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弱小ショタなのでビキニアーマーを嫁にした  作者: ろーくん
第六章:貴族令嬢

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第89話 適度な運動にもなりません




 それは、ある日のお出かけの帰り道で起こった。




『殿下、御令嬢方! 外にお出にならぬよう―――くうっ!』


 ギィン!! ガリガリガリ……ギャシィッ!



 僕とアイリーンは、2名の貴族令嬢を同乗させる形で馬車の中にいた。外からは、金属が何か硬いモノとぶつかったり擦れ合ったりする音が聞こえてくる。


「きゃああ!!!」

「ううっ、お、おそろしいですわっ」

 二人は中くらいの貴族家の令嬢だけど、どちらも王室支持派の家の娘だ。しかも両家は女性軍人を結構な頻度で排出している軍人家系で、彼女らの父親も軍人。


 今回、僕は王都の外に新たに建設される軍の小拠点の建設現場に視察に行くことになったのだけど、絶対安静生活に爆発寸前だったアイリーンの気晴らしも兼ねて、供だって訪れた。


 そこでこの二人に会ったんだけど、二人が乗ってきた馬車の車軸が折れてしまい、困っていたので一緒に帰ってきたのだけども……。


「(うーん、軍人家系といっても、魔物の襲撃に慣れてるかどうかは別だよね)」

 二人はそれぞれの家の四女、五女―――どっかに嫁げればまぁ良し、そうでなかったら何かしらの形で軍に貢献する職に就かせられる、といった立場っぽい。

 建設現場にいたのは、勉強のためにと親から言われて渋々だった。


 で、その現場から王都への帰り途中、魔物に襲われての今なわけで―――……

 僕はそっと窓から馬車の外を覗く。




 ガァンッ!!


『ぐう! くそ、なんて力だ。盾で防いでも腕が痺れる……このっ!』


 シュガッ!


 兵士さんの振るう剣は、魔物に当たってる。浅いけど、確かに傷は負わせている。

 けど熊みたいなポーズで立ち上がってる毛むくじゃらの魔物は、痛みを感じてないみたいに、構わず太い腕を振るって攻撃していた。



『ヒューホォ~~』

 奇妙な鳴き声。見た目とのギャップがすごい。


 人型だけど、3mあるかないかの巨躯。腕1本の太さが僕一人と同じくらいある。

 頭から足先まで毛むくじゃら。目元までびっしりで、体毛の塊が人型に固まっているような異様な姿。


 熊みたいな動きや構えをするけど、爪はない。ただ腕や手の皮膚がすごく硬質らしくて、兵士さん達の鎧や剣なんかが当たると、金属同士がぶつかり合うみたいな音がする。



  ・

  ・

  ・


「―――アイリーン、あれは何という魔物か、知っていますか?」

 キャーキャーと恐怖に怯えて騒がしい令嬢達と違って、僕とアイリーンはすごく落ち着いてる。

 特に、アイリーンがまるで問題ないと言わんばかりに座ってる。つまり、この状況はそんなに危険じゃないってこと―――僕はまったく怖くなかった。


「アイアンフッドです、旦那さま。パワーと身体の硬さくらいしか取り柄のない魔物ですね。あの大きさのものは珍しいですが、知能は低いので似たような攻撃しかしませんし、護衛の兵士で十分対処できる魔物です」

 まるで動物園の猛獣エリアを観光するお客さんのように、僕とアイリーンは余裕で窓の外を眺めていた。


「そ、そうなのですかアイリーン様??」

「あ、あの魔物は危険ではないのですか??」

 怯え切ってる令嬢達は、アイリーンの説明にすがりつくように食いついてくる。涙目で小動物のように震える状態は、お嫁さん(アイリーン)からしたら優越感を感じることだろう。


 何せ帰りの馬車の中、魔物に遭遇するまで令嬢達は僕にアプローチをかけ続けてた。アイリーンっていう僕の子供を妊娠してる第一妃が目の前にいるにも関わらず。


 当然、アイリーンはぷうっとご機嫌斜め。口ではかなわない彼女は、令嬢達の貴族交流な話題についていけず、令嬢達は令嬢達でこれ幸いにとアイリーンをカヤの外に置いて、この機に僕との距離感を詰めようと会話の攻勢を強めてきた。



「(まぁ、僕に万が一でも玉の輿できたら、彼女達からしたら最高だしね。チャンスをモノにしようと多少図々しくても……っていうのは分からないでもないけど)」

 チラりとアイリーンを見る。

 さっきまでとは違ってご機嫌だ。何せ戦闘ごとは自分の領分、この程度の魔物に怯えるなんて、と令嬢達の臆病っぷりに苦笑すると、ルンルン気分な笑顔で馬車の外の戦況に視線を向けた。


「(……ううん、あの顔はどっちかっていうと “ あ~、私も戦いたいな~ ” かな)」

 結婚してからそれなりに経過するので、妻の表情の意味を読み取れるようになってきた事を僕が堪能していたその時、アイリーンの表情が一瞬で変化した。


 戦士の目―――その直後!


