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21 勇者売買

 おれはその日、いつも通り起きて朝食を作り、いつも通り寝ているアンワズの上に飛び乗って起こして、いつも通り森への散歩に出かけた。



「待った」

「なあに?」

「森では惑わされるのではなかったか?」

「そうだね」



 森にはちいさなひと、おそらくは妖精だろうひとたちが住んでいて、おれはその妖精だろうひとたちと多分仲がよかった。少なくとも、おれは惑わされたことがないから。

 それで、その日は珍しく森の外まで妖精が来ていて、なんでも「市をやるからぜひ来てほしい」って言われたんだ。妖精たちの市はだいたい半年に1回くらいなんだけど、ああして呼ばれたのはその時だけだったな。

 市は森の奥の方の、大きな木の近くで開かれてて、店の一つの目玉商品としてトレイがあったんだ。



「待った」

「なあに?」

「人身売買……いやこの場合は勇者売買では?」

「その時はまだ勇者じゃなかったと思うよ」



 妖精とやり取りするときはきれいな石とかおじいの育ててる薬草を持っていく必要があるんだけど、トレイの値段はだいじなものをひとつ。

 特に思いつかなかったんだけど、妖精がみんなしてトレイを勧めてくるから、すごい困ったんだよね。

 だいじなもの、と言われても5才かそこらの子供だもん。思いつかなかったから、妖精に何ならいいか聞いたんだよね。


「何がほしいの? おれ、そんなにすごいもの持ってないから……目とか?」

「いらない!」「おこられる!」「もっといいもの!」「すてきなもの!」

「うーん、おじいはおれのじゃないし、じゃあ髪の毛とか?」

「いらない!」「つかわない!」「もっといいもの!」「なにかないの?」

「えー?」


 それで、おれはそのままトレイを放っていくことも考えたんだけど、だからといって帰してくれるとは思えなかったから、空間魔術(ストレージ)を文字通りひっくり返して探したんだ。

 そうしたら、1枚の大きな羽が気に入られて、引き換えにトレイを貰えたんだ。

 で、トレイを連れて帰ったんだけど、そこからトレイはおれの子になったんだ。



「待った」

「いいけど、続きはまた今度ね?」

「それはかまわん。しかし、勇者殿はどうしてグリフィンの子に? 血縁ではなかろう?」


 シャクラの言葉に、そういえばとグリフィンは思い出す。


「ミンター自治領だと、ミンターの森でヒトが拾われた時は種族年齢問わず拾われたヒトは拾ったヒトの子になる、っていう規則があるんだ。これはミンター家のご先祖の勇者……ケイ様も養母にして師匠となった方に拾われて勇者となった、その子と言われ今のミンター家の始祖であるクラーラ様も拾われて命を繋いだ、だからミンターのものは拾われたものを年齢・種族問わず子として育てるんだ」

「ほぅ、面白い規則じゃな。……もしや、グリフィンとアンワズも?」

「休憩は終わりだよ。もう少し作業したら、お昼を食べに戻ろっか」


 テントを片付け、トレイは斧を取って立ち上がる。

 シャクラからは木々が減ったように見えなかったが、見慣れていなければそんなもだろうと思った。



 アンワズは家におらず、グリフィンは空間魔術(ストレージ)から取り出した野菜で昼食を作る。シャクラは椅子に座って料理風景を見守っていたが、野菜しか材料として出てこないのを見て足をバタバタさせていた。

 出来上がった野菜のスープを前に、シャクラは物足りなさそうにほおを膨らませる。


「グリフィン、おまえもしや菜食主義か? わしはもうしばらく肉を食わんと力が落ちてしまうのじゃが」

「菜食主義っていうより、野菜の方が口に合うんだよね。魔物肉とか、魚は食べるよ」


 スープを2杯食べてなお不満そうなシャクラに、グリフィンは空間魔術(ストレージ)になにかいい物はないか調べる。豚の干し肉が一塊見つかったので、半分ほど薄切りにしてシャクラの皿にのせた。


「干し肉だけど、これでもいい?」

「うむ。……我儘を言ってすまんのう」


 シャクラは干し肉を口に含みつつ、グリフィンを見つめる。

 うなじの上くらいに揃えられた髪は、遠目なら女性の髪形のように見える。髪色は黒から遠い小麦のような金髪になっており、目を覆う前髪の合間からそばかすと緑の目が見え隠れしている。

 シャクラはその色味を憶えている。しかし、それが誰に似ているのかは思い出せなかった。


「そうじゃ、このあとも木を伐りにゆくか? わし試してみたいことがあるんじゃが」

「魔術による伐採だったらやめておいた方がいいよ」

「のじゃー?!」


 魔術でヨウセイノキを切ろうとした結果、むしろヨウセイノキが増えたという話はミンター家の記録でもかなり初期に書かれている。もしかするとシャクラなら別かもしれないが、もし増えた時はグリフィンとシャクラで伐採しなければならない。


「でも、この調子だとおじいが言っていたくらいまで減らすにはかなり時間がかかりそうだよね。家の裏の木も何とかしないとだし」

「ここはやはりわしが魔法で」

「ううん、森に交渉してみる」


 シャクラの言葉を無視し、グリフィンは効率のみを優先した選択肢を選ぶ。シャクラは椅子の上でずっこけた。


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