第107話 武器術とスキルです
刃のない槍を振るった。空を切る音が裏庭にこだまする。
「思ったより熱心だよね、殿下。槍術、得意だったりするの?」
ヘカチェリーナがアイリーンお古をカスタムした自分のビキニアーマーを着けて、練習に付き合ってくれてる―――といっても、相手してくれるとかじゃなくって、あくまで側仕えとして、イザという時に僕の最終的な護衛を務めるためだ。
王城の敷地内だけど建物の中じゃない。
最近はアイリーンのお腹が大きくなってきたこともあって、裏じゃ怪しい動きをする人が増えてるって話をウワサ程度だけど耳にした。
なので念のために兵士さん5人とメイドさん(ある程度の武装込み)3人を常時お供にするようにしている。
「不穏なウワサをよく聞くようになりましたからね。僕程度じゃ歯が立たないでしょうが、危険が迫った時に少しでも対処しやすくするためにも、鍛錬はしておいて損はないかなと思ってます」
実際、剣よりも槍の方がしっくりくるし、何よりこういう棒状の武器の心得は役に立つ可能性が高い。
というのも、僕の生活や身の回りを振り返ってみると、明確に剣状もしくはそれに類する大きさのモノは意外と少ないことに気づいた。
逆に、お城の廊下なんかに飾られてるのは槍を持った鎧とかが多いし、また槍じゃなくても、槍っぽい長さの棒状の物は結構そこらにある。
もし手元に武器がない状態で襲われたら、手近に代用できそうな物で考えたら、槍術を練習しておいた方がいいって思ったんだ。
……まぁ、常に剣とか槍を持ち歩いてればいい話かもしれないけども。
「ウワサねー。確かにアタシもちょこちょこ聞くけど……この凄いお城に忍び込んでバカやれるよーなのがそこらにいるもんなの?」
そう言ってヘカチェリーナは上を見上げる。そこには壮観で荘厳な建造物の一角、その下部が見えていた。
この王城はちょっと凄い。
規模もそうだけど造りも凄くって、前世で見聞きした古今東西あらゆるお城を思い返してみても、このお城に匹敵するモノはない。
「(ホーエンザルツブルグやウィンザー城、日本だと姫路城とかも広いけど……)」
敷地面積はそれらの上いく。体感じゃあ、敷地の1辺は500m以上あって、面積でいったら最低でも25万㎡以上。実際、このお城の収容可能な人数は、ちょっとした都市クラスだ。
小さい頃は案内する人がいないと一生家族に会えないんじゃないかって思ったくらい広い。
尖塔の数も多いし、階層も多い。魔法の力で上下を行き来できるエレベーター的なモノがあるおかげで移動はかなりマシだけど、それでも大変だ。
「……確かに侵入者がいたとして、この広い王城の中で目的の人物なりを探しだすのは一苦労でしょうね」
苦笑しながらも、僕は続く言葉は口にはしなかった。
侵入者が外からやってくる前提なら、その通りだ。けど、もし最初から王城内に侵入していたら?
広いお城なだけに使用人の数だけでも常時千人以上。兵士さんも含めたら万人を余裕で越える数の人間が城内にいる。そこの1人か2人怪しいのが混ざってたって、たぶん分からないだろうし。
「(言ってしまえばメイドさん達や兵士さんの中に、怪しい人が紛れてたっておかしくないんだよね)」
もしかしたら、僕の護衛をしてくれてる兵士さんの中にそういうのがいないって言いきれない。メイドさん達も同様だ。
もしそうならピンポイントで僕やアイリーン、エイミーを狙える。そうなったら護衛がいくらいたってまず間に合わない――――――最後の最後は自分だ。
「(……スキルがもっと使えるモノだったら良かったんだけどなぁ)」
僕のスキルは、僕自身には直接影響を及ぼさない。
他の人にプラスの影響を与えることができるものなんだけど、それを秘密にして使わなようにしたのも、誰が僕にとって危険なのか分からないから。
僕が信頼していた人間がある日突然 " この時を待っていたー " ってなるかもしれない。そんな人にもし僕がスキルでプラス効果を与えてたりしたら間抜けだ。
「(自分自身に使えないって言うのが一番もどかしい……もし使えたらワンチャンあったのに)」
色々もっと楽に進めることが出来たに違いない。
けど創作話と違って、現実はチートをそうそう許しちゃくれないらしい。
「! ……そういえば、この中でスキルを持っている方はいらっしゃいますか?」
僕は槍を振る手を止めて、軽く汗を拭いながら何気なく護衛の兵士さん達やメイドさん達に問いかける。
8人中6人は “ いえ、残念ながら ” と首を横に振った。その仕草に不自然さは感じられない。
1人の兵士さんが少しばかり言いにくそうにしながらも “ 一応あります ” と言った。スキル持ちは時に他人から妬みを受ける。だけど兵士さん達はみんな、事前にその辺の調べはされていて把握されてるので、持っていませんと嘘をつくことは出来ない。
……ちょっと僕の配慮が足りなかったかもしれないと、その兵士さんに向かって心の中で謝る。
そして、何故かやたらと冷や汗かいて視線を逸らしているもう一人がいた。
「ヘカチェリーナ?」
「……いや、うん、スキル、スキルね? そりゃあアタシも地方貴族っていっても令嬢だし? そりゃうん、スキルくらい……ある、し?」
何でそんなに慌ててるのか。
最初は何かよからぬ事を企んでるのかなと、ごくごく一瞬だけ真面目に警戒はした。けど彼女を観察するにつれて、その心配はないことが分かる。
ヘカチェリーナの隠し事はおそらくイタズラ的なものだ。
彼女を専属メイドにしてからそこそこ経つし、肉体関係もある間柄。表情や態度、仕草から、最近は何となく見透かせるようになってきた。
「……。今度じっくり聞かせてくださいね」
ニッコリ。
ヘカチェリーナも僕の機微を敏感に捉える子だ。
僕がハッキリとした笑顔で言ったことで逃げられないと悟ったんだろう。ガックリ肩を落として観念していた。




