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越えてしまったボーダーライン

「おう! よくきたな。大荷物じゃないかっ。言ってくれたら迎えに行ったのに」

「これくらいなんてこと、ないですから。お、おじゃまします」


 金城はかみしま特警隊の平良の家に来た。主計科の名にかけて、平良隊長を手料理で唸らせるためだ。もっとも、作ってみろと言ったのは平良のほうからだが。


(私服の、平良隊長だ……なんか、変な感じ)


 いつものあの勇ましい制服ではない。サングラスも肘当ても膝当ても、防弾ベストも身につけていないどこから見ても、普通の人。それでもちょっと厳ついけれど、年上のかっこいい上司といった印象だ。


「なんだよ。俺の体に何かついているのか?」

「へっ! あ、いえ。その、今日は特警隊じゃないなーと、思いまして」

「休みの日まで特警隊なんて、誰がするかよ。とりあえず、なんか飲むか? あ、ビールしかないな。お茶とか気の利いたものないんだよな。水しかねぇ。ちょっと買ってくるから、適当にやっててくれ」


 平良は財布とスマートフォンをポケットに押し込むと、玄関で靴を履いた。それを見た金城は慌てて平良の腕を掴んだ。


「待ってくださいっ。こんなこともあろうかと、わたし買ってきているんです。だから、大丈夫です!」

「そうなのか? なんだ、俺の確認不足か」

「いえ、そんな事ないです。ありがとうございます」


 金城は平良の腕を両手で掴んだまま笑顔で答えた。金城が掴んでいるのは前腕である。手首に向かって細くなるものの片手では掴めないほどの筋肉量。さすが我がかみしま特警隊だ。


(うわー。硬い……太い、たくましい!)


 金城はその腕を掴んだまま、その硬さに感動していた。そして、掴まれたままの平良は驚いていた。見た目も職種も恐れられているのに、この若い娘は嬉しそうに微笑んでいるのだから。


「き、金城くん」

「あっ! 失礼しました。えと、ではさっそくお台所をお借りしますね」

「ああ。なにか手伝うことがあれば言ってくれ」

「はい。その時は、お声かけします」

「うむ」


 金城は元気よく台所に向かった。鼻歌でも聞こえてきそうなくらい、軽やかに材料を出している。

 一方、平良は手のひらで自分の口元を覆っていた。自分から呼んでおきながら、金城の可愛らしさに動揺しているのだ。いや、まさか本当に来てくれるとは思ってもみなかった。

 エアーボートを巧みに操った彼女と、可憐な仕草で台所で振るまう姿は平良を翻弄するのにじゅうぶんだった。


 ―― 恐ろしい子だ……


 引き返せない何かのラインを平良は越えたような気がしていた。


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