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23 彼の人の面影を見る

 夕焼けのまぶしい中。グリフィンたちがアンワズの家に戻ると、何やら慌てた様子のアンワズがどたばたと家から飛び出してくるところだった。


「おじい、なにかあった?」

「おお、それが今夜っからしばらく仕事が入ってたのを忘れててな。悪いが出かけてくる、ポータル石は適当にやってけ」

「もうそんな時期かぁ。がんばってね」

「ありがとよ。お前用の消耗品は店に置いてある、店員はおれと入れ替わりのはずだからよろしくな」


 畑の端にある案山子──よく見れば目としてポータル石がはめ込まれている──に触れてアンワズは姿を消し、入れ替わりに畑のあぜ道いっぱいに幅を取ったものがあらわれる。

 後ろに撫でつけられた麦色の短髪と、同じ色のまつ毛で縁取られた海色の瞳。美しい顔をしているが、それ以上に目立っているのはその身体だ。

 服で隠れていない顔は当然、服の上からでも腰の上までは均整の取れた男性のように見える。しかし腰から下は首無しの獅子となっており、おとぎ話にもあるケンタウロスの仲間のようだとシャクラは思った。


「こんにちは、ミンターの薬所に御用ですか?」

「ラムゼーさん、久しぶりです。グリフィンです」

「グリフィン。……アンワズの子、大きくなりましたね」


 獅子のタウル――ラムゼーはグリフィンたちの近くに来ると香箱座りになり、節くれだった大きな手でグリフィンの頭をなでる。力が強いのか、グリフィンの首はぐらぐらと揺れる。


「最近は転んでいませんか? 髪を染めていないようですが、地毛のあなたも素敵ですね。視力が落ちるので前髪を上げたらどうですか?」

「さすがにもう頻繁には転ばないですよ。それに、トレイがあまり他人(ひと)に顔を見せないようにって」


 年かさの親戚のようにグリフィンに絡むラムゼー。なでるのに満足したのか、腕はグリフィンの肩を掴み前肢でグリフィンの顔をもみ始めた。

 真剣な表情でもちもちと肉球を浴びせながら、ラムゼーはグリフィンを心配するような言葉を並べた。


「血色、呼吸、触診結果から、若干の睡眠不足と緊張感及び身体的な疲労が認められます。予定がなければ休息を取ることを推奨します。そういえば、トレイあなたのかわいいカルガモさんはどちらに?」

「トレイは空間魔術(ストレージ)にいるんです。見ます?」


 突然のカルガモ発言に噴き出すシャクラ。それを放置して、グリフィンはラムゼーに現状の確認をするかと聞く。ラムゼーはグリフィンの言葉に甘えて、と空間魔術(ストレージ)の中を覗き込む。


「おや、呪われているんですか。グリフィン、誰の恨みを買ったんですか?」

「なんでおれ? うーん、クロスランドの聖女様とか?」

「それは、解呪に手間取りそうな。彼が生きている間に解呪する気はあるんでしょうね?」

「もちろん」


 すぐそこにある家に向かって歩く間に、グリフィンはシャクラをラムゼーに紹介し、ポータル石の設置について相談する。ラムゼーはしばし考えた後、案山子の目として設置すればよいと言った。


「ポータル石は至近距離に複数存在しても、同時に使用しない限り挙動がおかしくなることはありません。それに、まとまっていた方が管理が楽だと思いますよ」

「そう? あ、お店にシャンプーとか置いてあるって聞いたから、受け取ったらまたどっかに行ってくるね」

「どこでも構いませんが、腰を落ち着けたら手紙をくださいね」

「届かないと思うんだけどね」


 はは、と笑うグリフィン。届くとしてもクロスランドの検閲を受けるだろうから、現在地を記すことはできないだろうとシャクラは付け足した。



 店のカウンターに置かれていた消耗品――グリフィン用の毛染め薬兼シャンプー――を受け取り、グリフィンたちは試運転を兼ねてポータル石を使う。

 景色がねじれ、しばしの浮遊間ののち無限図書館の一室と思われる部屋に到着する。ミンター領のあたりとは時差があるため、時計は店で見た時よりも少し進んでいた。

 部屋を出て、外に面した廊下を進む。歩き出してすぐは冷えを感じたが、いくつか扉を通り過ぎた時には春のような温かさとなっていた。


「どこに向かっておるんじゃ?」

「適当?」

「おい!」

「いや、ヒトの声がする方、かな?」


 時折へたくそな鼻歌を歌いながら、グリフィンは廊下を進む。

 シャクラは殺風景な廊下の風景に飽きて、窓の方に顔を向ける。薄暗い中に見える木々と、光の関係で映るグリフィンの横顔に、シャクラは友人の面影を見た。


「……アウローラ」

「あれ、誰か見つけた?」

「いいや。そういうわけではないのじゃ」


 見間違いだとシャクラはごまかす。グリフィンは少し歩調を緩めて、しかし止まらずに廊下を歩いて行った。

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