10 フライトは賑々しく
「間一髪、じゃな」
キャビンのハッチは若干重たい音を立て、わずかな隙間を残して閉じる。シャクラはグリフィンが置いてきぼりにならなかったことに安心しつつも、まだ座席についていないからとグリフィンを手近な席に座らせた。
もう10人は余裕で入れそうなキャビンの中、シャクラも適当な席に着き、先に座っていたトリサの指示でベルトを締める。すると、軽快な通知音とともにキャビンの中に音声が届いた。
『本日はシレ―ネシア航空部隊をご利用いただきありがとうございます。乗客の皆様へご案内いたします。航空中の安全確保のため、2階部分への移動をお願いします』
「2階ってのは、ドラゴンの首に近い方の部屋なんだ。ただ、扉が固いからどっちか手伝ってもらわないと」
「わしが手伝おう。グリフィンはわしの腰にでも捕まっておれ」
2階、と言われてグリフィンは周囲を見渡す。シャクラは自分とグリフィンのベルトを外し、先に歩き出していたトリサの誘導でドラゴンの首方面へと歩く。
重たい音が何度か響き、壁だったところから浮き出るようにしてハンドル付きの丸い扉が現れる。シャクラとトリサは2人でハンドルを回して開け、一人ずつ2階へと進んだ。
最後にグリフィンが扉を通ると、シャクラが思い切り扉を引いて閉める。再び重たい音が響くと、内側にあったハンドルも壁と同化した。
オレンジ色の灯りが点灯し、グリフィンたちはその灯りを手掛かりに再び椅子に座る。
『改めまして、本日はシレーネシア航空部隊第一班隊長騎をご利用いただきありがとうございます』
再び、軽快な通知恩とともに音声が届く。
『ご搭乗後の案内となってしまい申し訳ありませんが、、当騎キャビンは天候によっては揺れますため、到着までの間は2階より移動を試みるのはお控えください。パイロット、ドラゴンに異常があった場合は安全装置が作動し、安全な場所までキャビン単体で飛行いたしますので、緊急時は着地・着水を示す緑色のランプが点灯するまで脱出をお控えください。本日のガイドはわたくし、竜騎士のゴールビーが務めさせていただきます』
ゴールビーは楽し気に話を続ける。
『当キャビンはこれより、シレーネシア・メアカンフス……シレ―ネシアのメアカンフス島へ向かいます。現在高度はいったん下がって100メートル、メアカンフスまで約1600メートルの上昇が必要となるため、これより上昇飛行を行います。キャビンは重力加速度軽減の魔術が働きますが、気分が悪くなった場合は速度を緩めますのでお申し出ください。
『では、このお時間をお借りしまして、シレーネシア入国の心得をご説明させていただきます。
『シレーネシアは複数の島から構成されており、島と島の間を移動するには竜騎士の定期便または主要な島の間を結んでいるゴンドラを使用していただきます。島と島の間での飛行やそれに類する行動は免許制のためご注意ください。
『また、入国許可後に一人一枚ずつ個人タグが交付されます。個人タグはシレーネシア国内で入国許可書、滞在許可書、各種施設立入に関する権限の証明、身分証明書、預金口座との取引に使用する鍵、シレーネシア通貨専用のお財布と多岐にわたる機能を持ちます。決して失くしたり壊したりしないようお願いいたします。
『シレーネシアと各国通貨との両替は、各島内にある無限図書館分館、本館の専用窓口またはシレーネシア・シレーネス内のグリューネ教会支部にて承っております。交換レートは年間で決定していますので、年をまたいで滞在されない限りは大きく損をすることはありません』
グリフィンは揺れに酔いつつも、話を聞いて頷く。と、外を見せるとアナウンスがあり、壁面に光が当てられ映像が現れる。
下は真っ白、上は青と白の中に、遠近問わず上下に散った大きさのまばらな茶色が見える。まるで川の中にある飛び石のようなそれらは、空の中に浮かぶ島の国・シレーネシアだ。
『只今より、前方に見えますシレーネシア・メアカンフスの空港へ着陸します。映像投影はしばらく継続しますので、どうぞ空の旅をお楽しみください。』
だんだんと近づいてくる茶色。一番近い島の細部が見えるようになってきて、速度が落ちたのか近づく早さが落ちてきた。
キャビンの外から大きな音が響き、動く絵が消える。ゴールビーが『失礼、帰還の合図はドラゴンの咆哮なのです』とアナウンスをして、空港に着いたのだろうとグリフィンは察した。
『まもなく着陸いたします。案内があるまで、皆さま移動されないようお願いします』
想像以上の快適な旅に、グリフィンは楽しかったとシャクラに言う。しかし、トリサの表情は何かを怪しんでいるようで、ドアのあるあたりに移動して座っている。
着陸するというアナウンスからしばらく、キャビンの外で何か音がして、ゴールビーから下船のアナウンスが入る。
『本日はご利用いただきありがとうございました。係員の案内に従い下船をお願いします』
「さて、降りようか」
「久々のシレーネシアじゃのう。グリフィン、起きておるか?」
「あ、うん」
グリフィンは外から聞こえていた話し声について考えていたが、とりあえずは下りようとシャクラの手を取った。




