近い、雑草まみれの場所。そこが二人に割り当てられた区画だった。


「ここだと一つのテントに泊まることになるけど、シャクラはそれでもいい?」

「かまわんが、なにか問題が?」

「……ないね」


 まだ日も高いため、グリフィンはテントを立てず次のやりたいことをシャクラから聞き出す。


「そうしたら、この後はどうしようか。特に決めていなければ、あなたの服を調達したいのだけど」

「それもそうか。代金は……あとで返すでもよいかのぅ?」


 困ったように言うシャクラに、グリフィンは「手持ちと要相談かな」と肩をすくめた。



 グリフィンたちは運よく古着屋に入ることが出来、店員に協力してもらいながらシャクラの服を選ぶ。貸していた毛布は若干泥汚れが付いているので、グリフィンはあとで洗濯しなければと思いつつ空間魔術(ストレージ)に入れた。


「昨今の流行りはよくわからんの」

「流行というか、シャクラに似合う服を選んでもらったんだけどな」


 シャクラの瞳と同じ薄ピンク色のワンピースは、ふわふわと風でゆれてかわいらしい。靴は丁度いい物がなかったので、いくらか大きめのブーツを買った。古着屋の店員に着ている姿を気に入られ、おまけにと付けてもらった揃いの耳飾りは黒髪の合間に見える少しとがった耳を彩っている。

 ついでにシャクラ用の鞄も買おうと提案したが、シャクラは空間魔術(ストレージ)を使うことが出来ることが判明したためその話はなくなった。


「どうせなら、グリフィンも新しい服を調達してもよかったのではないか?」


 照れているのか、わざとらしい口ぶりでシャクラは言う。しかし、グリフィンは手持ちが心もとないから、と断った。


「あ、冒険者ギルドに着いたよ」


 大通りを歩くグリフィンたちの前に、『グリューネ教会ロウリィトン支部』と看板を掲げた建物がある。グリューネ教会とは、冒険者ギルドなどを運営する団体の名前だ。

 元をたどると、グリューネ教会はその名の通りグリューネというセイレーン族の女性が立ち上げた団体で、当時はまだ出現場所や倒し方の情報が共有されていなかった魔物から人を守るため、冒険者と人を仲介するために作られたという。


「シャクラは冒険者ギルドで何をするの?」

「ギルドカードの再発行と、魔物の素材の売却じゃな」


 シャクラは空間魔術(ストレージ)からこまごまとした素材を取り出し、グリフィンに見せる。グリフィンが見た限りでは、雑魚と一般的に言われるミニスライムや森ウサギの素材ではなさそうだ。

 グリフィンは首を傾げつつ、シャクラは肩をすくめながら冒険者ギルドの建物に入る。右手には依頼を中心に犯罪者の手配書や近隣の魔物の情報が貼り出される掲示板があり、左手にはちょっとした打ち合わせ用に使えるスペースへの扉がいくつか、そして正面にはギルドの窓口と二階への階段がある。

 シャクラはグリフィンの手を取ってギルドの窓口に進み、ギルドカードの再発行を依頼する。


「大変申し訳ありません。本支部は近日中に閉じるため、新規登録及び再発行業務を行っておりません」


 窓口を担当する女性は、さっぱりとした態度でそう言った。


「ほぁ」

「撤退予定、というのは?」


 グリフィンの質問に、窓口の女性は無言でコイントレーを差し出してくる。グリフィンがそこに銅貨を置くと、女性はそれをもとに話せる情報を伝えてくる。


「クロスランドでは現在冒険者不要論が出ていることから、国境付近の支部を除いたすべての支部の撤退が検討されています」


 グリフィンは追加の銅貨を置きながら他の質問をする。


「ありがとう。魔物の素材の買取、依頼仲介と金融業務はこれまで通り?」

「魔物の素材買取は規模縮小、依頼仲介は新規の依頼受付を終了し、商業ギルドへ斡旋(あっせん)しています。金融業務は引出・預入・両替のいずれも一回当たり銀貨十枚までに制限をさせていただき、貸付関係は返済を除いて終了しました」


 コイントレーが引っ込められ、女性は「素材買取をご希望ですか?」と聞いてきた。シャクラは空間魔術(ストレージ)から一握り分の素材を取り出し、差し出された金属トレイに乗せる。

 女性は金属トレイの上をしばらく観察したのち、難しい表情でシャクラに返却する。


「……どうやら、私では判別不能なもののようですね。専門の者を呼んできますので、一度お戻しください」


 シャクラは空間魔術(ストレージ)に魔物の素材を戻し、鑑定専門の者を待つ。

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