 ガシャアッ!!!


「「キャアアアアアア!!??」」

 ガラスの割れる音と、令嬢達の悲鳴。


 そして僕の目の前にアイアンフッドの腕があった。


「んしょっと、まったく危ないんだから。……やっぱり見てられないですね」

 見ると、アイアンフッドのぶっとい片腕をアイリーンのか細い両腕がからめとるように掴んでた。


「(……もしかして咄嗟に攻撃の軌道をズラした?)」

 馬車の外を見ると、アイアンフッドの位置はどちらかといえば僕の側面。パンチが真っすぐに馬車に向かって放たれてたとしたら、アイアンフッドの攻撃は僕の頭を殴っていたはずだ。

 けどアイリーンは、馬車の窓を突き破った腕を瞬時に捕らえて引っ張り、軌道を自分の方に曲げた。


 しかもアイアンフッドがしきりに腕を抜こうともがいてるのに、アイリーンはビクともしない。


「旦那さま、すこーしここで待っててくださいね♪」

「う、うん……」

 すごくいい笑顔。でもちょっぴり怒気も感じる。

 その怒りはたぶん、馬車に攻撃してきた魔物への怒りだけじゃない。馬車への攻撃を許した、護衛の兵士さん達の不甲斐なさへの怒りもありそうだった。




 ドバギャッ!!


『??????!』

 馬車の扉を蹴破り、アイアンフッドの腕ごと外へ飛び出すアイリーン。


 元から腕を引き抜こうとしていたアイアンフッドがもんどりうって倒れたのを見て、ようやくアイリーンがその腕を放す。

 そして動きづらいとばかりにドレスの裾を引き千切り、丈短く結び直したかと思うと、アイアンフッドが膝をついて起き上がろうとしているのを横目に、目にも止まらないスピードで兵士さんの一人から剣を奪い取った。


 そのままアイアンフッドの側面に回って、兵士さん達や馬車がない方へアイアンフッドの身体を再び蹴飛ばす。


 僕たちの安全確保が最優先―――アイリーンのプロフェッショナルな行動に、本職であるはずの護衛の兵士さん達は呆然としていた。


「す~ぅ……は~~ぁ……―――さて、久しぶりとはいえ弱い(・・)魔物……心苦しいですが旦那さまを脅かしましたので、ぜったいに許してあげません」

 剣1本だけ、動きにくいドレス姿、まだ膨らみ浅いとはいえ妊娠中の身体―――普通に考えたらとんでもなく無謀で、アイアンフッドに勝てる要素は1つもないように見える光景。


 なのに全身の毛を逆立てるほど恐怖しているのはアイアンフッドの方だった。


『ヒ、ヒホッォ!!』

 ヤケになって、一気に立ち上がるとその勢いのままにアイリーンに攻撃を仕掛けるアイアンフッド。


 ザザザシュッ!!


 当たらない。野太い腕が何もない空気を殴ると同時に、毛むくじゃらの二の腕に3つの切り傷が出来ていた。アイリーンの剣は、軌跡すら見えない。



「よく見ておきなさい」

 それは護衛の兵士たちに投げかけた言葉。直後……


 ザシュザシュ、ドシュッ! ザクッ!! ドシュシュッ!!

 

 アイリーンはもう片方の二の腕、右太もも、左太ももと、四肢の付け根付近ばかりを痛めつける―――これは講習(レクチャー)だ。


「アイアンフッドは、胴ではなくまず四肢の根っこを狙うんです。一番神経が通っているのに、一番薄い(・・)場所……なので」

『ヒ~ホァ~ッッ!!』

「痛みを感じて怯むんです。そこを―――」


 ザンッ!!


 毛むくじゃらの首が飛んだ。正面で睨み合ってたはずの僕のお嫁さんは、いつの間にか魔物の背後にいた。


「頭を切り離して、おしまいです。覚えておいてください」

 アイリーンが語る言葉はずっと優しい。けど護衛の兵士さん達は、何か言い知れない迫力を感じたみたいで、ものすごい勢いで頷いてた。


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