異変
前回のあらすじ
やってみたいけど前回見たほうがわかりやすいと思うのでそうしてください。
昔、こんな夢を見た。
鳥になって、この、大きな青空を飛んでいく、そんな夢を。
あんな風になれたら、悩みなんてないんじゃなかなって。
カーテンの隙間から漏れる一筋の光に当てられ、ゆっくりと視界が開けていく。
真っ白のベットに横たわり、白い天井がある。
あの後、一体何が起きたのだろうか。確かに僕は、あの獣人に頭をやられた。
たった一撃だが、明らかに僕の頭から出ていた血の量は致死量を超えていたはずだ。
なのにぼくの頭には、傷なんてものはなく、点滴もなく、手術跡もなんの痕跡もない。
そんなことを考えている間に、ガラガラとゆう音をたて、右の扉が開く。
もみあげの辺りに白髪の生えた白衣を着た男性が入ってきた。恐らく僕の担当医だろう。
「なんだ、起きていたのか。調子はどうだい?」
「特になにも、不思議なくらいに」
「そうか、じゃあ取りあえず少し検査したいことがあるから、ついてきてくれるかな」
なんだか急に事が進み、少し動揺した。
まだ足はおぼつかないので、車いすで検査に向かった。
10分ほど検査が続き、部屋に戻ると、スーツを着た若い男性がベットの横に座っていた。
医師は「ああ、そうだ」とでも言わんような顔をして、
「彼は警察の方だ、今回の事件について色々と聞きたいそうなんだ」
ベットに座り込み男性と向き合うと、彼は少しうつむき気味に聞いた。
「まず、今回の事件について言わせてもらおう」
僕がうなずくと、彼は少し速い口調で話し出した。
「今回の事件での生存者は、たったの10人だ・・・君の住む町周辺・・・全体で・・・・」
10人?僕の住む町周辺となれば人口は5万人もくだらないだろう。
となれば、僕らの町を襲ったあの化け物たちは、どれだけの数いるのだろう。
「少し変なことを聞くようだが、君たちを襲ったのは、どんな生物だい?」
「人型の爬虫類、コウモリの羽、ワニみたいな尻尾が生えて、肌は全部緑色でした。」
「そうか、ありがとう。この続きは、またしばらくしたら聞くよ」
「あ、あと、君の預かり先についてだが、君を預かってくれる親戚がいるそうだよ」
それだけ言って、男性は行ってしまった。早めに切り上げたのは、家族を失った僕への考慮だろう。
窓から見える空を見上げていると、僕の頭上に鳥の羽があることに気づいた。
黒い羽根、カラスだろうか、よく見ると、床の所々に落ちている。掃除くらいしっかりしてほしいものだ。
3日後、僕は退院し、町から15キロほど東の町にある母方の姉弟の家へと引き取られた。
叔父夫婦はとても歓迎してくれて、まるで本当の息子のように扱ってくれた。
しかし半年ほどたったころだ、異常が現れだした。足が黒く変色してきた。小さな反転が数個程度なので、すぐに治るだろうと思い、放置。
一番困ったのは背中の肩甲骨辺りの毛が異様に濃くなってきたことだとても濃い黒の毛が生えてきた。
これは毎日処理しなければいけないので大変だ。
あと、時々朝起きると部屋に黒い羽根が落ちている。
あんまり多いので、「まさか・・・・・俺?」なんてことを何度か考えた。しかもその日なんか背中痛いし・・・・・。
でも、特に障害はないため、あまり気にはしていない。
家に引き取られてから1年半がたったころだ。学校で不思議なことが起きた。
友達と喧嘩をしてしまって、手を出そうとしてしまった。だが流石に暴力は駄目だと思い。目をつむり、拳を抑えてどうにかこらえた。
ハズだった。
目を開けて、友達の方を見ると、友達の頭には、大きなアザができていた。
おかしい、確かに僕は怒りを抑えた。暴力はふるっていないはずだ。
「クロくんひどーい!」
クラスの女子が騒ぎ出した。それに便乗して周りの児童たちも騒ぎさす。
おかしい。何で。何で。何で。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。ナンデ。ナンデ。ナンデ。ナンデ。頭が混乱と恐怖が重なって、僕は失神してしまった。
保健室で目を覚まし、早速なんだか体の痺れを感じる。
うつむいて下を見ると、異変に気が付いた。
足の斑点が、大きくなっている。
ならばと思い、背中を触る————やはりだ。肩甲骨の辺りの毛が濃くなり、そして・・・・・。
何か違和感があるそう、「膨らんでいる」といったような・・・今にも背中から何か生えてきそうな。
すでに下校時刻は過ぎている。ベットの横にあった誰かがまとめてくれた僕の荷物を取り、近くの人気の少ない廃屋の裏へと向かった。
服を脱ぎ、廃屋の窓に反射した自分の背中を見る。
背中はほとんど真っ黒と言っていいほどに毛が生えていた。背中のハリは、先程よりも大きくなってる。
自分の体に一体何が起きているのか。恐怖で体が震え出した。
「グルゥゥ・・・・・」
犬だろうか、唸り声、どうやら威嚇しているよ・・・・・ッ‼
居たのは犬ではない、1年半前に僕の頭をぶん殴った獣人だ。
まずい、今なんの武器もない・・・・いや、一つだけあるか。
「グアァァァァ‼」
声を荒らげ襲い掛かってくる獣人理性とゆうものはないのだろうか。
獣人の体が浮いた瞬間を狙い、ランドセルを思いっきり頭に向かって投げつけた。
「前のお返しだ‼バーカ!」
一言前の怒りをちょっとぶつけて、思いっきり走り出した。
体制を崩して思いっきり顔から落ちたからか、しばらく起き上がることを獣人は出来なかった。
ハリの辺りが痛い、だがすこし膨らみは小さくなった気がする。心なしか毛も薄くなった気が・・・・抜けたか?
