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この孤独な世界で 7

お世話になった拠点から移動しようと思う。俺は倒壊した自社の瓦礫を、頑張って頑張って動かしていた。旅立つ際に、倉庫にある食料を鞄に詰めて移動したい。


今回、移動しようと思ったいきさつだが、あの巨大な鹿がこのあたりに居るということは、また踏み潰されかねないという不安を孕んでいるし、他にもまだあの黒いやつが潜んでいる可能性だってある。


まあ、たしかに他の地へ行っても、他の生物が居る可能性だってあるが、とりあえずは現時点の安全の確保の方が重要だ。死んだら元も子もない。


「おっ、倉庫見えた!」


額に汗を垂らして4時間。男の汗臭い匂いが服へと充満していて気持ちが悪い。そういえば、俺スーツ着っぱなしだ…どおりで動きにくいわけだ。

俺は入り口までふさがっていた瓦礫をなんとか、どかせて倉庫内にやっとこさ入室することが出来た。


この中も正直悲惨なもので、奥の方は完全に石で潰れており、潰れた缶詰の中の臭気が充満している。俺は、その辺に転がっている、大きめのリュックを無造作に手に取り、缶詰や水などを沢山入れ始めた。

凄く小さく折りたためる寝袋も発見したので、それも詰めておく。


荷物を詰め終わった跡、俺は自分のロッカーを探し、中から普段着を取り出した。以前、私服で会社に来てしまった時に、そのまま置いておいたものだ。


中にはTシャツとジーンズにしかなかったので、とりあえず、Tシャツを着てその上から先ほどまで来ていた、白色のシャツを羽織る。俺のトマトケチャップで若干汚れているが、この際気にしないし贅沢は言わない。


白いシャツにジーンズは、俺の大好きな海外の某メタルバンドのライブの服装を思わせるので、若干テンションが上がる。

準備もできたので、俺は壊れた自社の自身が所属していた部署の方向へと身体を向けた。


「では、お先に失礼します」


平和だった会社を思い出して若干涙ぐむが、ぐいっと飲み込んで背を向けて歩き出した。

まあ、たんなる仕事場だったというだけで、そこまで思い入れは無いんだが、実際ここを去ると思うと少し感慨深いものがあった。



ビルから出て、辺りをまじまじと見渡してみる。周りは、草原や倒壊した建物がちらほらあるが、俺はその世界に見入っていた。

ギラギラと輝く太陽に、風が吹くとなびく草、ざわざわと揺れる木々。ここに居るということが若干気持ちが良かった。


人が居ないと言うのが寂しいが、むしろ居ないということで、この自然の壮大さをかもし出していて少し感動した。


さくさくと草原の中を散歩をするように歩き出していく。

遠くの方に見えるのは、何回か行ったことのある倒壊した百貨店や、ロゴがそのあたりに乱雑に落ちて、建物は完全にくずれているファッションセンターなどがあった。


信じがたいが、やっぱりここは俺が存在していた、地球の日本だということを再確認できた。

この荒廃した世界に突如放り投げられて、走り回った日がもう何日も前の事のように感じる。それだけ、ここ数日の出来事が濃すぎたのだ。


転んで転んで擦過傷だらけだった腕も、若干赤くなっているだけで治りかけだ。

黒いやつの牙が突き刺さった腹の傷は、肉で塞がってはいるものの、触るとぐぬぐぬしており、痛みを感じさせる。


化膿とかはしないだろうか…。一応水で洗い流して、救急箱にあった消毒液で処置をしているんだが、そういった知識がないもので、本当にこれで大丈夫なのかは分からない。

まあ、とりえあず、今は気にせず歩き続けよう。



崩壊している建物を見ながら、一時間ほど歩き通した。この辺りには、あのめちゃくちゃでかい鹿の化物の足跡がところどころに付いている。このまま進めば、また遭遇してしまうんじゃあないかという不安があったが、とりあえず進んでみることにした。


歩き出してから、敵の気配は全くない。あんな黒いやつが居たんだから、何匹は居ても可笑しくはない。もしかしたら、俺と同じようにあの鹿の化物を恐れて隠れているのではないだろうか。

まあなんにせよ、戦う必要性が無いことはいいことだ。


さらに歩き出して一時間。正直驚いた事が起こった。かなり遠くの方だが、俺がこの世界に降り立って、最も欲してきたであろう人の声が聞こえた。


ただし、それはただの人の声ではなく、甲高い叫び声の様で、高さも女性が発するような感じだった。

耳を済ませて、その声がどちらの方向から発せられたのか、だいたいの位置を把握してみる。

もう一度大きな悲鳴が響き渡ったのを聞いて、俺はこのまま真っ直ぐ行った辺りに居るんだろうなと想像した。


叫び声ということは、もしかしたら敵に襲われてるかもしれないという、命の危険があるかもしれないということだ。

とりあえず、いつでも対処できるように、腰に刺さっている鞘から菊門を手に持つ。

それと同時に右手から轟っと真っ赤な炎が上がった。


そしてそのまま、俺は今俺が出せる精一杯のスピードで声がした方へと駆けて行った。

正直怖い。出来ることならば戦闘をしたくはない。

だけど、それでも俺は人と話がしたかった。


持っている刀は若干走りにくくさせているが、この際仕方がない。そのまま真っ直ぐ走り続けていると、まだ若干そのままの姿を保っている、小さい建物の入り口から破壊音が鳴り響いた。


間違いない。敵だ。襲われている人を助けるには間に合うだろうか。小石が投げ出された入り口に向かって、俺は脚を急がせる。

その間にも、もう一回大きな悲鳴が響いて、俺のこめかみに一筋冷たい汗がたらりと流れ落ちる。

そして、なんとかその建物の入口にまでたどり着いて、そのまま中を見渡した。


そこはラーメン店の様で奥に広く、特に入り組んだ構造もなかったので、交戦中の相手を発見するのはいとも容易かった。


交戦していたのは大きさがだいたい二メートルの茶色い、角が一メートルくらいあって、牙も鋭そうな大きいトカゲだった。

そう。大きいとトカゲだった(・・・)


「……へぁぁえ……た、たすけへぇ…」


女性の手には、自身の身長ほどありそうな大きなクロス。すなわち十字架が握られており、それを涙を流しながら、失禁し、ぐじゅぐじゅの状態でぶぉんぶぉんと大きく振り回していた。正直汚い。


攻撃にあたったのであろう、トカゲは頭部、四肢が全て潰れておりなんとも悲惨な状態だった。もう絶命したであろうトカゲに何度もクロスで攻撃する。

そのたびに緑色の液体が飛び散って汚い。


このままでは攻撃が止まりそうに無いので、あたかも俺が止めを刺したかのように、絶命したトカゲに菊門で追撃をする。


「だ、大丈夫ですか?」

「……ぅぅぅうああああぁあ〜〜〜」


彼女はそのままへたりと座り込むと、そのまま壁へと力が抜けたようにもたれかかってしまった。

地面に水たまりを作って、恐怖でぐしゃぐしゃに崩した表情。

それを見ている俺は端から見られれば犯罪現場じゃあないんだろうか…。

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