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25 青のゆうしゃさまものがたり(B面)

 グリフィンが絵本を読んでいる頃。シャクラはシレーネと共に蒐集された情報の整理と解析を行っていた。

 手元で進む作業に暇になったシャクラは、必然シレーネがグリフィンに貸した本についてを話題にする。


「あれらの本は、とうに研究され尽くしれおるのではないか?」

「そうですね。一応ですが絵本の内容を説明しておきましょう」


 シレーネはつらつらと、目の前にある本を読み上げるかのように絵本の内容をシャクラに伝える。シャクラは自身の記憶と内容をすり合わせて、手元の仕事を止めないよう気を付けながら聞いていた。


「……と言うのが400年前から現在まで残る絵本物語です。もう一冊として渡した『回顧録』の内容を参照すれば大半は創作とわかりますが」

「そうじゃの。そもそも、青が剣を教えるというのがおかしい。あれの専門は暗殺と遠距離戦じゃろ」


 久しく会っていない面々も含め、シャクラの脳裏に魔王たちの顔が浮かぶ。

 赤、青と橙は魔王が揃ったすぐの、魔物との戦いで前線近くで肩を並べたから。紫、緑と(シレーネ)は、後方支援として生存圏を維持していると知っていたから。誰も彼も鮮明に思い出せる彼らのうち、少なくとも赤と緑は間違いなく死んでいることに、シャクラは感傷のような気持ちを抱いていた。


「かの勇者が教わったのは確かに剣でした。しかし魔物を討伐するようなものではなく暗殺に用いるような対人・対人型のそれです」

「それならまだ納得出来るのう」

「……青が勇者を育てていなければ、兄さんも討ち取られることはなかったでしょうに」


 シレーネは手元の資料のふちを合わせ、リングファイルに綴じた。『備品一覧』という表題と共に番号の振られた冊子には、名称、用途、出身地が記載されている。


「さてシャクラ。ミンターさんの健康診断とスキルの確認のスケジュールを設定しましたので伝えてきてください。健康診断は体調不良の場合日程変更が可能であることも添えていただけると幸いです」


 グリフィンのために印刷した予約票をシャクラに預け、シレーネは次の仕事に向かう。

 シャクラは適当に全うする、と告げて自分の部屋に向かった。



 翌日。朝食に誘いに来たシャクラに起こされて、グリフィンはやや眠たいながらもシャクラと共に食堂に向かう。


「シレーネから健康診断の予約票を預かっておっての。今日は何を頼もうか」

「おれ空サラダ定食がいい……」

「なんじゃ、あれが気に入っとるんか。主食もおかずも葉っぱではないか」

「おれ、葉っぱ好き」

「ならよいが」


 古い文体でつづられた『回顧録』を少しずつ読んでいたために、グリフィンは眠たくてふにゃふにゃと話している。シャクラは仕方なさそうにグリフィンを眺めながら、長い前髪を指先で揉んだ。

 注文から少し間を置いて運ばれてきた朝食を食べながら、シャクラはグリフィンに予約票を渡す。


「グリフィン。健康診断じゃが、マンテマス島に医局があるゆえそちらで行うそうじゃ。マンテマス島まではわしも同行する、日取りはここに書かれておるものでよければこのまま受け取るがよい」

「んー」


 もしゃもしゃとサラダを咀嚼しながら、グリフィンは予約票に書かれた日程を見る。『シレーネシア時間6月21日昼12時より』と書かれている。


「シャクラ、シレーネシア時間の6月21日って、いつ?」

「今日じゃろそんなの。そこにカレンダーあるじゃろ」


 ズゾー、と下品な音を立てながらシャクラは麺をすすっている。熱々の魚介スープに沈んだ麺はそんなにおいしいのか、とぼんやり考えながら、グリフィンは「今日かぁ」と目をこすった。

 朝食後。健康診断までに本を借りたいとグリフィンは言い、シャクラも付き合って無限図書館へ。

 グリフィンは無限図書館の開架を歩き、呪術に関する本をいくつか借りる。マンテマス島までの便はシレーネシア国内を周回している定期便に乗ればいいようで、定期便乗り場で本を読みながら時間をつぶす。

 手持無沙汰になったシャクラはグリフィンの借りた本を又借りして、つまらなそうに目を通す。


『呪いを解除するには、術者に解除させることが最も容易である。ほか、術者の血液を使用する、術者の血族の生き血を使う、術者の遺灰を使用するといった手段も存在する』


 定期便の到着アナウンスが流れる。グリフィンを小突き、シャクラたちは定期便に乗り込んだ。


 グリフィンはマンテマス島で健康診断を受けた。昼食の時間帯から始まった健康診断は、夕暮れから夜に切り替わる前に終了した。


「結果はこちらの紙面にまとめておりますので、よろしければご家族の方とご相談の上、矯正器具の利用をご検討ください」

「はい」


 渡された紙を手に、シャクラの居る待合室へグリフィンは向かう。健康診断の会計は必要ないといわれたため、後は部屋に戻るだけだ。

 シャクラは待つのに飽きたのか、頭をぐらぐらと揺らしながら眠気に耐えていた。グリフィンが近くまで歩いてくると、ふが、と言って無理矢理目を覚ます。


「すまん、うっかり寝ておったようじゃ」

「別に待ってなくてもよかったのに」

「寂しいことを言うでないわ。それに、先に帰ろうにも定期便がない時間での」


 シレーネシア国内の定期便は住民しか使用しないがゆえに、朝昼夕の時間を除いて1時間に1本も運行していないことがよくある。定期便以外ではやや値は張るが臨時便を使えば目的の島まで移動することも出来るが、臨時便の価格は定期便の30倍からのため手持ちの資金が心もとなくなったシャクラに選ぶことはできなかった。


「健康診断はどうじゃ? おまえくらいの年頃なら背が伸びただの体重が増えただのとあろう?」

「えっと、」


 定期便乗り場まで歩きながら、グリフィンは診断結果の書かれた紙を広げ、シャクラはそれを覗き込む。

 身長と体重は年齢の割に値が小さく、聴力は十分だが視力が記載されていない。いぶかしげに顔を見てくるシャクラに、グリフィンは「計測不能だって」と答えた。


「計測不能? では見えておらんということか?」

「見えてないわけではないよ。だってシャクラがおれを見ているのはわかるし」

「ではどういうことじゃ」

「元々だいたいの色しかわからないんだけど、おれは丸の向きがわからないから計測出来ないんだって」


 そう言われて、シャクラは診断結果の紙を隅々まで見る。特記事項の欄には『視力0.01未満と思われるが、色の識別はできるため記載せず。魔力を見ている可能性あり』と書かれていた。


「わしの顔は分かるんじゃろ? それならあの丸くらいは読み取れそうな気がするがのう」

「シャクラの顔は分かりやすいから。髪の毛が黒くて、肌があって、目の色はちょっとわかりにくいけど」

「眼鏡で何とかなる範囲越えておらんかそれ」

「今まで困ったことはないもん」


 ぷう、と頬を膨らませるグリフィン。シャクラはグリフィンの手を取り、その骨っぽさににもっと食わせなければと呟いた。

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