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第2話 エルフのキャラバン

 「人助けの旅」といっても、当てもなくただ歩き続けるわけではない。


 先ほどこなした依頼のように、依頼主からその場で直接依頼される場合がほとんどではある。しかし、土地の地主のような、よほどの金持ちの依頼以外は、その報酬は微々たるものしか得られない。


 では大きな依頼(例えば貴族からの依頼)はどのように受けているのか。答えは簡単で、仲介人を通して依頼を受諾するのである。



 ***



 カインたちは、当面の依頼を終えて、キャンプをしつつひと段落ついていたところだった。すると、アストライアがいつも腰につけている小さな水晶玉が、青緑の光を放ち自身の存在を知らせはじめる。この水晶玉は「渡り目」と呼ばれる魔道具で、遠隔通話が可能である。


「いいタイミングだね。カイン、少し待っててくれるかい。」


 そういってアストライアは少し離れたところで誰かと通話を始めた。


 ―――そういえば、「渡り目」でいつも誰と話しているのか、これをアストライアに聞いたことはなかったか。恐らく、というか十中八九、その通話している相手から依頼を受けているのだろうが、果たしてどこの誰なのか。別に意図して聞かなかったわけではないし、アストライアも聞かれたくないような空気を出しているわけではなかったのだが。


 そんなことを考えていると、通話を終えたアストライアが戻ってきた。


「じゃ、行こうか」

「新しい依頼?」

「そ。キャラバンの護衛任務だよ。どうやら“ダニア”の近くを通っていくらしいんだ。それで護衛が必要なんだって。」

「“ダニア”、ね。なるほど、それは護衛の一人や二人はいないと怖いだろうね。」


 そんなことを言いながら、キャンプの後片付けをはじめ、出発の準備をする。


 “ダニア”。


 オークやトロールのすみかで、かつて大きな戦争が起こり、そのまま荒れ地になれ果てているという。“ダニア”周辺では、常にオークやゴブリン、トロールなどが徘徊しており、魔法も使えず、剣術も備えていない一般人が、気軽に足を踏み入れられる場所ではない。


 ましてや一介の商人の集まりであるキャラバンであれば、彼らのいい標的だろう。



 そも、このエデンヴェルトは大きく四つの“領土”に分けられている。“ダニア”ももちろんその一つである。


 それと、「水の都」と呼ばれる“イスガレム”。主に水属性の魔法が台頭しており、首都「アクア」では常に雨が降っているという。人間と竜人族が主に暮らしているという。


 次に“ウェウクトル”。エルフの領土。首都は「ペテルゲルフ」で、エルフの得意な風魔法が主に見られる。土地の起こりから現在に至るまで、もっとも古くから生きていると言われる、《森の奥方》セラフィマが統治している。


 北の山脈に連なる鉱脈に沿って栄えている“アッパー”。ドワーフ族が治める領土で、彼らは地属性の魔法を得意とする。首都は「プラウド」。


 最後は“デルムンド”。この世界の中心に位置する領土であり、最も多種多様な種族によって構成され、主に火魔法と、ほか様々な魔法が研鑽されている土地。首都は「センター」。ただ、魔法の価値を非常に高く見る風習があり、噂によると奴隷制が存在していたり、魔法の使えない人々を差別している人がいるという。



「どっこいしょ、っと。」


 カインがまとめた荷物を背負い、出発準備を終えた二人は、集合場所へと足を進める。


 するとアストライアがおもむろに、


「ん~、ただね~。依頼主がなぁ……」


 と渋い顔をしながらつぶやく。


「依頼主が、どうしたって?」

「うん~。実は今回の依頼主は【エルフ】なんだ。」

「エルフ?エルフの何が悪いんだ?」

「……あぁ、いや。大したことじゃないよ。私の杞憂ならいいんだ。」


 そう言って、アストライアはまだ心に何か引っかかるような顔をしていた。



 ***



 集合場所につくと、すでにエルフのキャラバンが到着していた。


 思っていた以上に大所帯で、カインは改めて気を引き締める。


 そんな中、二人は依頼主であるエルフの商人、グレゴリーのもとへ挨拶に行く。


 心なしか、エルフの人たちからの視線が痛かった。


 カインはエルフの歓迎がこんな形だとは思っていなかったため、少し委縮してしまう。しかしアストライアはこの状況が読めていたのか、全く動じることなく、


「どうも、グレゴリーさん。今回あなた方の護衛を務めます。わたし、アストライアと、こちらはカインです。」

「ど、どうも。」

 

 カインは困惑しつつも、紹介された条件反射で言葉を発する。

 目の前でしかめっ面でカインたちを見つめるグレゴリーは、品定めするように視線を上下に動かす。


「………あぁ、よろしく頼みますよ。」


 カインたちの品定めを終えたグレゴリーは、うだつの上がらない返事をした。


 エルフたちの態度が一向に理解できないカインは戸惑うばかりだが、


「はい。では、失礼いたします。」


 アストライアがそう言って戻ってしまうので、カインも後に続く。

 後ろからはほかのエルフたちがひそひそと話しているのが聞こえる。


「よりによってなぜ人間が……!」

「信用できないわ」

「気をつけろ。また()()()()ぞ。」



 ***



 グレゴリーのキャラバンは、一台の大きな馬車ともう二、三台の馬車からなる、キャラバンとしては大きな規模である。


 気になる点が二つある。まずは先ほどのエルフたちの悪態。自分たちは何かした覚えはない。それともう一つ。これほど大きな規模であるにもかかわらず、構成人数が異様に少ないことだ。二十人はいてもおかしくないが、実際ここにいるのは十人程度だ。


 ―――護衛としては人数が少なければ守りやすくて助かるけど……


 先頭を歩くカインはそんなことを考えながら周囲を警戒する。


 ただそれよりも気になるのは、エルフたちのあの態度だ。どうやら【人間】に対して敵対心を抱いているようだが。


「驚いたかい?」


 隣を歩くアストライアが話しかけてくる。

 先ほどから何か事情を知っている風である。


「うん。ビックリした。またあんたが何かやったんじゃないか、ってさ。」

「あはは!手厳しいなぁ。ん~まぁ、彼らの事情もわかってあげてくれ。」

「事情?それってどんな?」


「―――『エルフ狩り』だよ。」


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