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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王、勇者になる……え?

作者: 桜木


「勇者様!どうか…どうか憎き魔王めを打ち倒して下さいませ!」


「いや、あの────」


「大丈夫です!勇者様が居なくても早々魔物共に遅れなど取りませぬよがッはっはっはっ!」


「だから────」


「さあ皆の者よ!我らをお救いになった勇者様とその一行の出発だぞぉぉぉぉ!」


「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」


「えっと…行ってきます……」



 どうしてこうなった!どこで間違えた!いや分かってるあの時、あいつがあんなことをしやがったからぁぁぁぁ!………



 あれはそう、三日前…



「魔王様!先代を亡くされて悲しいのは分かりますが、もう一年にもなりますぞ!いつまで引きこもっているおつもりですか!近頃では今の魔王は腑抜けだの実は死んでいるなど好き放題噂される始末!情けないとは思わないのですか!!どうなのですか若!!………おっと失礼しました」


「…うるさい」



 親父の代から仕えてくれている龍族の長ガンドラが部屋の外から説得兼説教をしてくる。他の四天王が親父と一緒に散ったのを重く見て、オレを立派な魔王にしようと一生懸命なのだろう。



「おやおや誰かと思えば“殲滅セシ者”ガンドラ様ではございませぬかぁ。いつもいつもご苦労なことですなぁククククク」


「デスターか。新たな四天王に選ばれたからといってその態度はなんだ?少し調子に乗りすぎなのではないか?……()()()()()()()



 ズシッと空気が一気に重くなる。



「っ!?……ゴホンッ…いえいえそんなつもりはございませぬよ」


「ふんっ…で?何用だ?」


「そうでした。警備の者が呼んでおりましたぞ、なんでも不審な者を見たとか」


「なるほど、分かった伝言感謝する。それでは魔王様、また来ます」



 どうやら侵入者が出たらしい。命知らずなものだ今のピリピリした魔王城に忍び込むなんて。



「魔王様?起きていらっしゃいますよね?…実はお耳に入れておきたき事がございます」



 あれ?まだ居たんだデスター。



「なんだいデスター」


「魔王様も就任なされて約一年になります。そろそろ人間どもに対して一手を打ってみませぬか?」


「…」


「なぜこんなことを申し上げますかと申しますと、魔王様もお聞きの通り近頃魔王様を侮っている者達も少なくありません。そこで、近くにある町を襲撃して魔王様の存在を示すのです!」


「だが────」


「ご心配なされぬな。先代様の意向通り、抵抗せぬ者に危害は加えませんよ」


「……分かった」


「おお!では」


「ああ!町を制圧して皆を見返してやる!」


「ははぁご命令の通りに」



 そこからはあっという間だった。装備を集め、兵を募り作戦を細かく決めた。ガンドラに知らせずと言うのでこっそり進めた。

翌朝、早朝に出発したオレ達は一日ちょっとかけて最前線の町に到着できた。時刻は昼過ぎ。兵隊は森の中に隠し斥候の報告を待つ。



「いよいよですなぁククククク」


「ああ。なあ、大丈夫だよな?」


「ククククク何も心配なされるな王よ」


「ご歓談中失礼します。デスター様」


「どうだった」


「はっ。何も問題はございませんでした。作戦通りに?」


「ククククク勿論だ」


「はっ。では!」



 斥候は森に消える。


「では行きましょうか」


「ああ。では…皆の者!かかれぇ!」


「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」



 森の中に隠れていた兵隊が四方八方から町へ襲いかかって行く。



「さっ、我らも」


「あ、ああ!」



 先導するデスターは迎撃しようとする冒険者や衛兵の中に消えていった。



「オレも続かなくちゃ!うおおおお」



 走っていた衛兵の後ろから腰の魔剣を振り下ろす。が、気づいた衛兵が剣で防いで吹っ飛ぶ。



「な、なにをする!」



 ドカーーーン!悪魔族の兵の魔法がさっきまで衛兵が居た場所に着弾する。爆風で吹き飛ばされるオレ。



「ぐっ!誰だか知らないが助かった!見たところ強者のようだ。拙者は行くが死ぬなよ!」


「痛ててててて……あ、いや待────」



 雑魚の魔法だったから大丈夫だったけど死ぬかと思った。衛兵に逃げられるわ被弾するわで散々だ。身体中についた砂を手で払って立ち上がり周りを見渡す。どうやらあの悪魔族の兵は居なくなったようだ。



