24 青のゆうしゃさまものがたり(A面)
あてもなく人の声がする方へ進むグリフィンたちだったが、通りすがりの無限図書館職員に保護され健康検査を通される。特に変なものを持ち込んでいないことが確認されると、しばらくしてシレーネが迎えにやってきた。
近くにある応接間に案内され、シレーネとグリフィンたちは向かい合ってソファに座る。シャクラは部屋の壁に設置されている本棚に興味があるのか、きょろきょろと落ち着かない様子だった。
「ふたりともお帰りなさい」
「ポータル石の設置、無事完了しました」
「ありがとうございます。ミンターさんはそれが地毛ですか?」
「そうです」
執事が2人、音もたてずワゴンを押しながら入室する。紅茶とコーヒーの用意があると言われ、シャクラとシレーネはコーヒーを、グリフィンは紅茶を要望する。
ぎこちなくカップを置く、執事の1人。その足音に聞き覚えがあるような気がしたグリフィンだが、ぼんやりとした記憶から当たりを引き当てることはできなかった。
「次にお願いしたいことまでしばらく日が開きますので島内でご自由にお過ごしいただければ幸いです。シャクラには仕事がありますから逃げないでくださいね」
「のじゃー?!」
部屋は先日と同じ場所がそのまま使えるようになっているとシレーネに言われ、グリフィンは少し間をおいて日記の買取を話題にする。
「貰っていたノートがもう書けなくなったので、よければお渡ししたいです」
「拝見させていただいても?」
「どうぞ」
グリフィンは空間魔術からノートを取り出してシレーネに渡す。シレーネはその場でパラパラとページをめくり、シャクラは横からノートを覗き込む。
「何じゃ、どこも右側しか書いとらんではないか」
「仕事の邪魔なので覗き込まないでください」
「半分しか使えておらん、もったいないではないか」
「仕事の邪魔なので覗き込まないでください」
グリフィンのノートは右側のページのみ痕が付くほど強く書き込まれており、ところどころ文字が横に伸びている。グリフィンはそういうものだろうと首をかしげる。
「新しいノートは部屋に届くよう手配しておきます。また省略していました健康診断を次の出発までに受けていただきます」
「けんこうしんだん?」
シレーネは、簡素ながらも多色印刷されている冊子をシャクラとグリフィンに渡す。グリフィンは初めて聞く言葉なのか、不思議そうに繰り返したのちシャクラの方を見て説明を求めた。
「別の地域に行ったときに受けるものより、より詳しく調べることじゃ。病気をしているしていないよりも、己がかたちを数字で識ることが出来るよい機会じゃぞ」
「へぇ」
「健康診断の結果によっては矯正器具の使用を推奨することもあります。例えばモノを見る力が極端に弱い場合は私のように眼鏡の使用をするように、例えばモノを聞く力が極端に強すぎる場合は専用の調整器具を使用するようにと」
指先で自身の眼鏡のテンプルを触りながらシレーネは伝える。グリフィンは話をほどほどに聞き流しながら、髪を染めるのは健康診断の後がよさそうだと判断した。
「最後に。こちらを用意させていただきました」
シレーネが卓上に出したのは、グリフィンの名前が彫られている何かしらのカードだった。手に持ってみると、金属か何かでできているのか固くひんやりとしていることが分かる。
「こちらは禁帯出を除いたすべての収蔵品を利用・持ち出しできる許可書です。今後も私の元で働いていただく以上魔王ないし魔神に関する資料を読みたいときもあると思いましたので用意させていただきました」
「魔王のことはおじいの本で少し知っているけど、あの本より詳しいものもあるの?」
「もちろん。いくつか見せましょうか」
シレーネが指を揺らすと、応接間の本棚から絵本と日記帳風の本が1冊ずつ、蝶のようにはばたきながらやってくる。絵本には『青のゆうしゃさまものがたり』と、日記帳風の本には『回顧録』と表題が付けられていた。
「こちらの絵本は最後の青の勇者、魔王の言う“神託勇者・青”ケイ・ミンターの逸話を子供向けにまとめたものです。そしてこちらの冊子はケイ・ミンター本人の手記を印刷物にした物です」
「おじいのご先祖様だ。借りてもいいですか?」
「どうぞ。私個人としては先に絵本を読むことをお勧めします」
借り受けた2冊を手に、グリフィンは部屋まで案内される。
何日か前に出発した後に掃除されたらしい部屋に、グリフィンは靴を脱ぎ捨てて伸びをする。
『回顧録』を読むのは後回しにして、ベッドの上にうつ伏せに転がって『あおのゆうしゃさまものがたり』を開いた。
『青のゆうしゃさまものがたり
むかしむかしのことでした。あるところに、青の勇者様がいました。
勇者様は、剣を教えてくれる冒険者さんといっしょにたくさんのばしょをまわります。
むこうで魔物が大あばれ! 勇者様は1も2もなくとびだします。
あっちでダンジョンが見つかった! 勇者様はダンジョンの主を倒してきました。
勇者様は、ずっと冒険者さんといっしょに、たくさんのばしょをまわっていました。
ある日のことです。
「冒険者さんがおかしいな。どこか怪我をしたのかな」
勇者様は冒険者さんを会いに行きました。
でも、会えたのは冒険者さんではありませんでした。
冒険者さんそっくりの顔をして、冒険者さんの服を着て、冒険者さんのふりをした、おそろしい魔王だったのです。
「冒険者さんは、どうしたのですか?」
「あいつは頭から食べてしまったよ。固くて、おいしいところなんてなかったさ」
怒った勇者様は、冒険者さんに教えてもらった剣でぐさり! 魔王はたちまち動かなくなりました。
勇者様は魔王を倒したすごいひとになりました。
冒険者さんと会えなくなった勇者様は、魔王を倒したところにいることにしました。
「私が死んだら、冒険者さんの隣のお墓にしてください。お墓のちかくには、たくさん木を植えてください」
勇者様のいうとおり、お墓のちかくには木が植えられました。
今でもお墓のちかくには、勇者様のために木が植えられているそうです。
おしまい』
グリフィンは絵本を閉じる。
絵本の中にはかかれていない、勇者の血族について思考を巡らせる。
青の勇者は魔王討伐からそう時間を空けずに没しており、埋葬後しばらくののちに墓前で拾われた赤子がアンワズの先祖に当たる。つまり、直接の血縁関係は怪しい存在ということだ。
それでも、青の勇者の実子だろうと推察される何かがあったはずだ。それが何だったのかだけでもわかればいいと思っていたグリフィンは、収穫がなかったことにやや落ち込んだ。
「でも、」
どうしておれが読みやすいのを出せたのだろう、とグリフィンは枕元に絵本を置いた。




