襲撃
戦闘開始まであと30分。
パーティーは、そろそろ終盤になり、子どもたちの姿は、ほとんどいない。しかしエリゼ姫は、社交辞令で、大人たちの話を聞いている。
「みなさん、一つ報告したいのですが」
リンから皆に向けて無線が入る。
「どうした? リン?」
カーゴが応答する。
「嫌な予感がします。今すぐこの場を離れませんか?」
リンがそこまで言うこと自体、始めてで珍しく。しかも今すぐ離れると言う提案は、軍務放棄になる。
「ちょっと待ってリン、隊長としてそれはさすがに実行できない」
「ならせめて、衛兵に戦闘準備させてください。そして離脱経路の確保を今すぐしてください!」
相当慌てているのか、ぶっきらぼうに口を開いた。
「わかった。しかし離脱するときは、姫も一緒に離脱、そのまま護衛する。いいな?」
リンは、渋々承諾する。
「俺は衛兵に伝えているから。マールは車両と武器と装備の確保。リンは貴族避難シェルターの確認。イアとハクは、姫様の近くで護衛。状況開始」
俺は階段を降りイアと合流する。
「おい、ハク」
「ん?」
いきなりすね蹴りをくらう。
「おわ、いっつ……。何すんだよ!」
「うるさい!」
理不尽? な攻撃をくらい、ため息を付く。
「なにしてんだ? もう一回蹴りいれるぞ」
「やめれくれ」
イアの後を追い護衛を始める。
カーゴから無線が入る。
「ダメだ。予想はしていたが、信じてくれない。むしろ敵がきた所で、俺らが壊滅させてやると言ってる。あまり頼りになりそうにないな。マールそっちはどうだ?」
「はいはいカッチャン! 車両は、どうにかなりそうだけど。武器はちょっと難しいそうだね」
「そうか。マール何でも作っていいぞ」
「え!いいの?」
「許可する」
「わーい!」
マールの無邪気な声に、なんだ、レゴでも作るのか?と心の中でぼやく。
「にしてもここの衛兵は戦力になんのかよ? ありゃどう見てもコスプレにしか見えないぜ」
イアが指摘には、俺も納得がいった。護衛の数は、約40人、そして装備は、このパーティーに合わせてきたのか、赤いブレザーに白のズボン。長いブーツに、これまた長い帽子。武器は軍刀に、M14ライフル。近代歩兵を彷彿とさせる姿だ。
カーゴは、無線を送る
「イアの言った通りにあまり頼らない方が良さそうだな。全員仲間だけ、を信じろよ」
「「了解」」
襲撃まで30秒前
オーケストラよるクラシックが奏でる会場は、今まで通り愉快に行われている。天井で光輝くシャンデリアを眺めながらイアは、ある異変に気付く。
「なんか臭くね?」
イアが大気中の臭い嗅い始める。
「イア何かあったか?」
カーゴが応答する。
「なんか生臭いだよな…。おっと皆な戦闘準備した方がいいかも」
イアの発言で全員が銃をいつでも取り出せるように手をかける。
「ハク何か聞こえるか?」
目を閉じ耳に意識を集中される。
オーケストラの音楽と会場の音しか聞こえない。
「カーゴ、ダメだ。周りに音がありすぎて聴き分けられない!」
「恐い恐い恐い恐いやだやだやだ」
突然、シェルターの確認に向かったリンの狂った声が無線入る。
「リン! カーゴだ。応答しろ。リン・フォルテ衛生兵応答しろ」
しかしリンからの応答がない。
「ハクとイアは、そのまま姫様の援護。俺はリンの所へ向かう。任せたぞ」
「ハク、了解」
カーゴとの応答が終了した瞬間、城の扉が開き始める。
「イア!」
「わかってる!」
緊張が高まる。
しかし扉が開いた先には、護衛が交代時間になり、呼びに来ただけみたいだ。
「おいおい、焦られせんなよ。いろいろ損した気分じゃねかぁ」
イアは少しため息を付く。
俺も焦ったが、すぐに安堵する。
「本当に敵さん来るのかこれ?」
イアが冗談めかしで発言した瞬間。発砲音と同時に護衛の頭が吹っ飛ぶ。
「え?」
イアとハクは、一瞬なにが起こったのか理解できなかった。
扉から数人顔を布で隠した、武装集団が入り射撃を始める。
会場は、貴族の悲鳴と、護衛の悲鳴が響き始める。
イアはすぐに近くにあった料理乗っている机を横に倒し簡素壁を作る。
会場の状況は、最悪だ。何にかの護衛は反撃しているが。敵の武装、AKMライフルは、俺がいつも使っている八十九式小銃よりも、大きいサイズの弾をつかっており、また連射も可能なので、護衛が使っている、M1ガーランドは、単発しか撃てず、弾数や、威力、すべてにおいて下なので、圧倒的な火力の差に、殺されていく。さらに跳弾などが貴族にあたり悲惨になる。
会場は、銃撃の乾いた音と、貴族の悲鳴、皿や物が壊れる音たちが、さっきまでの豪華なオーケストラの演奏に変わり、悲劇の演奏に変わる。
「エリゼ姫!」
ハクは一直線に姫の元へ走る。
間に合え!
