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18 ミンター(1)

 ミンターの森と言える場所にたどり着いたのは、見込みより早く昼少し前くらいの時間だった。

 植生は突然平地から森に変わり、風を身に受けてたなびくだけの草から低木に植物が変わる。低木のあるところからさらに奥に進めばススキのような腰位の高さの草が揺れており、背の高い木、どっしりとした太い木が立ち入りを阻むかのように生えている。

 グリフィンが手元の地図を確認すると、元々はここも平野の一部だったようだ。森の中は薄暗く、よく植物が育つなと感心できるほどだった。


「シャクラ。おれの服で悪いけどこれ着て」


 グリフィンは空間魔術(ストレージ)から丈の長いズボンを取り出し、シャクラにズボンを渡す。シャクラは首を傾げつつも、ワンピースのスカート部分をズボンに入れながら足を通した。

 シャクラがズボンをはき終わったのを見て、グリフィンはシャクラの手を取り森に入る。


「シャクラ、はぐれると困るから手を離さないでね」

「かまわんが、魔物が出たらどうする?」

「全部逃げるか隠れてやり過ごすかで大丈夫だよ。第一、魔物よりも妖精の方が怖いから」


 木々の間にある草をかき分けながら、グリフィンは森を進む。たまに木が頭位の高さにせり出しているので、しゃがんで避けながら。

 10分も進んだところで、グリフィンは一休みと称して木のうろに入る。ずっとつないだままの手を組み替えながら、グリフィンは「どう?」とシャクラに聞いた。


「なんというか、不気味な森じゃのう。鳥の影も、虫の姿もない。なのにやかましいのう」

「おれも、トレイと一緒に王都に行くまで、他の森に鳥がいるなんて知らなかったからね」

「地図を借りてもよいか? なんかこう、ぞわぞわするのじゃ」


 シャクラに言われ、グリフィンは手描きの地図をシャクラに渡す。ドーナツのように描かれた森と、中央にある「大樹」と墓に、シャクラはむむんと唸った。


「もしやこの墓、魔王か勇者の関係者か?」

「言ってなかったっけ? このお墓は昔の勇者、ケイ・ミンター様のお墓なんだって」

「それでミンターの森か。勇者の墓ということは来歴もまあ新しかろう」

「お墓が出来たのが400年くらい前、って聞いてるよ」

「……グリフィンは、グリフィン・ミンターという名じゃったのう?」

「おじいのご先祖様らしいよ。おれのご先祖様じゃないけど」


 一休みになったろう、とグリフィンは木のうろを出る。シャクラも引っ張られる形で、再び森を進みだした。


「お墓のあたりも通ろうか?」

「寄らんでもよい。墓を見ても、わしには何もできんし。それより、国境まではあとどれくらいになる?」

「もうすぐ通り過ぎる……と思うよ。この通り森だから、お墓のあたりっていう扱いなんだよね」


 藪をかき分け、ふたりは進む。

 森に入り、何度かの休憩をはさみつつも、3時間ほどだろうか。入ったときと同じくらい突然森が途切れ、グリフィンは「着いたみたい」とシャクラの手を放す。

 森を抜けてすぐの場所には小規模な畑が作られていた。畑から少し進んだ場所には2階建てのレンガでできた大きな家があり、現在地は丁度家の裏手らしい。

 グリフィンは畑のわきを進んで家に向かう。


「ただいまー」


 そのまま家の中に進むグリフィンを放置して、シャクラは畑に刺さっている立て板を眺める。

 『グリフィン』『おじい』『トレイ』と書かれた立て板に、シャクラはグリフィンが3人暮らしだったのだろうと推測する。しかし、グリフィンとトレイの顔は兄弟というには似ていなかったのを思い出して、しばし考えたのちに思考を放棄した。


「なんじゃお前! うちの畑で何をしておる!」

「うぉ!?」


 シャクラの背後から声がかかる。驚いて間抜けな声になってしまったシャクラは、慌てて声をかけてきた相手を振り返った。

 畑の外から叫んできたのは、服の上からでも分かる筋肉質な体つきの老人だった。腰に楔の入ったポーチを下げ斧を持っているに、木を伐りに行っていたようだ。


「村のもんじゃないな、どっから入ってきた?」

「ちょいとこの辺に用があってのぅ。ここはミンター自治領でよいか?」

「あ? 聞いたことに答えろってんだ」


 老人の威嚇に、シャクラはどう答えたものかと考える。

 と、家の方からグリフィンが戻ってきた。


「おじいいたー」

「何だグリフィン……また森で人っ子拾ったんかお前! 元の場所に戻してこい!」


 グリフィンの頭に落ちる拳骨。シャクラは拾われたわけではないと弁明した。


「じゃあなんだ、新しいツレか?」

「護衛対象だよ。それより、木を伐りに行ってたの?」

「ったりめーだろ。木こりを呼んだのにあんなんだったんだ、こういう時ぐらい働かねーとな。それより、来る前に連絡位寄こしやがれってんだ!」


 もう一度落ちた拳骨に、シャクラは痛そうだと思いつつも家に入らないかと提案する。


「まあまあ、積もる話もあろう? どうせなら給仕でもしてもらえばよかろう」

「だな。グリフィン、戸棚に茶ッ葉があるから淹れてこい。あと茶菓子なんか用意しろ。おれァこいつと客間に行く」

「わかった」


 珍しく子供っぽい表情で拗ねるグリフィン。老人は咳ばらいをし、シャクラに自己紹介をする。


「騒がしくして悪いな。おれはアンワズ・ミンター、グリフィンの保護者だ」

「わしはシャクラじゃ。グリフィンには世話になっておる」

「おう。客間はこっちだ、ついてきな」


 のしのしと進むアンワズの後ろをシャクラはちょこちょこと急ぎ足で進む。

 玄関の外に斧を置き、キッチンでグリフィンがお茶の用意に苦戦しているのを横目に客間への扉を通る。

 客間には手前側にアンワズ専用らしい1人用ソファと、ローテーブルをはさんで奥側に2人掛けのソファが置かれている。窓は森に面しており光はほとんど入らず、窓に向かい合う壁には色とりどりの刺しゅうが水玉のように入った長い布が飾られていた。


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