12 悪趣味な記録主義
案内された先のメインホールで個人タグの発行を受け、使用に関する注意を一通り──ゴールビーに言われたのとほぼ同じ内容を──シレーネから説明される。
シャクラは個人タグを空間魔術に収納していたようで、メインホールの一角にある売店でチェーンを買って首から下げられるようにしていた。
「グリフィン。わしのクレジットからいくらかを分ける、当面の生活費に使うがよい。それと通貨じゃが、だいたい1ノートで銅貨1枚分の価値のはずじゃから無駄遣いせんようにな」
「そんなことして平気?」
「問題ないない、シレーネシアの通貨はシレーネシア国外では両替できぬだけじゃ。こないだの売上なんぞ目ではないぞ」
メインホールの一角に設置された機材で、グリフィンとシャクラの間で相互送金が可能になるよう設定を行う。
シレーネはメインホールのあちこちで作業をしていたが、グリフィンたちのやり取りが終わったのを見て近づいてきた。
「二人の部屋は無限図書館近くに用意させてもらいました。よろしければこのまま向かいましょう」
無限図書館のある島までドラゴンによる移動をする、とシレーネの先導でメインホールの隣にある国内定期便乗り場に向かう。
島と島の間を移動するドラゴンはシレーネシア入国までのそれよりも二回りは小さいもので、キャビンも4人掛けの馬車を改造したものだった。
それぞれ席に着き、ベルトで体を固定する。浮かび上がる感触は柔らかく、グリフィンは窓から見える外をぼんやりと眺める。
移動にはいくらか時間がかかるとアナウンスがあったため、グリフィンは暇だからと適当な話を振る。
「そういえば、シャクラとシレーネさんは同業者、って言ってたけど、冒険者仲間とか?」
「なんでじゃ! わしと同業といえば魔王の方を先に思い浮かべるじゃろ!」
「そうかなぁ」
「ミンターさんは噂にたがわず他人に興味がないようで」
グリフィンはどんな噂だ、と思いつつも、間違っているわけではないので聞き流す。
「先ほどは廊下でしたので迂遠な言い回しをしましたが。私はシャクラ同様魔王をさせていただいています」
「そうでしたか。それで、何の話を聞きたいんですか」
「聞きたいのではなく、記録を依頼したいのです」
シレーネはグリフィンに一冊のノートを渡す。クロスランドなら高級品として売れるだろうそれに、グリフィンは怪訝な顔をした。
「あなたがご家族と過ごされた日を。あなたが旅立った日を。冒険の日々を。そして逃走に至った訳を、そのすべてを」
求められたものが理解できたグリフィンは、苦笑いで返す。
シレーネはグリフィンの見聞きしてきたすべて、それを好き嫌い問わずすべて知りたいと伝えてきた。それがどんなにつらい作業でも、自分には関係ないと。
「……悪趣味ですね」
「よく言われます」
「悪趣味ですね!」
「そうでなければ私設図書館など作りません。書き終わるごとにお渡しいただければ、一冊5000ノートで買い取ります」
無限図書館のある島に到着した、とアナウンスが流れる。シャクラを先頭にキャビンを降りると、そこにはグリフィンが今までに見た何よりも大きな建物があった。
造りはざっと見ても二種類以上の建築様式で、レンガを主要な建材としているが木や金属らしき物でできた部分もある。手前側は廊下なのか、よく光を取り入れそうな大きなガラス窓がいくつも。そして、入口は全種族の中で最も大きい巨人用の扉に、4メートルほどの子扉、そして1メートルほどの孫扉が設置されていた。
「部屋は奥の建物です」
シレーネの案内についていき、無限図書館の裏にひっそりと存在する建物に到着する。
それぞれの個室に案内され、一通り部屋の設備を調べてから、グリフィンは一人になったことでほっと一息を吐いた。
「……悪趣味なヒトだなあ」
渡されたノートを手に、グリフィンは何から書こうかを考える。
依頼ならば、引き受けてもいいだろう。ただ、何から書いていけばいいのか。何を書かない方がいいのか、シャクラと会う前を思い出しながらベッドに転がった。
最初に書くべきはそう、グリフィンが逃走している理由だろう。
グリフィンは思案ののち、起き上がってペンを持つ。部屋には一人用のテーブルセットもあるが、旅の途中に書き物をする必要があったときはたいていこうしていた。なら、わざわざそれを変えて記録をする必要はないと判断した。
逃走の理由、それは――