「早く頭下げて!」
エリゼ姫の頭を押し無理やり、体を下げさせる。
「ハク後ろ!」
エリゼ姫の声で後ろを向く。
「聖杯見つけた!」
一人こちらに突っ込んでくる。
「こいつ!」
すぐにコルトパイソンを抜き引き金を引く。頭を狙ったつもりが相手の足に当たり体制を崩す。
すぐさま再度、頭に合わせ撃つ。次こそはうまく命中する。
「よし! エリゼこっちきて!」
エリゼの手を掴み、イアの所まで移動する。
「ちょっと武器もってくるから、姫様頼んだ」
「早くしろよ!」
さっき殺した敵に近づき装備を徴収する。
AKMにスモークグレネードが3つに、予備マガジンが4本。くそグレネードとか持ってねぇのかよ
すぐさま装備しイアの所に戻る。
「ハク! 隊長から撤退命令でた!」
「撤退できそう?」
「無理に決まってんだろ!」
ほとんどの衛兵が殺され貴族などは、ちりちりに逃げている。
「おい! 聖杯を見つけだぞ!」
「どごだ!」
「あのテーブルの後ろに確認したぞ!」
「捕獲を開始! それ以外撃っちまえ」
ほとんどの敵がこちらに攻撃を開始する。
「ぬぉぉ!」「やばいやばい!」
3人を銃弾の嵐が襲う
銃弾が音速で次々と横を通り。ヒュンヒュンと風をきる音が大きくなる。
「ハク!ちょっと耳貸せ!」
「なに!」
イアの口に耳を傾ける。
「―――――――して―――――するから」
「おいおいマジ?」
「大マジよ」
イアにリボルバーを渡し、ハクは端末を受け取る。
「OK、パーティーの準備開始だ」
AKMを天井に向けて構える。
そして引き金を引く。
ドドドド。
天井にあるシャンデリア次々に落としていくそして解禁場内は暗くなり、窓から挿し込む月光だけが光源となる。
「グレネードアウト!」
敵から奪ったスモークグレネードをすべて投げる。
グレネードからでた。白い煙は瞬く間に会場内に充満する。
イアは、鼻を伸ばす。
「分かるぞ分かるぞ」
敵も味方撃ち恐れ銃撃が止まる。
さてBGMは何にするかな。
ハクは端末を取り出し、音楽アプリで似合いそうな音楽を探す。
これにするか。
ワルキューレの騎行を選択し、イアの端末にも同じ操作をする。
そして二つの端末の音量を最大にし再生ボタンを押し煙の中に滑り投げる。
最大音で二つの方向から曲が流れ始める。
「どうした!なにこれは?」
「わかりません!」
いい感じに慌てだしたぞ。
「イア後は任せたぞ」
イアは、二丁のリボルバーを持つ。
「あぁ、任せろ。さぁて、ダンスの時間の始まり始まり……」
イアは、ニヤリと笑うと、二丁のリボルバーのハンマーを下ろし、静かに素早く、煙の中に消える。
ここからは、敵にとって地獄の始まりだった。
一発の発砲音が鳴り、一人の悲鳴が上がる。また一人、
また一人、また一人。
「どうした! 何が起こっているんだ!」
「敵がいるみたいです!」
「何人だ!」
「わかり、ぎゃー!」
「おい! どうした!」
「助け」
音楽に合わせて発砲音が鳴る。
「ぐっはぁ」
「やめてくっ」
「あぁ……」
音楽ともに、発砲音と悲鳴が合わさり、ワルツの餌食になる。また一人、また一人、また一人。
「くそがぁー!」
敵の指令らしい男が所かまわず連射する。マガジンの弾が全てきれるまで。
「やったか?」
音楽だけしか聞こえない。
「っひ」
横から銃を押し付けられる。
横眼で見ると、そこには、笑う少女が立っていた。
「悪魔め!」
「悪魔ねぇ……。なら聖職者にでも祈ってみるか? あぁ神よ、罪無き私めをお助けくださいってね。もしかしたらフロントロックを持ったジェロニモみたいな奴が助けに来るかもしれないぜ」
「このクソ尼がぁ!」
敵が踵を返し、ホルスターからハンドガンを抜く。
「まぁ罪が無ければの話だが」
それよりも早くイアは、容易に引き金を引いた。
「おやすみ。迷える子羊」
弾丸が発射され頭を貫通し、血が噴き出す。そのまま敵は倒れた。
煙が晴れる。
