第49話 お嫁さん達と巡幸です
今は代行者が治めているけれど、王都から北東に位置する地はエイミーの故郷―――ルクートヴァーリング。
通称ルクヴァールと呼ばれるこの地方が、僕が手に入れようとしている場所だ。
ガラガラガラ……
カッポカッポカッポ……
ガッシャガッシャ……
馬車の車輪、馬の蹄、兵士さん達の鎧の音。
僕は今日、200人体制でこの地方へと赴いていた。同行する兵士さんは父上様の計らいで付けてもらった近衛の一隊で、普段は隠居の父上様の周辺警護しか仕事がなくて腕が鈍ってるからと、二つ返事で貸して貰えた。けど―――
「―――国内で大規模な魔物の出現がまた起こっている、というお話が気がかりですね」
当初僕は今回のルクヴァール訪問の護衛には、セレナから小規模な小隊でも借り受けられればと思っていた。
(もちろん、セレナの実績を1つでも多く積み上げるためだ)
……けど少し前、再び国内で魔物の大規模な軍団が出現した。セレナ達は砦の最低限ギリギリの戦力だけを残して出陣し、日々戦いに務めている真っ最中。とても兵士さん達をお借りできる状況じゃなかった。
かといって、エイミーと結婚してから時間を置くと、あの地方を狙う他の貴族に遅れを取ってしまう。
行くなら今だと思った僕は、結婚式からまだ5日目の今日に訪問する電撃的なスケジュールを何とかこぎつけた。
「大丈夫です、旦那さま! 旦那さまとエイミーちゃんは私がバッチリ御守りしますから!」
僕に対面する形で馬車に同乗しているアイリーン。
結婚当時と違って二十歳を越え、体型が少し変わった。装着しているビキニアーマーは新調され、一部が一段と際どく、けど重厚さと王室の者としての威厳ある意匠のモノになっていた。
「(結婚した当時より、オッパイが2まわりほど大きくなったもんね。普通のブラじゃなくて金属製だし、さすがに昔のじゃキツキツだったんだろうなぁ……)」
けど肉付きが増えたのは胸やお尻だけ。腰は当時のまま―――下手すると少し細くなったかもしれない。
僕のお嫁さんはスタイルをはじめ、このところますます美女になっている。
「お噂程度ですが私が聞いたお話ですと、この度出現した魔物の数は2000を越えているとか……セレナ様はご無事なのでしょうか?」
僕と結婚したエイミーは、もうメイドじゃなくて王弟第二妃だ。
だからメイド服は当然着ないけど、本人が落ち着かないという理由から外行きの比較的簡素で良いドレスは、メイド服をベースに王室女性に相応しい品格を持たせたモノを着てる。
まだ日が浅いし、メイドだった頃のクセが強く出たりして、僕のお嫁さんという立場に恐縮気味だけれど、そこがまた可愛い。
今日は僕の隣に同席。アイリーンが新婚さんだからと気を利かせた。
「……軍の皆さんとセレナの無事を祈りしましょう。僕たちは僕たちで今やるべきことをします―――マデレーナさん、御者さんにこの近辺で停車できそうなところがあったらそこで休憩に致しましょうと伝えてください。アイリーンは小隊長さんに周辺の警戒を、と伝えてくれますか?」
「はっ、かしこまりました殿下」
「はーい旦那さまっ」
マデレーナさんは普段、父上様の隠居先で働いているメイドさんだ。
凛としていて鋭い刃物みたいな雰囲気で、いかにもメイド兼護衛な感じの女性。僕たちの会話の最中も、まるで自分は置物ですと言わんばかりに微動だにしてないし、かと思えば僕が話しかけると、しかと向き直って承りましたと礼儀を尽くす。
「(父上様、なんかすごい人を僕に付けてくれた気がする……)」
馬車の中ではアイリーンの隣に座ってるけれど、色んな意味で僕のお嫁さんとは対極的だ。
スタイルはほっそりとして胸は……まぁ残念だけれど、背があって脚が長い。両手をヒザの上で交差させて背筋をピンと伸ばして座る姿がすごく綺麗だ。
「(ビックリしたのは馬車がどんなに大きく揺れてもあの態勢をぜんぜん崩さないもんだから……まさか本当に置き物じゃないかって思っちゃったよ)」
黒艶の、一切歪みのないストレートのロングヘアー。ハカマを着て薙刀とか刀とか持ったらすごく似合いそう。
「(でも、名前は日本的じゃないっていうね。この世界の人種とか民族とかってどうなってるんだろう……今度時間があったら、そういった歴史とか調べてみるのも楽しいかもしれない)」
何よりアイリーンがキャッキャッとはしゃぐ子供っぽいタイプなのに対して、これぽっちも微動だにせずにすごく大人しい。
だからこうして並んでいると対照的な分、逆に目立つんだ。
ヒヒーン! ブルルルッ……
馬の嘶きが聞こえると馬車が停まる。そして扉をノックする音が車内に響いた。
『失礼致します、小隊長のフォートルです。殿下、ご休憩地に到着いたしました』
「ご苦労さまでした。最低限の警戒態勢は維持しつつも、兵士の皆さんにご休憩を取らせてください。―――ではマデレーナさん」
「はっ、すぐにご準備を。先だって下車いたしますこと失礼致します」
こういう時、一番最初に馬車の外に出るのは同乗する下位の人間だ。外に危険が待ち受けてないとも限らないから。
安全を確認したら、僕たち上位の人間が下車するための準備を外で行う。今回の場合は僕らがくつろげるように場を整える。
それら全てが完了して、ようやく僕たちは外に降りられるんだ。
『ご準備できました。殿下、奥様方、どうぞお降りください』
「ご苦労さまでした。では参りましょうか、アイリーン、エイミー」
少し前までは自分の仕事だっただけに、エイミーは待っている間も手持ち無沙汰な様子だった。
可愛らしくモジモジしていた彼女の様子を見て僕とアイリーンはほっこりとしていたので暇を持て余すことはなく、エイミーはいまだにメイドとして無自覚に僕たちのお役に立っていた。




