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31 不可逆軌道計画的旅

 翌朝。宿屋をチェックアウトして、明るい街並みをグリフィンたちは歩く。

 街には漁師だろうヒトが歩いており、とうに今日の漁は終わらせたのか酒場が活気づいている。大通りはレンガでできた道しかないが、脇道に逸れると小舟がすれ違うことが出来そうな水路があった。


「ソディストリアは水産業が盛んな国のひとつでな。ここらの水路は釣り上げたものを素早く運ぶための道というわけじゃ」

「へえ」

「かつてと道が変わらんのなら……ほれ、あのあたりがギルドじゃ」


 大通りから少しばかり逸れた場所に、『グリューネ教会ソディストリア港支部』と看板を付けた建物が建っている。グリフィンがシャクラのいる辺りに視線を向けると、大通りは商業ギルドと漁業組合が使っているからとヒトの少ない通りにある理由を教えてくれた。

 グリューネ教会(冒険者ギルド)に入ると、ラウンジには地図や依頼が貼りだされ、ヒトはほとんどいないようだった。冒険者もとうに仕事に出ているのだろう、朝が早く勤勉なのだなとグリフィンは思った。

 受付までシャクラに手を引かれ、グリフィンは「人探しをしているのですけど」と職員に伝える。


「依頼の掲出ですか? それとも、情報を?」

「出来れば後者でお願いしたいのですが、場所を移した方が?」

「いえ、こちらで大丈夫です。遮音などの魔道具を使いますし、この通りヒトはおりませんので」


 カウンターの上に砂時計のような魔道具が出され、職員は「どのような情報をお求めで?」とグリフィンに問う。


「“ポーラいち有名なアルヴィ”、という方を探していまして」

「なるほど。失礼、身分証はお持ちですか? 可能であれば、お持ちのすべてを確認させてください」


 グリフィンは戸惑いながら、自身のギルドカードと入国許可書をカウンターに出す。職員は目視で内容を確認すると、グリフィンにそれらを返却した。


「大変申し訳ありませんが、この件についてお渡しできる情報はございません」

「えっ」

「情報の対価は不要です。他の事で、何か知りたいことは?」

「どうして教えてくれないか、は聞いてもいいですか?」

「お答えできません」


 砂時計は下げられ、グリフィンは肩を落とす。

 それは商業ギルドでも漁業組合でも、何なら市場にある店でも同じで、誰も“ポーラいち有名なアルヴィ”について答えることはなかった。

 昼休憩にと立ち寄った公園にて、噴水のふちに腰かけたシャクラは不満を隠さず頬を膨らませる。


「グリフィンが聞いて答えぬのはまだよい。ただ、わしが聞いても答えんというのはなぜじゃ?」

「“ポーラいち有名なアルヴィ”さんが、あちこちを黙らせるようなヒトが後ろ盾になってるとか、かなあ。例えば、王様とか」

「ソディストリア王がか? であればあの額で落札したのもわからなくはないが、しかしなあ」


 そうして話しているうちに、ぐぅとグリフィンの胃が自己主張をする。シャクラは溜息を吐き出し、グリフィンから小遣いを受け取って昼食を買いに向かった。

 グリフィンはシャクラの座っていた場所に代わりに座り、グリフィンは探し人について考える。


(多分、王様というのはいい線をいっている気がする。身分証明書が必要っていうのは偉い人に関することを聞いて回っているからだろうし。でも、“ポーラいち有名なアルヴィ”というくらいだから、本人が王様とか?)


 むーん、とグリフィンは悩む。そして、シャクラと本人が王様説について相談してみることにした。クロスランド国内の今のことであればまだしも、国外のことは何もわからない自覚があるからだ。

 しばらくして2人分のサンドイッチを持って戻ったシャクラに、グリフィンはサンドイッチにを少しずつ食べながら考えを伝える。


「“ポーラいち有名なアルヴィ”さんて、そのヒトが王様とかありそうだと思うんだけど」

「それもそうじゃな。しかし、であればシレーネの情報網にかかりそうな気がするのう」

「……それも、そうだよね」


 グリフィンは想像が外れたことに落ち込む。シャクラは慌てて、グリフィンの意見をすべて否定したいわけじゃないと付け足した。


「本人が権力者というのはありそうな話じゃ。どこかしらで貴族名鑑を読めれば確かめられるか」

「貴族名鑑って、偉い人が載ってる本だっけ」

「ざっくりと言ってしまえばの。ポーラ王国連邦に含まれる国すべての貴族名鑑が読める場所というと、やはり会都を目指すのが手っ取り早いかの」


 シャクラは大きく口を開けてサンドイッチにかぶりつき、残っていた分を平らげる。


「かいと?」

「そう。ポーラ王国連邦で最も大きい街じゃな、国としてはレムリウス王国に属しておる。ポーラ王国連邦の全体の王はレムリウス王国の国王と兼任のはずじゃから、仮の拠点を置くにしても貴族名鑑を読むにしても便利じゃ」