「さて、逃げられた以上また探さないといけないんだけど………ん?」


「いや!やめてぇ!助けてぇぇぇ!」


「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ逃げられねぇよ!大人しく殺されなぁ!」



 状況が読めない。部下の兵に襲われているのはどう見てもただの町娘。考えが纏まらないのにオレの身体が勝手に部下を切りつける。



「ぐぁぁぁ!何しやがる!」


「なっ!オレは────」


「あ!クソッ逃げちまった!何で邪魔するだよ魔王様!」


「お前が作戦を守らないからだ!」


「は?…………あ!ああそういうことか!ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ魔王様、あんた()()()()()聞かされてないんだな!ダッセー!ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」



 は?コイツは何を言っている?本当の作戦って?……。戦場なのに頭の中が真っ白になった。



「あーー笑った笑った!そんな魔王様に教えてやるよ!俺様やさしぃーー」


「……早く、教えろ…」


「まあそんなカッカすんなって!余裕無いのバレバレですよ?まあいいや本当の作戦はですねぇ、()()()()()()()()()()()()()ですよ」


「…」


「じゃっ、伝えましたんで行きますねぇ」



 気づいたらオレは屋根の上をなにかを探しながら走っていた。運が良かったのかそのなにかは比較的すぐに見つかった。今回の襲撃を発案したデスターだ。デスターは集めた町民に掌を向けながら何やら喋っているようだ。さっき聞いた話の確認を取るため近くに飛び降りる。



「────なお前達は、高貴で恐ろしいわたしに殺されるんですよ?光栄に思って死になさい!」


「…何をしている」


「?…おやおや、遅いご到着ですねぇククククク。何をって勿論虐殺ですよぎゃ•く・さ・つ」


「そんなこと」


「そんなこと、なんですか?」


「そんなことさせはしない!」



 一瞬でデスターの懐に入り動揺や悲しみ苛立ちを一緒くたにした全力の蹴りを放つ。バリンッ。どうやら咄嗟に張った魔力防壁と鎧を砕いたらしい。



「ごほっ」



 ドカーーーン!ガラガラガラ……。吹き飛んだデスター。流石は四天王といった所か、立ち上がれないまでもまだ意識があるようだ。呆然とする町民達。魔剣を抜き、ゆっくりとデスターに近づいて顔に突きつける。



「撤退しろ」


「ぐっ…ごほっごほっ。貴様っ…わたしを…敵にまわして…ごほっ………只で済むと思っているのかぁ!」


「なんだ…そんなことか」



 勘違いしているようなので親切にデスターの耳元で呟いてやる。



「オレは魔王だぞ?()()()



 ブルッ。顔が青くなっていく。どうやら本気の威圧は効いたらしい。



「クソッ!撤退だ!」



 デスターは懐からへしゃげた魔笛を取り出すと空に向かって吹いた。ピーーッピーーーーッ。撤退の合図だ。これで良し、帰城したら軍会議を開かなきゃな。忙しくなるぞ!



