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弱小ショタなのでビキニアーマーを嫁にした  作者: ろーくん
第四章:王弟くんは賜り貰う
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第57話 明日への思い出を持ち出します



 南部のウァイラン領から戻ってきた翌日、僕はアイリーンにある事を頼んで別行動をとってもらう。


 その間、僕はエイミーを連れてある場所を訪ねた。




「ハァハァ、ハァハァ……フニャァ……し、あわせ、です……殿下ぁ……」

 以前にも訪れた、エイミーの生家―――ボロボロにされたまま、風雨にさらされて酷い有様の、かつてのこの地の領主邸宅。


 その一角に、幼い頃のエイミーの部屋があった。


 あちこち痛んではいたけれど、他の部屋と違ってまだ綺麗に残ってた方。ここで僕は、エイミーを思いっきり抱いた。


 理由は1つ。エイミーの心の底にある、一番辛かった思い出を良いもので塗り潰すため。

 消えはしなくっても、それで少しでも辛い気持ちが緩和されるなら……と、思いつきでかつての彼女のベッドに押し倒した。



「(この場所にやってきた時、エイミーはとても辛そうな顔をしてた。嫌な記憶はなかなか消せるもんじゃないけれど、これで少しは良くなるかなぁ……)」

 何せこの場所は、ルクートヴァーリング地方を領有したら僕の拠点にしようと考えているところ。

 理由はエイミーのことばかりじゃない。歴史的にもエイミーの生まれたお屋敷は、この地方の治政の中心地で有り続けた場所だ。


 なのでこの地に足がかりを築くのは、僕がこの地方を確かに領有したと強く表明する上でも意味がある。


「エイミー……この家は近々取り壊し、そして新しいお屋敷を建てることになります。今日は、エイミーの持ち出したいものをたくさん探しましょうね」

「グスッ、殿下……は、はいっ」

 暴徒に破壊された家。おそらく金目の物なんかはその時にかっさらわれてしまってる。

 けど、エイミーにとっての思い出の品は、そういうモノとは別にあったかもしれない。なので、もしかしたら十数年の時を経ても、この朽ちた邸宅のどこかにまだ残っている可能性はある。



 ―――思い出を拾って明日へ進もう。


 今日は一日がかりでお嫁さん(エイミー)の思い出を一緒に探すんだ。







 廃墟。


 自分の生まれ育った家が無惨な様になってるのは、やっぱり悲しいはず。だけど……


「! あった、ありました殿下! まさか本当に残っていたなんて思わなかったのです!」

 そこには思い出が残ってる。エイミーが崩れた天井の、朽ちた木板の下から引っ張りだしたのは、薄汚れた小さめの肖像画だった。


「これがエイミーの御両親なんですね?」

「はいです、御父様と御母様です」

 今にも泣き出しそうな、それでいて嬉しいような、複雑な気持ちが入り混じってる瞳で、ソレをギュッと抱きしめる猫獣人の少女。

 額縁は簡素な木枠で、絵そのものもあちこちが汚れ、あるいは焦げがあるけれど、下敷きになっていたおかげか状態は思いのほか悪くない。


「これなら職人さんにお願いすれば、綺麗に補修してもらえます。持ち帰りましょう」

「はいっ!」

 涙を浮かべながらも、満面の笑み。僕の心がキュンとなる―――可愛い。


「他にも色々と探してみましょう。……あ、そちらはどうでしたか?」

 フォートル小隊長が僕のところへやってきて、無言で敬礼する。彼らには僕達だと危険かもしれないところを捜索してもらってる。


「ハッ、花瓶をはじめとして、状態の良いものが十数点見つかりました。のちほど奥方様(エイミー)にご検品をお願い致します」


 ・


 ・


 ・


 結果、両親の肖像画をはじめとして花瓶や小さめのタンス、直筆の文字が入った紙類にお皿などなど……探せば見つかるもので、2時間ほどをかけて合計五十点以上もの遺品をGET。


 モノによって梱包の仕方を分けつつ、修理修繕が必要なものはそれぞれの名うての職人の元に送る手はずを整えるなど、フォートル隊長と兵士さん達のおかげで、テキパキと仕分けが進んだ。


「建物を取り壊すときも何か出てきましたら改めて確保してもらえるようにお願いしておきます。もっと色々な品が見つかるかもしれません」

 僕がそういうと、エイミーはニコッと微笑んだ。


「殿下と一緒にいられるだけでも幸せです、なのにこんなにして頂いて、本当にありがとうございます」

 本当に幸せそうな僕のお嫁さんを見て、何だか気持ちが穏やかになってくる。

 するとフワリと優しい風が吹いた。


 焼け焦げた跡が生々しく残る悲惨な現場……なのに、不思議な穏やかさが僕達を包み込んで、明るい未来への輝きが感じられた。








「あれが例の王子とやらか……ガキじゃないか」


「侮るな。そうは言っても王家の人間だ、だからこそ子爵様(・・・)も慎重になられておられる。対応一つ間違ってもいけないからな」


「けどさ、それならなんでザークスなんて小者を “ 領有代行者 ” に仕向けたんだい? アレはやらかすでしょ、そのうちどっかで」


「小者だからだろ。貴族っつってもピンキリ……ミスしたところで切れる奴と切れねぇ奴がいるが、ザークスの野郎はイザって時にゃ切れる方だってこった」


「そういう事じゃろうな。どうも旦那様(・・・)はこの地より手を引くおつもりでいるようでもある……欲をかいて尻尾を掴まれるような真似をするのは、下っ端だけで十分というわけじゃの」


「掴まれたとして切り外せる尻尾ならばなお良し、という事か。偉いさんの考える事はめんどくせぇな」


「その偉いさんらが何だかんだウダウダやってくれるおかげで、アタイたちは稼げるんだ。言われた通りの仕事だけしてりゃいいだけだよコッチはさ」


「その通りだな。俺らは仕事の報酬さえ貰えればそれでいい」


「……で、どうする? あのチビっこ王子様の寝首をかくって話?」


「それはやれそうなら、という前提だろ? ……見ろ、護衛の兵士はペーペーじゃあない、あれは完璧にベテランのプロばかりだ」


「うむ、何をどうやってみたところで、儂らにはあの護衛は抜けんな。ということは……」


「ああ、このまま監視だ。見たままをありのまま報告する。相手が相手だ、ヤバい橋を無理に渡る必要もない……やれる時にやればいい、だろう?」







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