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2 荷物持ちは少女と出会う

 肌寒さに目を覚ます。


 寝ている間に蹴ってしまったのか、テントの入り口が半分程度開いている。

 くるまっていたはずの毛布がなくなっていることに、もしや物取りにあったのかと心配になった。想像するに、手荷物はほとんど空間魔術(ストレージ)に入っているため、取れるものがないから毛布を持ち去ったのだろう。幸い、空間魔術(ストレージ)には元パーティメンバー分の毛布が存在するため、わざわざ取り返したりする必要はない。


 寝ぼけ眼をこすりながら、煌々と輝くカンテラを片付けてテントの入り口を留めなおす。簡単な朝食を口に押し込み、テントを片付けて町へと急ぐ。

 寝て疲れが取れたのか、脚がだいぶ楽になっている。これなら予定よりも早く町にたどり着けそうだ。


「よし、」


 林の中を進む。この先は町まで魔物の出現は少ないと聞いているから、遭遇したとして一度か二度だろう。もし遭遇してしまったら、全力で逃走すればいい。

 そう思いながら歩いていたのに、町の手前、林を抜けるまで魔物に遭遇することはなかった。

 むしろ、魔物がいないことで空ぶった冒険者に林を抜けるまで同行してもらうことができて──護衛のように使ったのだから、当然こちらは一時的に消耗品などの荷物を持ったりはしたけれど──安全だった。


 林を抜けてすぐ、町の門より前に展開されている簡易救護所にたどり着く。

 簡易救護所は、その名の通り簡易な手当や治療をしたり、町に入る前に簡単に汚れを落としたりされる施設だ。基本的には誰でも通るよう言われるし、通らなくていいとしたら軍が緊急事態で飛び出すときくらい、と聞いている。

 ダンジョン帰りの汚れたままで人の多いところに行くのはたいてい禁止されているので、町に入る人はここで洗浄魔術をかけられる。たまにいる洗浄魔術で弱る人は、何日もお風呂に入れられれば通れるとか。

 宿に泊るだけならなんとか、と思いつつ簡易救護所へ一歩踏み出して、


「ちょおっと待つのじゃ、そこの」


 と、襟首を掴まれて林の方へ引きずり戻された。


 林に引きずり戻されてすぐ、襟首を掴んだ手は引っ込む。さっきの冒険者の荷物に渡し忘れがあったのか、それとも強請りか、と恐る恐る声の主を見ると、そこにいたのは見覚えのある毛布を身体に巻いた子供だった。


「その毛布、」

「んん? あぁ、ヒト前に出るなら服を着ろと言われとったが、あいにく服がなくてのう。悪いが、おまえの毛布を借りさせてもらったわ」


 はー、と大きなため息を吐く子供に、荷物持ちは半歩後ずさる。

 子供は何度か口を開閉して、荷物持ちが逃げないようにと言葉を選んだ。


「お前たちが魔王と呼んでいるモノはまだ生きているし、わしはおまえの秘密を知っている」

「!」


 荷物持ちの目つきが鋭くなる。子供はにたりと笑い、その慌てた様子をからかってきた。


「どうして、と言う顔じゃな。知りたいか?」


 荷物持ちは視線を逸さず退路を考える。


「……お前は魔王の配下か?」

「いいや違う。だがお前の気になるだろう、勇者にかけられた毒の解き方を知っている」


 荷物持ちの、斜めがけの紐を掴んだ手に力が入る。

 勇者が毒を受けたことは、王都の者たちしか知らないはずだ。ここまでの道中で聞いた噂話でも、そんな話はかけらも出ていなかったのに、この子供はどこでその話を知ったのだろうか。


「それは、おれがそれを聞いて、彼の毒を解くことはできるのか?」

「今のおまえには出来ない。条件と道具を揃えれば、それは叶う」


 取引をしないか。そう、子供は言って荷物持ちに手を伸ばす。


「わしは知識が欲しい。人がめったに来ない地で暮らしていたがゆえに、町に入る方法も冒険者ギルドの場所もわからん。おまえは何が欲しい?」


 荷物持ちは伸ばされた手を払うべきか悩み、取引の内容を考えて手を下ろさせる。


「それは、鉄級(下っ端)冒険者の仕事と変わらない。対価としてトレイの毒を解く方法を聞くには安すぎる。せいぜい銅貨三十枚の依頼だよ」

「わしには値千金だがの」


 どうする、と迫られて荷物持ちは再度考える。が、こういった駆け引きはたいてい魔導士が担当していたので、荷物持ちは得意でないとわかっている。

 考えるふりをして、真剣そうな顔をした子供の話を断るのも悪いと荷物持ちは話を受ける。


「わかった、取引を受けよう」


 荷物持ちの方から手を差し出し、子供はその手を取って握手をする。冒険者が直接依頼を受けるときは、依頼人と握手をするのが習わしだからだ。


「ただ、依頼内容は『五日間の護衛兼話し相手をすること』で、報酬は計銅貨三十枚の……百五十枚か。対価はお金でも、毒の解き方でもいい。生活費が心もとないから、いざとなったら別の依頼も平行で受けるよ」

「何にせよ、取引成立じゃな。わしはシャクラという、おまえの名は?」

「グリフィン・ミンター。銅二級の冒険者をさせてもらっている」


 荷物持ち――グリフィンはシャクラと握手をする。


「早速じゃが、町に入りたい。どうすればいいかのぅ」

「それなら、おれが向かっていた方に簡易救護所がある。そこに行けばいい」


 町に入るには、簡易救護所で洗浄魔術を受けないといけない。お互い見た目に汚れたところはないが、それはそれだ。

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