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第3話 アナグマ

 『エルフ狩り』。


 数年前に起こった凶悪な事件である。その名のとおり、多くのエルフが誘拐されたのだ。その後誘拐されたエルフの生死は不明だが、死亡扱いとなっている。


 犯行は主にオークやゴブリンによって数年にわたって続き、これによってエルフの数は大幅に減少し、今やエルフはウェウクトル領以外で見られることはほとんどなくなった。



「じゃあ悪いのは結局オークたちじゃないか。なんで人間が憎まれてんだ?」


 アストライアの説明を聞いていたカインは、思わず口に出した。


「いや、本題はここからさ。君が知りたがっている、人間がしたことについてだ―――」



 元々人間とエルフの関係は良好で、むしろ交流の盛んな間柄であった。

 しかし、この良い関係が逆に利用されてしまう形となった。


 相手が人間であればエルフは警戒しない。そこを賞金稼ぎや悪質な魔獣ハンターなどに狙われ、多くのエルフが誘拐された。


 これによって、人間とエルフの間の数百年にわたる絆が瓦解してしまったのである。



「―――まぁ、当時そんなことをした外道は片っ端から捕まえられたんだけどね。エルフとのつながりを断ち切った罪は重いよ。」

「………非道いな。」

「彼らとわたしたちにはそういう事情があるんだ。分かってやってくれ。」

「なるほど。そういうことだったのか。」


 後ろを振り返ると、数名のエルフと目が合う。「少しでも怪しい動きをしたら殺す」と言わんばかりの警戒の気持ちが肌で感じられた。


 その時、隣を歩いていたアストライアがふと足を止めた。

 それに気づいたカインが正面を向きなおすと、二人の目の前に()()のようなものがあった。そこまでの高さはないので馬車は通れる。わざわざ立ち止まる必要はないはずだが。


「………まずいな。」


 そうつぶやくアストライアの顔は、少し険しかった。

 するとアストライアは後ろを振り向いて、


「止まれ!!」


と大声でキャラバン全体に呼びかける。


「どうした?アストライア?」

「……どうやらここは【アナグマ】のテリトリーのようだ。」

「アナグマ――――って何だ?」

「魔獣の一種さ。地面に穴を掘って、その穴を巣にして生活してる。あいつらは耳が良くてね。地面の上で獲物が動く音を聞き取って、穴の中から強襲するんだ。」


「何事ですか?」


 いきなり止まったキャラバンの状況に驚いたのか、グレゴリーが慌てた様子で駆け寄ってくる。


 ズズズ………。


 地面が揺れた気がした。


「まずい!走るな!グレゴリーさん!」


 アストライアが叫んだ刹那、グレゴリーの後ろの地面に大きくボコッと穴が開いた。


 その穴から出てきたのは、見た目はまさしくクマであるが、その頭頂部には一本の角が生えており、通常のクマと比べはるかに巨大な体躯と鋭い爪を持っていた。


「――――あ、―――」


 グレゴリーは突如現れた魔獣に足がすくんで動けない様子である。


 その様子を見てカインはいち早く疾走する。だがこの距離では()()しても間に合わない。

 ならば手は一つ。


「アストライア!!」

「あぁ。()()()()()よ!」


 長い付き合いだ。名前を呼ぶだけでお互いが何をしたいか伝わる。


 アストライアは瞳を閉じ、集中する。すると周りのエーテルが白い輝きを放ちだす。魔法の発動兆候だ。

 瞬間、アストライアの周りのエーテルが今までで一番強い光を放つ。

 目を開き、詠唱する。


空間魔法スペース置換スワップ。」


 するとグレゴリーとカインの足元に魔法陣が現れ、たちまち二人の立ち位置が入れ替わった。

 グレゴリーと入れ替わりでアナグマの眼前に現れたカインは、赤いエーテルの光を放っていた。


〈ヴォォォォオオオァァア!!!〉


 アナグマは咆哮と同時にその巨腕を振り下ろした。

 すんでの所で躱し、


強化魔法エンハンス腕力ブロウン!」


 カインはアナグマのがら空きになった脇腹に赤い輝きを放つ腕をねじ込む。

 数倍に強化エンハンスされたカインの腕力によって、アナグマの巨体は見事吹き飛んだ。すかさずカインは巨体の影を追う。

「こ、これはいったい………?」


 本来ならば自分がいるはずもないところに一瞬で移動し、さらに自分を襲うはずだったアナグマが吹き飛んでいる状況に、グレゴリーは困惑を隠せずにいる。


「危なかったですね、グレゴリーさん。」

「アストライア殿……これはいったい………?」

「とりあえず下がっていてください。キャラバンの皆さんにも、そこから動かないよう伝えてください。では。」


 そういってアナスタシアは右手に持つ杖でコンッと地面をつつく。するとアストライアの足元に魔法陣が現れ、瞬間アストライアの姿が消えた。


 グレゴリーは呆気に取られて何も言えなかった。


「………な、何なんだ、いったい………」



 ***



 カインがアナグマの下についたころ、アナグマがちょうど体勢を立て直すところだった。

 するとちょうど同じタイミングでカインの隣の空間にアストライアが現れる。


〈グルルルル………〉


 さすがに殴りを一発入れられたところで、アナグマにひるむ様子はない。


〈ガァウァアアア!!〉


 目の前で対峙するアナグマは再び咆哮をして、穴を掘って地面にもぐってしまった。


「カイン、前に探知魔法サーチは教えたね?」

「あぁ、教わった。まだちょっと自信ないけど。」


 アストライアは腕を組んで「う~ん」と少し考えた後、「よしっ!」と何か思いついた顔でカインを見た。


「久々に実戦形式の授業をしよう!」


 ―――あぁ、またこの人はバカなことを言い出すぞ。


 カインは嫌な予感がしつつも、とりあえず「何をするんだ?」と気怠そうに声を出す。

 続いて出されたアストライアの言葉は、カインの予想とは違うものだった。


「カインにはあのアナグマを一人で倒してもらいます!」


「―――は?」

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