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17 オススの町から徒歩半日

 シレ―ネシアから定期便で約一時間。グリフィンとシャクラは帝政ザルバニトゥ国の東端、クロスランドとの国境地方の一つオスス地方にあるオススの町近くに到着していた。


「シャクラ、結構揺れてた気がするんだけど大丈夫?」

「シレーネ、兄が……手を振っておるぞ……」

「今日は宿を取るかなにかしようか」


 オスス地方のうち、クロスランドとの国境線は森が広がっている。この森は帝政ザルバニトゥ側でもクロスランドと同様に『ミンターの森』と呼ばれていて、かつての勇者が由来の為殆どの言語でもミンターの森で通じるという。

 グリフィンは定期便発着場の建物越しに森を見ながら、顔色の悪いシャクラに肩を貸して歩く。定期便発着場とオススの町の間にある簡易救護所を通り、昼をいくらか過ぎたところで町に入ることが出来た。


「明日からはまた野営になるし、今日はベッドで寝たいね」

「まだ、まだそちらに行くには……うぷ」

「はいはい」


 ミンターの森近くは国境警備がほとんどないが、それはミンターの森が帰らずの地……森に入ったが最後、帰ってこないことが大半であることに由来している。

 森の入って2、3歩はまだいいが、しばらく歩けばもう戻らない。森の中心にある勇者の墓に理由があるのか、それとも森そのものに原因があるのかはいまだにはっきりとしていない。ただ、事実として現在までミンターの森で行方不明となるひとがいるというだけだ。

 グリフィンはシャクラを落とさないように気を付けながら、町の大通りを目指して歩く。重たいようで軽いシャクラの重さを不思議に感じながら、町にある宿屋の一つに入っておかみさんに話しかける。


「個室ひとりと、雑魚寝部屋があればそこにひとりお願いします」

「雑魚寝部屋、っていうのはこの辺だとあんまりないねえ。旅してるのかい?」

「そんなところです。妹が酔いやすい体質だったみたいで」


 シャクラがぐったりとしているのをいいことに、ロウリィトンでも使った関係性で同行理由を隠す。髪色が似ているせいか、おかみさんはグリフィンの言ったことを疑った様子はなかった。


「だったら、ベッドが2つある部屋にして介抱してやったほうがいいね。この国のお金は?」

「クロスランドのしか」

「なら部屋代が1泊銀貨5枚、朝はパンとスープくらいの軽い食事つきだよ。昼と夜はすぐ隣の酒場を使いな」


 グリフィンは即決で1日分を支払い、鍵を受け取り部屋に案内してもらう。ついでに両替ができる場所の話も聞かされたが、どうせ明日にはクロスランドへ密入国するために出発してしまうのだからと聞き流した。

 部屋に入り、シャクラをベッドに寝かせてグリフィンは一息つく。空間魔術(ストレージ)と財布にしているマジックバッグの中を確認して、明日からの準備が必要そうだと考えた。

 グリフィンは粗食でも気にならない──というか粗食の方が好みに合う――が、シャクラはそれなりに食事について希望がある。今荷物として持っているものだけでは、シャクラの希望を満たすのは難しそうだった。


「シャクラ、買い物に行ってくるね」


 声をかけるも、シャクラは規則正しく寝息を奏でるだけの置物になっている。グリフィンは気にせず、部屋の鍵をかけて町中の散策をすることにした。

 オススの町は最寄りのダンジョンまで乗り合い馬車で2日かかる、平野部における魔物の出現数が少ない地方にある。魔物の出現数が少なかったり、ダンジョンまで遠い事は、冒険者からすると稼ぎの少ない町であり、住民からすると安全な町なので、町中には地面に直接ござなどを敷いて出店している店も多い。

 グリフィンは大通りにある店を適当に選び、食料を買い付ける。保存がきかないものを大量に買い付けると、そこから回りまわって大容量の空間魔術(ストレージ)持ちと推察されることがあるので、店主には保存食を作ると言って買い物をした。

 ついでにノートを打っている店がないか、いくつかの店を覗く。アトリエ、と看板を掲げた店の奥に、シレーネシアで生産された商品の一つとして一冊だけ置かれていたので、銅貨2枚で譲ってもらった。

 宿に戻っても、シャクラは眠ったままだった。グリフィンはベッドの上に座り、ノートを開いて記録をと考えたものの、あまり思い出したいことではなかったのもあって筆は進まなかった。

