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2話

 「ふーっ、今日も働いたぜーっ」

 ゴツゴツ火山の山道を、紺色と深緑色の二体のリザードマンが下りていく。

 彼らの仕事は鉱山で魔鉱石を採取するというもので、一日3時間のシフトで働いていた。

 「今日の夜にリョウガ様がカードゲーム大会をやるみたいだから、お前も来いよー」

 「よっしゃー! オイラ昨日買ったパックで超レアカード引き当てたから、絶対勝つぞ!」

 リザードマンは一度の採掘でノームの5倍量の魔鉱石を採取できるので、働く時間はノームの5分の1で済む。そういった理由もあり自由時間の多いリザードマン達はみなゲームやスポーツ等が好きな享楽的な性格をしている。

 「おれの住処は山の洞穴だから、ここでお別れだな。また後で会おうぜ!」

 紺色のリザードマンが深緑のほうに手を振り、分かれ道の左の道に進む。

 彼らは同じリザードマンだが、リョウガによってそれぞれ異なる住処を用意されていた。

 紺色のほうはゴツゴツ火山の水辺にある洞穴。

 深緑のほうはドラゴン軍団の支配下になったエルフの湖、改めリザードマンの沼。

 残された深緑色のリザードマンは仲間を見届けると、右の道を進んだ。


 夕暮れの空を見つめながらリザードマンが歩いていると、青い髪のスタイル抜群美女と鉢合わせする。

 「お前! 妖精軍のスパイだな!」

 リザードマンは銛を美女に向ける。ドラゴン軍に人間はリョウガ様しかおらず、他は全てドラゴンかその眷属達で構成されている。

 ドラゴン軍の領地にいたこの女性型モンスターは、偵察にやってきた妖精軍のスパイ工作員である可能性がとても高い、とリザードマンは考えたのである。

 「見つかってしまったようね……」

 美女は耽美な声を漏らし、妖艶な笑みをリザードマンに向ける。

 「な、なにをっ……!」

 美女はリザードマンのほうへ自ら歩み寄り、向けられた銛を指先で自分から反らし、リザードマンに身体を密着させる。

 そして、彼の耳元に妖艶な声で囁き、リザードマンの下半身に指を這わせる。

 「私を見逃してくれないかしら? もちろん、お礼はたっぷりとするわ」

 リザードマンは一瞬ビクッと身体を震わせるが、美女を突き飛ばして叫ぶ。

 「オイラはそんなのに騙されないぞ!」

 付き飛ばした美女に息を荒げながら銛を突き立てる。美女は攻撃を受けて消滅した。

 「フフッ、今更あたしを倒したところでもう遅いのよ……」

 塵となって消滅するさなか、美女が捨て台詞のようにつぶやく。

 その言葉を聞いてリザードマンは周囲を見渡す。

 「そんな、囲まれてる……」

 リザードマンの周囲には、十数体に及ぶレッドキャップの大群がマチェットのような刀を持って待ち構えていた。

 レッドキャップが一斉にリザードマンへと飛び掛かる。

 「くそっ、はなせーっ!」

 自身にのしかかり組み伏せようとしてくるレッドキャップに、リザードマンは銛で反撃する。

 非戦闘員のワーカーユニットとはいえ、リザードマンは本来戦士の種族である。襲いかかるレッドキャップを追い払う程度の自衛能力はある。

 リザードマンは尻尾を振り回しレッドキャップを地面に叩きつけると、力のままに銛でとどめを刺す。

 そのままリザードマンは次々とレッドキャップをなぎ倒していく。

 (オイラだってやればできるんだ! こいつらを全員倒したら、リョウガ様に褒めてもらえるかも!?)

 そう考えたリザードマンは後方で待機していたレッドキャップの元へ走り出した。

 力強く踏み出したその足を大口径の銃弾が貫いた。

 「うわぁっ!」

 リザードマンはその衝撃と痛みで滑るようにしてうつ伏せに倒れる。

 (狙撃……?)

 銃弾が飛んできた方向に目を向けると、木の上でエルフの射手がこちらを狙っていた。

 その手に構えられた獲物は、その幻想的な雰囲気とあまりに似つかわしくない金属製のボルトアクションライフルである。

 リザードマンは一矢報いようと銛をエルフに投げつけようとするが、その腕を撃たれ銛は地面へと突き刺さる。

 エルフは木から降りてリザードマンの元へ向かうと、ライフルの銃口を彼の額に向ける。

 (嫌だ……オイラ死にたくない……)

 仲間やリョウガとの思い出がなければ、彼も先ほどの女性型妖精モンスターのように潔く自らの死を受け入れられたかもしれない。所詮彼らは量産型の個別名すら持たないゲームの駒にしか過ぎないのだ、やられたらまた同じユニットを補充すれば済む。それだけの話である。

 しかし、リザードマンは自らの存在を単なるゲームの駒と割り切る事は出来なかった。恐らくリョウガという男も彼にそういう接し方をしなかったのだろう。

 「たす……けて……」

 リザードマンが涙を浮かべながら命乞いをするが、エルフは答えず、表情すら一切変えない。

 エルフの言葉を代弁するかのように、ライフルが無慈悲な音を奏でるのであった。

 

 *

 「報告は以上ですニャ」

 ケット・シーから受け取った戦果報告書を読み、俺は笑みをこぼす。

 彼はその俊敏な機動力を活かし、妖精軍の伝令係として各地を飛び回っていた。

 

