9 あなたは愉快なパイロット
誰かが体をゆする振動に、ぼんやりと目が覚めてくる。
「そろそろ交代の時間じゃ、起きよ」
何度かまばたきをして、周囲を見る。テントの天井から下げられたカンテラは、相変わらず魔物避けの鋭い輝きを放っていて、グリフィン自身はテントの中で丸まって眠っている。今日は木が多くてテントを置く場所が取れなかった、それゆえ一人用のテントを小さく建てて丸まって眠ることとなったのだ。
「ありがとう、シャクラ」
「かまわん。それより、トリサと交代じゃからな」
シャクラに言われ、グリフィンはトリサに交代と伝える。
夜明けまではまだしばらくありそうで、このまま朝までシャクラとグリフィンが見張りをすることになるだろう。
「なんか、魔物も襲ってこないし、暇だね」
「そんなの、暇が一番じゃろ。わしはともかく、お前はほとんど戦えないのじゃから」
たき火が消えないよう、時折集めておいた枝を入れる。
グリフィンたちは特に話すこともなく、そのまま朝を迎えた。
グリフィンの用意した朝食を食べながら、グリフィンたちは今日の予定を打ち合わせる。
「このままラインカーディンに入るのですか?」
「いや、グリフィンが寝ている間に本国から手紙が届いてな。見るか?」
グリフィンは差し出された紙を読む。
『旧街道からラインカーディンへ入る道に敵影あり。北への道を進み、航空部隊の指示に従いシレ―ネシアに帰投せよ。』
知らない名称にグリフィンが首を傾けていると、シャクラがそっと「荷物を運べる竜騎士のことじゃ」と補足をしてくれる。
「こちらで勝手に決めている上に、度重なる契約変更となってしまうが、これでもまだ同行してくれるだろうか」
「乗りかかった船ですからね。それに、お代もいいですし」
がめついと言われようが何だろうが、たいていの国で変わらないたった一つの尺度をグリフィンは大切にしていた。
片づけをし、今日はトリサとグリフィン・シャクラに分かれて馬にまたがる。地図を確認しながら、グリフィンたちは東に進むとラインカーディン、北は山に進む道の分岐で北に進む。
と、シャクラが馬上でおおきく身震いした。
「トリサ、嫌な予感がする。急ぐのじゃ」
「あいよ」
シャクラの言う嫌な予感をグリフィンも感じ、思わず振り返る。
グリフィンたちが向かわなかった、ラインカーディン方面の道。そこから、クロスランド騎士団の騎馬兵たちがこちらへと向かってきた。
「! やばい、」
「急ぐぞ!」
こちらを発見したらしい騎士団は、何某かを叫ぶとこちらへと馬を向ける。どうやら後ろにいる馬車に合図を送ったようだ。
グリフィンたちも馬に鞭を入れ、距離が開いているうちに逃げ切ろうとする。
「向こうの方が早い! このままじゃ追い付かれる!」
「なーんじゃあれ、わしの知らん術式か?!」
みるみるうちに距離を縮められ、グリフィンたちの騎馬は2人を乗せているために疲れたのかだんだんと速度を落とす。
騎士団の先頭は遅れ始めたグリフィンの騎馬まであと500メートルのところに迫っている。このままでは追い付かれてしまう、そうグリフィンが思った時、グリフィンたちの真上からほぼ垂直に落下してくる影が現れた。
はばたく音、そして突風。雲をまとい落ちてきたのは、薄灰色のドラゴン。尾には白地に赤で開いている本の描かれたシレーネシアの国旗が括り付けられていて、腹側には十数人は乗れるキャビンを装備している。
「ヘイ彼女ォ、乗っていかない!?」
グリフィンたちより斜め前、道の横を流れる川の上スレスレを無理やり飛ぶドラゴンの背で、竜騎士らしき人物が身体を起こしてサムズアップする。トリサは「ふざけてないでハッチを開けな!」と怒鳴った。
ドラゴンは一度グリフィンたちの頭上を飛び越し、トリサの前に付く。何度かはばたいたのちキャビンが道をこすりそうな高さで滑空を始め、軽快なウィンチの音とともに後方ハッチを開けた。
「乗りなァ!」
トリサは馬ごと、シャクラはグリフィンの後ろから飛び降り空中を走りキャビンに乗り込む。グリフィンは馬に何度も急ぐよう指示をするが、スタミナ切れかドラゴンからどんどん離れ騎士団の騎馬に追い付かれそうになってきた。
「グリフィン、跳べ! 口を閉じよ!」
トリサの声に、グリフィンは馬を飛び降りる。シャクラはキャビンから降りてグリフィンを迎えに走り、地面に落ちる直前に手を掴むと魔術で爆風を作り砂埃を巻き上げる。
グリフィンの乗っていた馬を空間魔術で回収し、シャクラは再び空中を走ってキャビンへ向かう。シャクラがグリフィンごと飛び込んだのを見たドラゴンは、急激に速度を上げて頭上高くへと飛び去った。