「イア、終わったか?」
ハクは立ち周りを見渡す。
そこには月明かりで照らされたイアが立っている。イアの周りは、死体と空薬莢が散乱しており。床は真っ赤に染まっていた。イア自身も返り血で半分真っ赤に染まっており、月明かりで反射している。
「エリゼは、少しここで待っていてくれ」
「わかりました」
俺は投げた端末を回収し、イアに近づく。
「イア」
端末を手渡す。
「悪魔か……」
「イア?」
「あぁ、何でもない」
イアは、寂しい顔をしている。
「おい!」
俺は拳を突き出す。
「グッジョブ! 助かったよ!」
イアは、少し笑顔になり、拳を突き出した。
「大丈夫か!二人とも」
カーゴとリンが走ってくる。
「あぁ、俺も姫もイアのおかげで助かった」
「良かった。よくやった、イア」
「余裕だよ。隊長」
イアは鼻を高く鳴らす。
「すみません!」
そこでリンが頭を下げる。
「大丈夫なのかリン?」
俺はリンの顔色をみる。
「はい! もう大丈夫です!」
「ならよかった」
エリゼ姫がテーブルから出てくる。
「あの……これは……」
エリゼ姫は口に手を抑える。この光景には、刺激が強いらしい。
カーゴが指示を出す。
「とりあえずこの場は離れよう。みんな、使えるものを持つんだ」
「「了解」」
それぞれがアサルトライフルやらを持ち部屋を出る。
「イアは前面を警戒。ハクを後方。リンと俺は姫の周りに」
「「了解」」
「他の敵の数は?」
「不明!」
「戦力は?」
「不明!」
「隊長、指示を」
「ここに留まるのはまずい。マールが裏口で車を待機させているからそこまで行く。敵は見つけ次第、無力化もしくは、殺害しろ」
「「了解」」
「姫様、すこし早歩きしますが、よろしいですか?」
「はい、すべて判断は、任せます。」
城塞裏口、午後10時半
「みんな! こっちこっち!動きやすい服装もついでに見つけたよ!」
マールが手招きをしている。
1台のトラックが置かれていた。
「よし! あれで逃げるぞ」
刹那、後方で爆発が起きる。
「ぐははは! 見つけたぞ!」
そこには、マントを羽織った大男と金髪の小柄な男が立っていた。
イアが方向転換し突っ込む
イアは敵から奪ったオートマチックショットガン、ベネリスーパーナインティ。これは、七発の散弾を3秒以内に撃てる代物で、かなり強い。
イアは、銃口を敵に向ける。
「お兄ちゃん?」
その時リンが呟く。
「嘘、お兄ちゃん、まってイアさん!」
小柄の方が前に出てくる。
「リンなのか?」
「そうリン!」
「ここで何をしている?」
「えっと任務をしているの。護衛任務」
「そうかそうか怖かっただろう」
「うん」
金髪の小柄な男が前に出てくる。そしてリンも前に出る。
「誰の護衛をしてたんだ」
「あそこにいるお姫様です」
「そうか」
金髪の小柄な男は、リンに拳銃を向ける。
「お兄ちゃん?」
「じゃ、俺たちの敵だね。とりあえず死んでくれ」
「え?」
イアが突っ込む。それに気づいた金髪の小柄な男は、すぐさま、大男の後ろに身を引く。
イアは、七発すべて撃ち。全て大男に命中。
「散弾の蜂の巣だぜ。リン、大丈夫か?」
イアは、リンに駆け寄る。イア逃げろ!」
カーゴが叫ぶ
「おぉ痛てぇ、お嬢ちゃんやるじゃあぁねえか。ちと火力がたらねぇけどな!」
大男はマントを外すと、その中には分厚そうなアーマーになっており、まるでサイボーグみたいな体をしている。
イアはリンをこちらに投げ飛ばし後ろに飛ぶ。
大男は、グレネードランチャーを取り出し、撃つ。
ポンっとかわいらしい音を立て、40ミリの弾がイアの4メートル前に着弾し爆発、イアがこちらに吹っ飛ぶ転がってくる。
「イア!」
カーゴは、吹っ飛んだイアに向かう。
「おいイア! くそ、マール、リンを積み込め! ハクは撃て! 姫は助手席に!」
大男が弾薬交換を始める。
セミオートからフルオートに変え大男に銃口向け引き金を引く。
