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1 荷物持ちは逃げていく

「新人ー! きちんととどめを刺せ!」

「うぃーす」「はーい!」


 棒のようになった足を止め、声のした方を見る。

 平野の彼方、黒いいくつかの点は冒険者のようで、長細い影が点を攻撃しているのが見える。

 ほぼ草むらに近いレンガの道を脇にそれて、一休みをしようと収納――空間魔術(ストレージ)に手を入れ木製の椅子を出す。椅子に座り、斜めがけにした鞄を膝に乗せ、休憩のために何をしようか考えて、同じくいつだか淹れた高いお茶を仕舞ってあったな、とカップごと取り出して一口飲んだ。


 王都からどれほど離れただろうか。徒歩ではどんなに頑張っても早く移動できない。冒険者ではあるものの、下っ端も下っ端の「荷物持ち」の自分では戦闘能力が低いため、道を外れて魔物に襲われれば勝ち目はない。

 残り半分を一気に飲んで、椅子を戻して道に戻る。

 国境近くにある次の町まで、徒歩ならあと二日。この道を馬車はほとんど通らない。通ったとして、自分たちへの追手かどうか判別できない。


「はぁ……」


 最後に体を清めたのは、髭を剃ったのは、髪を切ったのはいつだったか。

 こ汚いなり(・・)になった自覚のある荷物持ちは、擦り切れそうな靴でレンガの道を歩いていく。



 日がすっかり落ち切ったころ。道は林の中を通り、街へと向かっている。

 道を逸れて林の中に進み、道からは見えにくい辺りの下草をナイフで刈って場所を作り、空間魔術(ストレージ)から組み立てたままのテントを取り出して今夜の宿泊場所とする。テントの屋根に刈り取った下草を載せてカモフラージュとし、中にいれたままの毛布を一時的に干し、火鉢の上に取り出した固形燃料と残りの下草を置いて生活魔術で着火する。

 固形燃料が燃えているうちに、肉を焼き茶を入れスープを温める。これらの動作をまとめてできる機器があるおかげで熱が無駄にならないのは幸いだ。


「さて、と」


 スープに口を付け、肉に口を付ける。持ち物の中に足の速いパンが入っていたなと思い出して、とはいえ空間魔術の中では物の時間がほとんど進まないのを思い出して苦笑しながら空間魔術(ストレージ)に手を入れる。


「いてっ?!」


 手を何かにひっかけて、とっさに引き抜く。飛び出していったのは戦利品の中で唯一残っていた魔王の首の一つ。どん、どん、と林の中に転がっていって、あぁ、と落ち込みながらも食事を優先する。魔王はとうに死んだのだから、首が転げていっても回収が手間なだけだ。

 火と食事を片付け、首が転がっていった方を探す。獣にでも持っていかれたのか、首は見当たらなかった。

 首をあきらめ、テントの中に入る。魔物避けの入った青く淡い輝きを放つカンテラを吊り下げて、専用の燃料が残りわずかになっていることに眉をしかめる。


「町で買えるといいんだけど」


 一人では広いテントの中、入り口を留めて毛布にくるまり目をつむる。思い返されるのはいつかのことで、魔王の首を落としたためか魔王と戦った時のものだった。

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