なんにせよ今度こそ逃げないと殺される、それだけは分かる。
怖くて、悔しくて、心の奥底からはあいつへの怒りがこみあげてきていて、なんだか不思議な感覚のまま全力疾走で家に帰った。
家では叔母や叔父には「不審者に襲われそうになった」と言って、なるべく自然に事を済ませられるようにした。
だが僕には外出時には防犯ブザーの常備と人気のない場所には近づかないかないことを義務付けられた。
ぶっちゃけ初めて聞いた時は小学校1年生に向けていっているのかと思った。
そんな感じで小学校を卒業し、今に至るわけだ高校はなるべく人とは関わるようにしながら、精神に負荷をかけることは避けてきた。最近は背中の膨らみも、痛みも、治まってきている。
まあそれでもいまだに寝室の羽根問題は解決してないけど。
「ふわぁ・・・・・」
チャイムが鳴り、大きなあくびをして、教室を出る。
僕はなるべく同じ中学の人と同じ学校に行きたくないため、あえて遠めの学校を選んだ。
まあ今では登下校がめんどくさいと思っているけど。
なんせ電車で2時間だ、そりゃめんどくさくなる。
と、携帯を眺めながら、歩いて、電車に乗った。
「・・・・寝るか・・・・」
目をつむって、体に力を抜く。学校はそこまで真面目に励んでいるわけではない、だが、なんだか今日は特に体がだるい。
「ツっ!」
背中に微かな痛み、それになにか胸騒ぎがす
「ちょっと何を!ちょっと!」
女性の声が聞こえてハッと目を覚ます。
スーツを着た細身サラリーマンらしき男性がナイフを振り回している。右手にはナイフ、左手に・・・!女の子・・だと・・・!あいつは何を考えてるんだ⁉この少子化社会に‼しかも10歳ほどの女の子だぞ!
助けなきゃ‼走り出そうとした。
「止めなさい!その子は子供だぞ!小さな子供に刃物を振りかざすなどなにを考えている!」
50歳くらいの男性が止めようとして、細身の男性に駆け寄る。
「さあ、刃物を置いてッ・・・・・・・」
ぽたぽたと男性の腹から血が垂れる。細身の男は無言でナイフをスライドさせた。
男性の右の腹から紅いちが飛び散り、そのまま男性は崩れ落ちた。
このとき僕の脳裏には、5年前の惨劇が浮かんだ。鼓動が速くなる。
「キャーーーーー!」
女性の悲鳴が聞こえるのとほぼ同時に僕はバッグを思いっきり男に向かって投げ、走り出した。
男は僕が向かってきている事に気づき、刃を振りかざした。
咄嗟に左腕を前に出した。腕に刃がささり、ツーっと血が流れる。男の動きが止まったのを狙い、顔面に一発かました。
女の子を離したのを見逃さず、抱きかかえて後ろへ下がる。
左腕の傷はそれほどではない、この男、それほど力はない様だ。
男はふらふらしたがら、ポケットに手をやった。素早くハンドガンをかざし、僕へ向けて鉛玉が飛び出した。
女の子守ろうと背中を向ける。
「カラン」
静寂が続く。
背中が痛い、熱い、恐る恐る背後を見る。
?視界が真っ暗だ、なんだ、この物体は。
・・・・羽か?でもこんなものどこから・・・・・・
「あれ?・・・これ・・・・・俺から?へ?」
ナンデオレノセナカカラハネハエテンノ?
しかもこの羽は銃弾も弾いたのか?しかもこいつ全く動かない。
驚きが隠せないが、周りの人が一番驚いているようだ。
男はまた何発も銃を撃つが、弾はフッと消えてしまった。
「す・・・すいませんでした・・・・」
男は腰を抜かして泣きながら許しを請う。
女の子の母親らしき女性が我に返り女の子を抱いて逃げていく。
「ギィィィィィィィィィィ‼」
電車が大きな音を立てて止まった。
車掌らしき人が来て、また沈黙が始まる。
車掌の顔がきつくなり、僕を押さえつける。違う、僕じゃない!もう一人車掌らしき人が来て、男を押さえつける。
僕は目隠しをされ、羽ごと体を縛られてどこかの施設に連れていかれた。
目隠しを取られると。そこは刑事ドラマでよく見る取調室だ。あれ?この流れだったら僕は明らかに危険生物とみなされるはずだ。羽の生えた人間なんてまじで怖いだろう。ならばガラス越しで鎖で拘束、的な感じではないのか。なのに高速は手錠と紐、椅子には固定しないとは、いくら僕が抵抗していなかったとはいえ、雑じゃないだろうか。
そして、何よりも不可解なのが、さっきから僕をにやにやしながら妙な視線で見つめる。
この前にいる男、5年前に入院中の僕に事情聴取をした、若い男性だ。
またもや現れたこの男の目的とは?