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-8 置き去りは最初で最後

 アストラット公国との国境にほど近い帝政ザルバニトゥの街、アダド。

 勇者パーティは魔王の所在について旅をしながら調査をしたところ、どうやら帝政ザルバニトゥの南部に広がる砂漠に魔王城があるという噂を掴んだ。

 ただ、魔王城の正確な位置は不明なことから、今後は魔王城を探すために彷徨うことになる。それゆえ、ヒトの流れが多いアダドにて物資の調達と追加の情報収集を行うこととなった。


「マッキンタイアは勇者様と姫の護衛、ケイトリンは情報収集に出ろ。ミンターは僕と買い物だ」

「断る」

「勇者様、そこは落ち着いて」

「ぼくにも予定がある、勝手に行動を縛るな」


 行うことと、なったのだが。

 勇者であるトレイはエマニュエルの指示を無視することがしばしばで、今日もその悪癖は発揮されていた。

 エマニュエルはわざとらしくため息を吐くと、姫──クリスティニアへ護衛が減ってしまうことを詫びる。クリスティニアは先約があるなら、とトレイを許した。

 仕方なく、トレイは本人の言う予定の通り、彼以外はエマニュエルの指示した通りに行動を始める。


「まったく、どうして勇者様はああなのかね。親のしつけがなってないのではないか」

「それは、ごめんなさいね?」

「何故お前が謝る?」


 トレイの養父であるグリフィンは、どことなく責任を感じてエマニュエルに謝罪する。エマニュエルは怪訝な顔をして、しかし興味がないのかそれ以上の話は無視していた。

 エマニュエルがグリフィンを連れて買い物に来たのはアダドの市場だ。道の両脇に所狭しと店が広げられ、少しでも立ち止まればヒトがぶつかってくるほどごった返している市場は、アストラット公国が近いせいか、かの国に多い犬人が多いように見えた。

 いくつかの店を回り、砂漠探索のための装備を調達する。エマニュエルはグリフィンのマジックバッグにどれだけ物が入るのか試しているのか、水を大樽で20も買い付けて店員を驚かせていた。


「……?」


 そろそろ昼になる、といった時間。グリフィンは不意にエマニュエルが知覚できないことに気が付いた。

 エマニュエルは勇者パーティというあり方に不満があるのか、時折こうして自身の気配を消してしまうことがある。グリフィンはその度に足音を頼りにエマニュエルの居場所を当てて適当についていっていたのだが、こうも足音が多い環境ではそれも難しい。

 もしもこの雑踏の主が犬人だけなら、足音が明確に異なるため|エマニュエルを聞き分ける《当たりを引く》のは難しくないだろう。しかし、エマニュエルと同じ只人(ヒューマン)もそこそこ歩いているため現実的ではない。

 しばらくその場に立ち止まっていたグリフィン。エマニュエルらしき足音が見つからなかったため、市場の出口に向けて歩き出した。


(エマニュエルも、ひとりになりたい時があるんだろうな)


 市場を抜ける。只人(ヒューマン)の足音の割合が増える。グリフィンはエマニュエルに近い足音のひとりを追って、アダドの街を歩いていく。

 街をじぐざぐと縫うように歩いて、グリフィンがたどり着いたのはアダドにある学校付きの公園だった。公園はアダドの中では珍しく石畳が敷かれており、中央にある噴水が大きな水音を立てている。

 グリフィンは噴水のふちに座り、ぼんやりと空を見上げる。猛禽らしい影が遠くにひとつ、青空の中に浮かんでいた。


(トレイはどこに出かけるって言ってたかな)


 グリフィンはトレイが昨夜話していた内容を思い返す。トレイはグリフィンに必ず行き先を告げていくので、おそらくは昨日聞いていたはずだと。


(……ルイスの名前が出てたな、そういえば)


 記憶の端を捕まえたグリフィンは、そのまま昨夜のことを思い返す。

 ──この街ならヘイゼル商会の大きい支店がある。

 ──久々にルイスに会えないか、連絡を取ってみようと思う。


(じゃあ、ヘイゼル商会に行けば会えるかな)


 トレイはグリフィンの叔父が経営する商店に行くと言っていた、それを思い出してグリフィンは噴水のふちから降りる。

 と、石畳を聞きなれた足音が走ってきた。

 足音の持ち主──トレイに手を取られ、グリフィンはへにゃと力の抜けた笑顔を浮かべる。


「フィー! どうして、こんなところに?」

「んー、トレイに会おうと思って?」

「ん゛っ」


 ぎゅ、と握られた手に力が入る。グリフィンは心配させてしまっただろうか、とトレイの好きにさせることにした。


「市場でアングラード卿とはぐれてしまって。ヒトが多いところに行くものじゃないね」

「それはエマニュエルに問題があるだけ。フィーがはぐれやすいのなんてとっくにわかってはず」

「あはは」


 そうは言っても、あのパーティではトレイ以外から良い感情を持たれていないのは分かり切っていることだ。グリフィンは適当に苦笑いでごまかした。


「それで、用事は済んだの?」

「あー、えっと。今、向こうにいるんだ、ルイスが」

「へえ」


 どうやらトレイの会いたがった相手、ルイスはこの街にいたらしい。

 興味津々と言わんばかりの声色だったからか、トレイはグリフィンの手を軽く引いて「いっしょに会おう?」と聞いてきた。


「うん。おれも会いたいから、案内してほしいな」

「……ありがと」


 トレイはぎこちなく礼を言い、手慣れた様子でグリフィンを案内する。


 その後は、どうなったのだったか。グリフィンは思い返すが、もう2年も前の話だ。

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