「もし、そこの御方」


「ん?」


「もしや貴方様はかの有名な()()()ではございませぬか!」


「は?」



 何言ってんのこのおじさん。あまりにも意味が分からなくてつい、部下に支えられるデスターを見る。デスターも唖然としていたが、なにかを思いついたようでニヤリと嗤った。ゾクッ。なんだか良くないことを考えた気がする。



「ククククク。今回は退いてやる!だが次はないぞ()()ぁぁぁぁ!」


「ばっ!」



 あいつやりやがった!仕返しにしても質が悪すぎるぞ!魔王が勇者?冗談じゃない!すぐに違うと言おうとしたがどこに持っていたのか転位の魔道具で逃げていった。町から退却したのかシーンと静まり返る。



「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」


「うおっ!うるせぇぇ」



 堰を切ったように騒ぎ出す民衆。そりゃあ襲撃者達が去って行ったのだから仕方ないっちゃあ仕方ないが、騒ぎすぎである。あと、まだ魔王居るからね?言ってないけど。



「流石は勇者様!さっきのは新たに四天王になったとされるデスターです!まだなったばかりとはいえ、強敵をああもあっさりと!」


「あ、ああどうも……って…いや、待って!あっ!そうだ!コレ!コレを見ろ!」


「こ、コレは!」



 咄嗟に取り出した魔王の証“魔王石”だったけど、流石は最前線の町。コレがなにか分かったようだ。魔王だと分かったことで襲いかかってくる奴も出てくるだろうが、さっさと蹴散らして帰ってやる!



「魔王を倒すと手には入るという魔王石ではないですか!流石は勇者様。既に一人倒しておられたのですね!この色からして、この先にある西の魔王ですかな」


「え?」


「西の魔王は既に倒され代替わりしたはず。壮絶な戦いだったと聞いております!見たところ年は十七、八といったところでしょうか?大変苦労されたのですねぇ」



 やべぇ。このおじさん全然話聞かないし通じない。え?これが普通なの?オレがおかしいの?分かんねぇ……。とりあえず。



「えっと…ありがとうございます?えっとこんなこと聴くのもあれなんだけど…オレってどう見える?」



 オレが人間に見えているのか確認しないと



「どうと申されましても…あ!ああ!ああ、気にされなくても大丈夫ですよ!その位のアザならむしろ格好いいです!」



 これ、アザじゃなくて魔力を通す刻印なんだけど。まあいいや。あと、角があまり長く無かったのが良かったかも。ずっとコンプレックスだったけど今回は気合を入れるために髪を立ててきたから見えないみたいだし。



「ああ!えっと…顔色が良くないようですが大丈夫ですか?」


「あっ!大丈夫です」



 まあ、とりあえず人間に見えるなら良かったのか…な?そこからは時間が経つのが早かった。あれよあれよという間に瓦礫の片づけが始まり、ある程度片づくと中心に在る広場で宴会が始まってしまった。いったいどこにあったんだというぐらいの食料と酒が振る舞われ、飲めや歌えの大騒ぎ。久しぶりの賑やかな食事。……………ちょっと良いなと思ってしまった。



 翌日。二日酔いでぶっ倒れる男どもをまるで物のように扱う女達を見て、女はたくましいなと思った。おじさん(町長だった)の娘に言われて、昨日の衛兵と一緒に町の周辺を話しながら警備した。実は臨時の衛兵で本職?は放浪の剣士だという。



「えっと…明日には出て行くよ」


「なんと!では拙者も連れて行ってくれ!」


「えっ…嫌────」



 な、なんて悲しそうな顔をするんだ!あんた男だろ!似合わねぇよ!くっ!でもなんだこの罪悪感はぁぁぁぁ!



「………いいよ」


「!…だよな?良かったぁ。断られるかと思ったぜ」



 すげぇ。これが顔色がパァァァァって明るくなるって現象か…ははははは。乾いた笑みが出る。この後、酔いが覚めた町長に同じことを言ったら明日までに旅に必要な物を用意しますと言われた。マジでどうしよう。あ、回復魔法が使えるっていう神官のお爺さんには辞退して貰った。連れて行っても行くまでに倒れそうな気がする。



「どうしたのだ?頭なんて抱えて」


「いや、どうやって魔王倒そうかなってね。あははははは」



 どうやら、ここ数日の出来事が濃すぎて回想にのめり込んでいたらしい。反省反省。ハア………本当にどうしろっていうんだよぉぉぉぉぉぉぉ!

一気に書き切った

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