 シャクラは指に着いたソースを舐め、サンドイッチの包み紙でぬぐう。

 グリフィンたちはグリューネ教会(冒険者ギルド)に戻れば地図が確認できることから、それを見てから会都までの道を考えることにした。


 グリューネ教会(冒険者ギルド)に戻ったグリフィンたちは、ラウンジの壁に貼りだされているポーラ王国連邦の地図を見る。

 と言っても、普通の距離で見ることが出来るのはシャクラなので、グリフィンはシャクラの話を聞いて雑に相槌を入れるだけだが。


「この街から会都までは、西へひたすら進めばよいな。馬でぶっ通しなら半月かからんはずじゃ」

「馬とおれが死んじゃうよ」

「馬はともかくとして、お前は確かに死にそうじゃな。そうすると、どの国なら安全かのう」


 馬は資金さえあればグリューネ教会(冒険者ギルド)で借りることが出来るため、シャクラは馬を使う前提で通過する国を考える。

 グリフィンはシャクラの言葉に、そんなに治安のばらつきがあるのかと聞いた。


「そんなに治安の悪い国があるの?」

「治安云々というより、お前と国の相性を考えててのう。例えばの話として、吸血種(ヴァンパイア)の国に入るのであれば日中に通過した方が良いし、森林や竹林に住む洞人(エルフ)の国に入るのであればお前の顔はさらさぬように気を付けんといかんのう」

「面白そうだから、そういう国は通ってもいいと思うけど」

「であれば、最短経路か。観光は無しで良いよな?」

「もちろん。あ、でも手持ちが怪しいから、途中で稼いでくれると助かるな」


 グリフィンだけであれば、野草を調理するなり罠猟をするなりと食料が確保できる。しかし、ラインカーディンへ向けて移動していた時はシャクラのせいか野獣や魔物がほとんど見つからなかったので、水や食料を大量に買い込まなければならないだろうと見当をつけていた。


「では、多少大回りになるがダンジョンのある辺りを通過するとしよう。グリフィン」

「はい」


 手を差し出してきたシャクラに、グリフィンは手持ちの資金から当面馬を借りるのに足りるくらいの額を渡す。幸い、すぐに動かせる馬を2頭借りることが出来たので、グリフィンたちは馬を引きながら街の外へと向かった。



 シャクラたちがソディストリアの港町を出発した頃。


「陛下、いくつかお耳に入れたいことが」

「どうした、バルトロメオ。中庭の様子なら聞き飽きたが」

「いえ、それではなく。シレーネシアより内密の連絡が、それも複数の方法で届いております」

「なに?」


 山羊頭の、声からするに男性は陛下と呼んだ相手の執務机に複数の紙を置く。

 いずれも同じ書名と印のある、しかし1枚1枚別の魔術印が刻まれた紙は確かにシレ―ネシアの使用する公的文書の用紙であり、ざっと目を通すと『近く使者がそちらを訪ねる』ということが書かれている。


「使者。シレーネシアから私にか」

「陛下」

「どうせ私とお前しかいない。それに、私に文句を言うような胆力のあるものは眠っているさ」

「それでもです、陛下」


 お互い苦々しい表情を浮かべ、溜息を吐く。

 山羊頭の男性は、他の報告事項についてを述べる。


「また、ソディストリアの執政官よりシレ―ネシアからの入国者で妙な2人組があったと報告が来ています。外見上は兄妹のようですが、兄の方は髪を染めている可能性が高いと」

「時期的に使者の可能性が高いが、動向は追っているか?」

「本日昼前の時点で、“ポーラいち有名なアルヴィ”様について聞いて回っていたと商業ギルドから連絡が。おそらくはグリューネ教会(冒険者ギルド)でも同じことをしているでしょう」

「……なるほど。グリューネ教会には確認を、その2名には監視を付けろ。複数だ」

「既に諜報部の者を2名付けております」


 陛下と呼ばれた者は、山羊頭の男性の報告に納得した様子で他になければ下がるようにと伝える。

 執務室には、重たい空気が漂った。

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