この孤独な世界で 3
俺が目が覚めたのは日の出の時間帯だった。かなりの長い間眠っていたらしかった。本日の天候は雨で、草が生えているアスファルトの独特なにおひが、俺の鼻をつーんと刺激してくる。誰か助けに来ないかと待っていたが、誰も来なかった。
3日目も雨だ。孤独とこの状況で心に影ができてくる。ザーッと振り続ける雨の中で俺は頭の中を真っ白にして過ごした。
4日目になり、ひげもかなり伸びてきて浮浪者みたいになっていたので、ビルの上の階の方へ転がっていた髭剃りを発見したので剃った。ジェルもなにもないので、髭剃り負けして顎の数カ所に血が滲んでしまった。
ひげを剃り終えて元の場所へと返ってきた俺は周囲を警戒した。実は昨日から、気持ち悪い気配を感じ続けているのだ。
昨晩はビルの2回上へと上がって、草を集めてライターで火を起こして寝たので襲われることはなかったが、今日は分からない。
じっと警戒をしていたが、何時間も待っていても何も発見は無いまま夜になったので、今日も寝る場所を変えて、非常用の倉庫の中で寝ることにした。この倉庫は中から鍵がかけることのできる倉庫なので、結構安心ができた。俺はそのまま眠りへと落ちる。
その深夜。たぶん眠気と漏れる光がないので多分今は深夜だ。倉庫の外から気配を感じた。胃液がぐわあああっと込み上げてきて、口を手で覆う。息を押し殺して、その気配が去るのを待った。足ががくがくと震え、目から大粒の涙がこぼれて、服を塩辛い水が汚していく。
約数十分の出来事だったが、それだけで俺の精神は限界だったらしく、こんな状況でありながら眠ってしまっていた。
目が覚めた時は日は登っていたんだろうと思う。小さいほんの小さい、倉庫の中の3ミリくらいの穴から光が見えた。
俺は外に出るきにはなれなかった。倉庫の外で感じた気配を身近で感じて本当に怖かったのだ。
正直今まで生きてきて気配なんて感じるなんてことはなかったのだが、極限状態になった人間はそういうった才能を開花させるのかもしれない。
少し気分も落ち着いたので、倉庫の変わり映えしない景色にも嫌気がさし、小さい穴から外を覗いてみることにした。
この行動によって俺の人生は変わったのかもしれないし、変わらなかったのかもしれないが、少なくともこの時、この時だけはめちゃくちゃ後悔した。
小さくて覗きにくい穴だったが、外の景色が見えた。だが、そこに写っていたのは、もう見慣れた荒廃した世界と、見慣れていない生物が一匹だけ歩いていた。
それは黒い大きな大猫科のような動物だった。目測で3メートル弱のその身体には幾つもの”黄色い稲妻の模様”が5本ほど描かれており、なんの生物かと思わせる。
あんな模様は今までに見たことが無い。俺はそのまま、よろよろと倒れるように尻から座り込んだ。
あの生物だ。絶対そうだ。俺を見ていた生物だきっと。心の底からやばいと思った。それと同時に思ったことが逃げようという思考だった。
ただ心構えなどが一つもできてない今を考えると、倉庫のドアを開けようとした手を止まらせた。
「俺は……馬鹿か!相手がこんな近くに居る状態で行くなんて死にに行くようなもんだろ。…いやもう死んでもいいかな…。………あああああああ、何を考えてんだ俺は。死にたくない絶対に死にたくない」
言い聞かせるように俺は自身の考えを頭のなかで繰り返し続けた。
とは言っても、相手が逃げてくれるわけでもないし、このままここで待ち続けるというのも得策ではないかもしれない。
何日も俺を観察して待っていたような奴だ。そこそこの知能はあるんだろうと推測される。
俺が居る場所はもう割れているだろうし、何らかの方法でここに来るだろう。
こんな普通の倉庫の壁だ。あんなドラゴンだって居たんだ。不思議な力を使ってきても可笑しくはない。
俺は何かないかと倉庫内をくまなく探しまわった。そうすると、水にまぎれてガソリンが入ったポリタンク、アルミの容器で密閉されているガソリンの入った容器を何本か見つけた。
「ガソリン……か。非常用とは言え会社に置くとか危険過ぎるだろ…。何考えてんだ上層部は……。これを相手にぶっかけて……いや、俺が大型の動物のスピードについていけるわけがないか…」
俺がひとりごとを呟いていると、いきなり背後の方からドォンと凄まじい音がして倉庫内が激しく揺れた。慌てて小さい穴から外を見てみると、なんとあの動物が建物に体当たりをしているではないか。
俺は少なからず慌てていたが、ここ最近の出来事で動く前に考えるという余裕ができていたようだ。
そもそもだ。今までアクションを起こしてこなかった奴が、こんな頭の悪い方法を実行するわけがない。これは罠だきっと罠だ。
俺は缶詰を開け、それをガソリンに浸して、ドアを開きその缶詰を外へと放り投げ、すぐさまドアを閉める。俺が外へ逃げ出してしまったと思わせるためのブラフだ。
俺の臭いも、このガソリンの臭いで薄れていると信じたい。
ドアを開けた瞬間、体当たりの音はピタっと止み、俺の耳でも小さく聞こえるくらいの、動物が走ってくる音が聞こえた。
やはり、ブラフだったのだ。またあの息の詰まりそうな気配が外から感じられたが、そのままどこかへ去ってしまった感じがした。
やばい。もう今しかない。逃げ出すにはもうこの瞬間しかない。今のやり方はもう相手には覚えられるだろう。たぶん、奴は死に物狂いで俺を探してるだろう。たぶん臭いを頼りにしているから、まだここに留まっていることがすぐにばれる。
俺はとりあえず、爆発する危険は多少あったが、ガソリンが入っている容器の中身を2リットルのペットボトル5本に分けて、リュックの中に入れて、右手に缶切りを持って、音を立てないように、小走りで外へと飛び出した。部屋の中に充満したらいけないので、建物の外にガソリンを出しておいた。