-1 魔王城にて
「あれが魔王か」
道中は見渡す限りの砂漠と無人の集落しかない不毛地帯。そこにポツンと佇む灰色の土壁でできた建造物を下に進んで十数層。そこに、誰もが魔王と呼ぶ存在がいた。
「こちらに背を向けているなんて、魔王様は余裕のようですわね」
「そもそもここまでまともな守衛がいなかったし、道中で補給が出来ないのをいいことに攻撃されないって思ってたんでしょ」
「勇者様、どうします? こいつはどこに置いときましょうか」
敵の攻撃を受け流すことに特化した戦士・セオドア、補助と回復の魔術を駆使する王女にして聖女・クリスティニア、貧民街出身の盗賊にして弓の名手・ケイトリン、攻撃魔術に特化した王宮魔導士・エマニュエル、そして剣も魔術もバランスよく使うことが出来る勇者・トレイ。
理想的な勇者パーティ、その中で一人だけ、荷物持ちである自分は邪険にされている。
仕方ない、トレイの幼馴染であること、(最初はアイテムボックスと偽っていたものの)空間魔術を使えること、その二つだけでトレイについていくと主張したのだから。
「ここで問題ない。魔王にここまで攻撃させる気はない」
トレイはきっぱりと言い切り、ほぼ鈍器と変わらない剣に手を添える。いつも通り幼馴染を贔屓するトレイに呆れながら、聖女クリスティニアは荷物持ちに言い残すことはないかと聞いた。
「ミンター。あなた、言い残すことはなくて?」
「それなら、トレイはこの後何が食べたいか教えてほしい」
「お前、この期に及んで能天気だな」
あきれた様子のエマニュエル。トレイは「残った食材でできる、いっとう豪勢な食事を」と答えた。
「わかった。頑張って、みんな」
岩の陰にしっかり隠れ、トレイの合図でパーティ全員が飛び出していく。こんな時に何もできないのは悔しいけれど、投げ薬──相手に投げつけることで回復する薬を手にそーっと覗く。
魔王はいくつもある首を一つ落とされて、攻撃されているのに気付いたのかトレイたちの方を向いている。エマニュエルが広範囲の火炎魔術で牽制して、クリスティニアの補助魔術で強化されたトレイが突撃し、トレイへ向けられた攻撃はケイトリンが射落としセオドアが受け流す。
旅の中で生まれた連携が魔王の首を一つ、また一つと落とす。やがて残る首は二本となったところで、魔王は片方の首を振り回してトレイたちを吹き飛ばし、もう片方の首で重圧魔術混じりの金切り声を上げる。
「っ、フィー!」
荷物持ちの目前まで魔王の首が伸びる。トレイは重圧感を振り切って攻撃を庇いに走り──