第65話 後援部隊の指揮官です
まず僕は今回、陣を3つに分けて設置した。
最前線のセレナ達の後方200mくらいのとこに、まず500人くらいの小さめの陣。ここは最前線へのサポートを実際に行うのがメインだ。送るための物資や援軍を一時的に置いたり、最前線からの怪我人を受け取ったりする。
そこから600mくらい離れたところに僕のいる陣がある。人数は3500人で、最前線を支えるための後援主力、って感じだ。
僕のいる陣からさらに300m後ろに1000人を置いた最後尾の陣がある。ここは重傷の兵士さんを運びこんだり、もしかしたら後々王都から援軍が来た時なんかの受け皿になったり、万が一撤退しなくちゃいけない時の最低限の戦力の温存などなど、一番うしろだけど期待する役目は結構たくさんある。
「(……と、こんな感じで陣を整えたわけだけど……)」
ここから定期的にセレナの元へ戦力を送るように指示したから、これからどんどんこの後方3陣の戦力も減っていくことになる。
だから僕が次に一番気を付けなくちゃいけないことは――――――
「インクリュースさん、兵士さんで5人一組を編成して、それを10組作るよう手配してください。最前線のヒルデルト准将の頑張りで僕達のところまでは魔物が来てはいませんが、いつどの方角から奇襲されるかもと警戒しておくべきです。なので5組を常に周辺偵察に出すようにしてください」
「なるほど! ローテーションで交代できるよう10組を! さすが殿下、さっそく手配してきますっ!」
インクリュース=オウロー。
普段はちょっとぽけーっとした雰囲気だけど、ひとたび動けば裏表のない元気で明るい兵士さんだ。
階級は少尉。宰相第三夫人のヌナンナさんの実家、ワルハワード家が働きかけて工面してくれた兵士さんの中では一番高い位の人だったので、ワルハワード家に対する僕なりのお礼の意味も込めて今回、側仕えの一人に抜擢した。
「(ああいう性格の人ばかり部下だったら、上の人は楽なんだろうなぁ)」
もっとも頭はあんまりよくなさそうなので、難しい戦略とか作戦とかを相談したりはできないだろうけど。
実際に軍を動かす現場に来ると、色々と発見もあって面白い。だけどいつまでこうして安穏としてられるんだか……
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―――そして半日後。僕が懸念してた通りのことが起こった。
「殿下の奇襲警戒は正に、でしたね。これだけの数が回り込んで来ていたとは」
そう言いながらアーキュロットさんは目を細めながら地平線を見る。そう遠くない位置に砂煙がたっていて、動いてる小さい影がいくつも見えていた。
「ヒルデルト准将の指揮は素晴らしいです。数で劣る敵をこれまで漏らすことなく抑えてたんですから。……ですが兵士さん達も疲労しているでしょうし、准将自身もケガを負っている今、どうしてもどこかに隙が出来てしまいます。むしろ僕はもっと多く来てもおかしくないかも、とさえ思っていました」
偵察隊を編成して作成した警戒網は、さっそく役にたってくれた。おかげで僕達はすぐ迎撃のための体勢を整えて、向かってくる魔物たちをこうして見据える事ができてる。
構築した陣の前に1200名。だけど方角は北向き―――セレナ達最前線を抜けてきた魔物たちにもし気づかなかったら、態勢を整えるのも間に合わずに、僕達の陣は横から攻撃を受けてたに違いない。
「報告! 北の魔物どもの詳細が分かりました。ゴブリン型が400匹前後、ボアラ・ガスが約100体、アンデモ50体、そしてウォルフが50体です!」
ゴブリンは個体で体格や特徴が結構違うから、こういう時はゴブリン型って呼称する。人間の兵士さんに比べると個々は弱めだけど、数が多いのが特徴だ。
ボアラ・ガスは猪の実体ある幽霊、って感じの魔物だ。本物の幽霊と違って物理攻撃が効くけれど、見た目が半透明で風景に同化しやすくて見にくい。突進してくるのが厄介だけど、それだけ上手くいなせれば危険な相手じゃないらしい。
アンデモはパッと見た感じ、前世でありがちな虫歯菌のイメージみたいな悪魔で、いつも低空を飛んでる。でも悪魔に見えるのは姿だけで実際は亜人の仲間。強さは空を飛んでるゴブリン、ってレベルなんだとか。
ウォルフは、ウォークウルフの略。その名前の通り、人間みたいに二足歩行するのが特徴だけど狼獣人のワーウルフとは違って、その身体や生態は100%狼。言葉も話せないし、ワーウルフほどの強さもない。
けど立ち上がって行動する野生の狂暴な狼が、人間にとってどれだけ危険なものなのかは、報告を聞いていたアーキュロットさんの変化した表情で分かった。
「……一番厄介なのは、ウォルフなのですね」
「ええ、その通りです殿下。50体のウォルフは実質、200体のゴブリン並みの脅威と考えてよろしいかと」
他の魔物の強さなども総合すると、相手の戦力は人間の兵士換算でだいたい600人に相当するらしい。
こちらが整えた兵力の半分―――だけど、僕達はあくまで最前線に援軍を送って補助しなくちゃいけない立場にある。なるべく兵士さん達が消耗しないように勝たないといけない。
「全軍、横に広く展開して、ゆっくりと前進してください。……アーキュロットさん、急いで陣からもう600を編成してくる事は出来ますか?」
「可能です。ご用意いたしますか?」
「お願いします。いまでも勝てる戦力差でしょうが、こちらの損失を抑えるためにもより多勢で対応しましょう」
1200 vs 600 なら兵士さん2人で敵に当たれる計算だ。でもそれはあくまでも人間の兵士さんを1とした戦力比率。
実際の魔物たちの数も丁度600だけれど、一部に数体分の強さを持った魔物がいる以上、こちらは兵士さん3人で魔物1体に当たれるようにした方がいい。
「まず、一番弱いゴブリン型の数を素早く減らしましょう。その後、手強い魔物への対応により多くの兵士さん達を合流させて、1体に対して当たれる人数を増やして有利に戦える状況へと持ち込むことを目指します」
そして5分後、僕の指揮する隊と魔物の軍勢との戦いが始まった。