 シャクラが起きることもなかったので、グリフィンは昼をしばらく過ぎたころに空間魔術(ストレージ)から魔物肉のジャーキーを出してかじり、適当に腹が膨れたところで明日に備えて眠ることにした。


 翌朝。シャクラが呻いている声に、グリフィンは目を覚ます。

 周囲を見れば、シャクラがベッドから落ちている。グリフィンはベッドから降り、シャクラの頬をぺちぺちとかるく叩いて目覚めを促す。


「シャクラ、起きて」

「むにゃー……」


 これ以上叩くのも悪いと思い、グリフィンは朝食を受け取るために部屋を出る。朝食はパンと魔物肉の入ったスープで、受け取りの際に宿泊日数を延長するか聞かれたが昼前には出発することを伝えた。

 グリフィンが朝食を乗せたお盆を持って部屋に戻ると、シャクラは床で胡坐をかいて座っていた。まだ眠たいのか口がむにょむにょと動いている。


「朝ご飯にしようか」

「んん゛ー、食べさせてほしいのう」

「ははは」


 シャクラの戯言を無視し、グリフィンはベッドに座り自分の朝食を口に運ぶ。魔物の種類については特に言及されていなかったが、これはオスス地方では一般的な羊型の魔物の肉らしかった。

 朝食後。荷物を手早くまとめ、グリフィンとシャクラは宿を出る。買い物は済ませてあるので、そのままオススの町を出発した。

 オススの町から国境方面へ向かう乗合馬車はないので、半日ほど歩くことを覚悟して日差しの中を進む。町からミンターの森までは殆ど木の生えていない平野が広がっていて、魔物の姿はなく鳥が頭上を行く影がたまに落ちてくるくらいののどかな風景が広がっている。

 1時間ほど歩いたところで、シャクラが歩くことにあきたと我儘を言い出した。グリフィンは黙って歩くことが苦にならないが、シャクラは違ったらしい。グリフィンは地図を手に、もうしばらく進んだところに池があるからそこまで頑張ろう、とシャクラを鼓舞した。


「もう少し頑張れる?」

「疲れてはおらんがひまなのじゃー! 魔物もおらんし、飽きた!」

「はいはい」


 グリフィンはシレーネから教わったシャクラの扱い方を思い返す。

『シャクラはやや飽きっぽいところがあるのでたまにかまってあげてください。基本的には自慢話をするよう話を誘導するといいでしょう』

 なら、今振るべきは魔物に関する話だろう。


「シャクラはここに魔物がいたら、ひとりで何とか出来る?」

「もちろんじゃ。ただ、どういったのが討伐の対象となっておるかはわからんし、冒険者の強さもよくわからん。あの勇者はどう評価されておった?」

「トレイのこと? トレイは一応銀3級って評価だったよ」


 冒険者として登録してすぐは木5級という最下級で、達成した依頼の数、冒険者ギルドを介して売却した素材の評価、知名度によって数字が小さくなり、木1級の次は鉄5級と金属になる。そこからは同様に、鉄から銅へ、銅から鋼へ、鋼からっ銀へと金属が変化する。銅級からは一人前の冒険者として扱われ、また銀級は地域か国レベルの有名な冒険者というわけだ。

 話はやや逸れるが、勇者パーティではグリフィンを除いた全員が銀級だった。殆ど知名度によるものだったが、冒険者ギルドに行くたびに「どうしてこんな奴が」という風に見られたものだった。


「クロスランドだと貴族に繋がりがないと銀3級より上になれないから、実力的には金級でもおかしくないんだけどね」

「なぜじゃ? グリューネ教会はそんな規約を定めないはずじゃが」

「クロスランドは、冒険者は好きだけど冒険者ギルドは嫌いだからね。聖女様が言ってた」


 話しているうちに、池の近くにたどり着く。誰かが来ることがあるのか、池の周囲には植樹されたらしい細い木が数本あった。


「シャクラ、しばらく歩いたから一休みする? この調子なら昼になる前に森に入れると思うよ」

「そうじゃのう、なら歩こうか。地図を借りても?」

「いいよ」


 シャクラはしばし地図を見て、「なら歩くか」と答える。グリフィンは軽くストレッチをして、シャクラに同意した。


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