 ハラス攻撃。

 敵のワーカーユニットや生産施設を攻撃し、内政面でのアドバンテージを獲得していく戦略ゲームにおける基本的な戦法のひとつである。

 ウンディーネの『魅了』スキルによって敵を油断させ、後方に待機させたレッドキャップとエルフに仕留めさせる。

 ドラゴニュートとの戦闘で敵の防御力が高いことを分析した俺は、ドワーフラボで防御貫通効果のある対物ライフルを開発し後衛のエルフに配備したのだが、効果は抜群だったようだ。

 「リザードマンをやっつけるだなんて、さすがはコマンダー様だニャ!」

 「現代の諸葛亮である俺にかかれば、ざっとこんなものだ」

 褒め称えるケット・シーに鼻を鳴らして答える俺だったが、心の中では一抹の不安を抱えていた。

 (敵とのユニット性能差が大きすぎる……)

 妖精軍とドラゴン軍のユニット能力は、ゲームで例えると序盤に手に入る無料キャラクターとガチャ限定のトップレアキャラクターほどの性能差があった。

 ある程度の性能差であったら実力と運次第でどうとでもなるのだが、あくまで『ある程度』の戦力差だった時の話であり、ここまで性能に開きがあるといくら日本チャンプの俺でも苦戦せざるを得ない。実際に『エイリアンVS宇宙人』でも無課金プレイヤーはマスターランクの2つ下、プラチナランクが限界とまで言われている。

 「さて、どうしたものか……」

 正面から戦っても勝ち目がない以上、守りに徹して反撃の機会を待つより他はない。

 俺は神殿周囲に防衛施設を張り巡らせ、多少の攻撃では陥落されない防壁を作成する。

 ドワーフラボのメニューを確認し、役に立ちそうなものがないか調べる。

 「これは……」

 俺はひとつの項目に注目した。

 その説明文には、この戦況を覆す切り札となりえる文章が書かれていた。

 

*

 こちらからは攻められず、敵も俺が築いた防衛線を突破できないまま戦闘は膠着状態が続き、世界は夜を迎えた。

 「コマンダー様、そろそろお休みになられたほうがいいニャ」

 ケット・シーが心配そうに声をかける。頭にはベレー帽ではなくナイトキャップを被っている。

 「いや、休んでいる時間はない。敵が寝ているこの時間帯こそアドバンテージを稼ぐチャンスなんだ。それに、アリアだけを働かせたまま俺だけ休むわけにはいかないさ」

 俺は今もなお妖精の生産を続けるアリサに目を向ける。

 「私は大丈夫です、どうか拓人様はお休みください」

 アリアが俺を気遣い気丈な声で言う。

 (アリアもこう言っているし、睡眠不足の状態で判断力が鈍ってしまっては元も子もないな。ここは彼らの言う通り休息をとるべきか)

 「悪いな、では2時間だけ休息しよう。アリアはそれまでにレッドキャップ20体とノーム8体を生産しておいてくれ。明日の朝、妖精が活動可能になった時点で新たな資源地の獲得に向かわせる」

 俺はアリアに生産のスタックを組み込ませると、目を瞑り仮眠をとった。


*

 「ハッ、2時間だけ眠るつもりが朝まで寝てしまった!」

 俺はスマホの時計を確認する。今は7時32分、5時間ほども寝てしまったようだ。

 「確か、妖精は7時から働けるんだったな……」

 タブレットを開き状況を確認する。

 最初からいたノーム達は既に採掘を開始していた。俺はその勤勉さに感心する。

 神殿の近くでは、アリアが夜の間に作成した新しいノームとレッドキャップが待機している。

 「オイ、起きろ猫」

 俺はケット・シーの腹を蹴る。

 「うにゃあ! 蹴るなんてひどいニャ!」

 「仕事だ、待機中のノーム達を新しい資源地に向かわせろ」

 ケット・シーの尻を再び蹴って神殿から追い出し、俺も一緒に神殿を出る。


 外は雲一つない青空が広がり、柔らかな太陽の日差しを受けて小鳥たちがさえずっている。まるで戦争など起こっていない平和な世界だ。

 俺はドワーフラボに向かう。

 「ドワーフよ、例の開発は終わったのか?」

 研究所の扉を開け、明かりのついていない薄暗い部屋に向かって叫ぶ。

 「どわあ、いきなり大声を出すんでないわい」

 机に突っ伏して居眠りをしていたドワーフが驚いたような声をあげる。

 俺はドワーフの胸倉を掴むと、床に転がっていたビール瓶をドワーフに向けて振りかぶる。

 「貴様、まさか仕事もせずに飲んだくれていたわけではあるまいな?」

 「落ち着かんか! 新ユニットは既に完成しておるわい」

 俺は掴んでいた手を離し、ドワーフの指差すほうを見る。

 「ほう、これがそうか」

 そこには、『妖精』と呼ぶにはいささかいかついユニットの姿があった。

 「これはもう動かせるのか?」

 「こいつは魔力の入っていない『抜け殻』じゃ。戦える物を呼ぶには嬢ちゃんに魔力を込めて召喚してもらう必要がある」

 「なるほどな、助かったぞドワーフ。早速アリアに召喚を始めさせる。……それと飲んだくれ扱いして悪かったな」

 俺の言葉にドワーフは笑顔で言い返す。 

 「なあに、気にするでない。ドワーフにとって飲んだくれとは褒め言葉みたいなもんじゃ」


 ドワーフのラボを後にし、俺はアリアを叩き起こし召喚詠唱を始めさせる。

 アリアは顔を洗って化粧を整えたいと懇願していたが、そんな時間はないと一蹴した。

 俺は玉座に座る、反撃の開始だ。

 「ウンディーネを囮にして召喚までの時間を稼げ、誰一人損害を出すな」


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