29 ポーラ王国連邦へ向けて
執務室を退出したふたりは、ポーラ王国連邦へ向かうための支度について話しながら歩く。
「まずはポーラ王国連邦ゆきの便があるかどうかじゃな。それと、わしの着替えを用意した方がよいか」
「シャクラ、今あまり手持ちないんじゃないの? 個人タグから送金、っていうのおれもやってみたいし、両替の出来るところに行きたいな」
「両替は直前でよいとして、送金はその辺の機材からできたはずじゃ。例えばそこの案内の」
シャクラが指したのは、無限図書館内に等間隔で設置されている銀色の機材だ。グリフィンからすると金属製の不思議な箱にしか見えないが、シャクラは慣れた様子でその表面に指を滑らせる。
「ほう、ここから航空部隊の便が取れるとは。シレーネシアは便利じゃの」
「そうなの? この箱すごいね」
「箱て。まあ、シレーネシアかポーラ王国連邦でもない限り稼働する端末なんぞ見ないわな」
てちてち、という箱の表面に触れる音を聞きながらグリフィンはシャクラの気配を見つめる。個人タグを出すよう言われ、指示の通りに箱に何度か触った。
「よし、これで便は確保できたの。あとはメアカンフスで個人タグを出せばポーラ王国連邦に行ける」
「いつの便を取ったの?」
「明日の10時発、ポーラ王国連邦を構成しておる国のひとつ、東端にあるソディストリア行きの便じゃ。到着は夜になる見込みじゃから、2食分用意せんとな」
食事と、着替えと、とシャクラは指折りをして考える。
グリフィンはシャクラに自分の支度をするように伝え、明日の朝7時に食堂で落ち合う約束をした。
翌朝。待ち合わせをしたグリフィンたちは、食堂で朝食を取りながら直前の買い物と両替についてを話す。
「何か買い忘れはない? 着替えは言ってたけど」
「そうじゃなぁ。魔物の干し肉も調達できたことじゃ、あとはもういくらか路銀の用意が出来ればよかったが」
「シャクラも空間魔術があるんだし、不用品を売るか高そうなものを質に入れるかすればいいのに」
「それも考えたが、わしの持っておるものを質にして金を貸してくれそうな知り合いはおらんからの」
がじがじと木製のフォークをかじりながら、シャクラは口をとがらせる。
グリフィンは「シレーネさんなら」と聞いてみるが、シャクラは言いにくそうに目を細めた。
「いやなに、わしにとって手元にないものは興味がないものゆえ、シレーネにちょいと金を借りてしばらくほったらかしてしまったことがあっての」
「……シャクラ、それはシレーネさんからの当たりも強くなるよ」
むしろ、なぜ今だ口を利いてもらえているんだとグリフィンは呆れる。
シャクラの主観で言う「しばらく」の時間はどれくらいなんだ、という言葉は朝食のレタスと共に飲み込まれた。
朝食を終えてすぐ、グリフィンたちはメアカンフス島の空港へ移動した。メインホールで搭乗手続きを済ませると3番の待合室に行くよう案内されたので、言われた場所で質素なベンチに腰を落ち着ける。
「そうじゃグリフィン、待ち時間に多少魔術を習得せい」
「出来るように思えないんだけど、思いつきで言ってない?」
「勢いではないわ。ほれ、こいつを読め」
シャクラが空間魔術から取り出したのは、やや重く厚みのある本。グリフィンはいぶかしむように見て、これは何だとシャクラに聞いた。
「これは魔導書という、昔のヒトが“時間をかけずに魔術を習得する”という手抜きと時短のために考えた技術の結晶じゃ。原理的には、一通り読めばいかなるヒトにも存在するという魂に特定の魔術のやり方を書き込む」
「痛そう……」
「覚えようとする魔術や魔導書との相性が悪ければ痛いと聞くが、それは風属性の遮音魔術を習得するための魔導書じゃ、お前なら問題なかろう。時間が余ったなら他にもいくつか読んでほしい魔導書はある、いくらでも言うがよい」
グリフィンは面倒だと思いつつ、専門の学校に通うわけでもなく魔術を覚えるいい機会だからと魔導書を開く。とたん、鮮明な文字がグリフィンの視界に踊り、それを目で追ううちにグリフィンは魔術を会得していることに気が付いた。
「ん、覚えた」
「それはいい。ではこれとこれも読むのじゃ、水が必要な時に便利じゃぞ」
そうして魔導書を読んでいるうちに、グリフィンたちの乗る便の搭乗時間がやってくる。グリフィンは読んでいる途中の魔導書が気になるからとそのまま立ち上がったので、シャクラは心なしか嬉しそうにグリフィンの腕を引いた。