キンっと銃弾に金属に跳ねる。
カーゴとマールがイアとリンを背負い、トラックの荷台にいれ、カーゴは、運転席に座る。
「なんだあれ! 硬すぎるぞ!」
車にエンジンが掛かる。
「行くぞ!」
カーゴが叫ぶ。
急いで荷台に飛び乗り。そのまま急発進した。
金髪の男は無線を使う。
「俺だ、そちらにトラックが向かった。追撃しろ。聖杯以外撃つなよ」
無線をきる。
「いいのか? 本当の妹だろ?」
「そうだね、それでも奴は、敵だ。それ以上、それ以下でもない」
「そうかい」
ハク達が乗るトラックは山道を走っていた。
「まずいな」
カーゴが、バックミラー越しに言う。
それに、ハクが返答する。
「何がだ?」
「追手が来てる」
「なに!?」
「イアは、どうだ!」
イアを見ると半目、半口をあけ、よだれを垂れ流している。
「だめだ! 失神してる!」
「リンは、どうだ!」
何かを呟きながら。俯いたままだ。
「リンもだめだ!」
一発の銃弾が飛んでくる。
くそ!もう追いついてきた。
「イアを叩き起こせ!」
イアの顔を叩く。
「イア!おいイア!起きろ!おい!」
だめだ、全く起きない。
「カッちゃん! あの追手、私に任せていい?」
「あぁ任せた」
「ハッちゃん、無理に起こさなくていいよ」
「でもマールと俺で何とかできるのか?」
「いや、私一人で十分だよ。」
マールは、2台に積んである袋から。線が抜かれ代わりに布で閉めてある瓶を取り出し、ポケットからライターを取り出す。
マールから、笑みが消える。
ライターで布に火をつける。
「よっとぉ」
マールはそれを敵車両に投げ、うまく当たり一気に炎上。敵ドライバー火だるまに、コントロールを失った車は、そのまま道をそれ爆発炎上する。
「フフフフっふ、まず1匹目」
マールが笑みを取り戻す。
「うわぁぁぁ」
イアがさっきの爆音で意識を取り戻す。
「落ち着け! イア!」
暴れて混乱しているイアを取り押さえる。
「はく?」
「あぁそうだ!いま撤退中だ」
「クッソたれ。あの野郎……。次会ったら殺す。ハク銃を貸せ!」
「それが……。俺たちに手伝いは、不要みたいだ」
そこに、マールが来る。
「あれ? イっちゃん大丈夫?」
マールは袋をあさりながら声を掛ける。
「あぁ、おかげさまでな。手伝うぜ」
「いや、もう大丈夫だよ」
マールは袋からまた例の瓶を取り出し、火を付け投げれる。そしてさっきより大きい爆発が生じ、敵車両が炎上しながら、宙を舞う。そして追手は壊滅した。
「おいおい、こりゃ何かの冗談か?」
正直俺もそう思いたいぐらい、怖く感じた。
「電気を消すぞ!」
カーゴは、車すべての電気を消す。もちろん俺らには真っ暗でなにも見えないが、カーゴには、見えているのだろう。
「これで敵も追手はこれられまい。端末を見る限り、この先何もないだよな」
「一つ提案があるのですが。この辺に確か廃村があったはずです。そこで休憩するのはどうですか?」
「そこで一時休憩しょう。姫さん場所はわかるか?」
「それが、あまり覚えていなくて……。」
マールが割って入る。
「あ、もしかして採石場集落だったところ?」
「そう、確かそこです。しかしよくご存じですね」
「飛行機の中でイギリスの観光雑誌があって、それで憶えていたんだよ」
「細かい座標まで憶えているか?」
「もちろん」
「ハク!端末に今からマールが言う情報を打ってくれ」
「了解」
カーゴから端末を受け取り、地図データを開く。
「いつでもいいぞ、マール!」
「え~とね~イギリス北のウェールズのコンウェイ郡にあって、座標は、53.093489.-3.84106だったはず」
さすが記憶力が異常発達しているだけあり、感服してしまう。
「カーゴ打ったぞ」
「どうだ?」
端末の地図に赤い点が現れる。
「でた!はい、カーゴ」
カーゴに端末を返す。
「よくやったマール。ここを目的地する。みんなは周囲を警戒してくれ」
「「了解」」