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仲間がいるこの世界で 3

朝の日差しがとても眩しい。

ホコリまみれの、ひび割れがたくさんある窓から照らされる陽の光は、眠りからちょうど目覚めた俺のまぶたを直撃した。


「うぐぐぁぁぁぁあ」


たぶん今の時間は6時30分少し前といったところだろうか。この太陽の登り具合。あとは毎日の出勤で身についた起床時間。


それにしても結構な快眠だったと思う。人が居るという安心感は、俺の予想以上に心にやすらぎを与えていてくれたようだ。


起き上がるのが怠い身体をよっこらせと起こして、そのまま横を向く。


寝袋で寝にくそうにしながらも、だらしない寝顔を浮かべて、小さい寝息をたてながら、すやすやと眠っている顔があった。


その顔を見た瞬間、昨晩の熱弁を思い出して恥ずかしくなる。

俺は顔を真赤にしながらも立ち上がってストレッチを始めた。

パキパキという関節のなる音がとても気持ちがいい。


畳で寝たのは正解だったのかもしれない。起き上がった背中が若干痛いが気にする程でもない。多分これが洋室のフローリングで寝ていたならば、結構な痛みを生じていたんだと思う。


ストレッチも一通り終わったとき、俺はなんとなく外の空気が異様に吸いたくなってきた。

窓から視線を覗かせて、近くにも遠くにもどこにもモンスターが居ないことを確認して、

起こさないよにそろ〜っと階段を降りていった。



やっぱり埃っぽい空気より、この新鮮な外の空気が凄く良い。何度も何度も深呼吸をして、その場の空気を堪能していく。


……こんなにも空気って澄んでいたかな。キラリとビルの影から照らしつける太陽が、とてもまぶしく綺麗に思う。ここが荒廃する前のごちゃごちゃした場所じゃあ味わえなかったかもしれない。


ん〜と背伸びをして、肩こりを解きほぐしていく。そろそろ、部屋に戻ろうかなと思った時、階段から大慌てのバタバタした音が聞こえた。


履いている靴とズボンから見てあれは緋谷さんだ。一体全体どうしたんだろうか。

右へ左へと顔をきょろきょろさせながら、大急ぎの彼女は真っ直ぐ前に居た俺の顔を見ると、一目散にこちらに駆け寄ってきた。


「ど、どこ行ってたんですかぁ〜〜〜〜。置いて行かないでください!!!」

「いやぁ、別にこの家の玄関で朝の空気を浴びてただけなのですが…」


置いて行かれたと思ったのか、彼女は涙目でこちらを見つめていた。俺が朝日を浴びていたことを言うと、早とちりだと理解したのか、顔を少し赤くして急ぎ足で寝ていた場所へと帰っていった。


「……慌てるからミスするんだよ」


俺は例の金曜日の会社での事件を思い出して、一人でクスリと笑った。

肩の力を抜くと俺の腹から、大きいようで小さい空腹の音が自分だけに鳴り響く。もう一度手を大きく上に伸ばしてから、緋谷さんの居るであろう部屋へと帰っていった。



「緋谷さん、代り映えしないけど乾パンでもどうぞ」


贅沢は言えないが、正直乾パンは飽きた。缶詰を食べると行っても、中身は乾パンににたパンやビスケットのものばかりだ。

数日前に食べた、肉の味を口の中が欲している。


それでも、もさもさと乾パンを食べる緋谷さんの顔は嬉しそうだ。一瞬だけ、クロスで潰されたトカゲを食べようかと考えたが、その胴体からたらたと流れる青色の血を思い出して、その考えは消え去った。


俺も乾パンに手を伸ばし、一つ目二つ目と口に運んでいたところだった。


すごく嫌な気配を感じた。乾パンを持つてが反射的に止まり、視線も動かせない。

以前の黒い奴のことを思い出し、ブワッと冷や汗が噴き出る。

緋谷さんも何かを感じ取ったようで、小さく震えている。


壁に身を隠し、窓からそーっと外の様子を伺ってみる。


なんだあれは。


そこには、毛が黒い大きな化物が我が物顔で道を歩いている。

その風貌はまるでゴリラだ。実際にゴリラを見たことは動物園での体験でしかないが、雰囲気はそれに似ている。


大きさは……2メートルくらいか。幅が太いので、正直それ以上に見える。

大きさも、風貌も色々あるが、何より特筆すべき特徴がある。

それは腕だ。

右腕も左腕も、ドラム缶一つくらいありそうだ。


怖い。怖いと言う感情が沸々と心の底から湧き上がってくる。歯がガチガチ鳴り、腕は震え、額の汗が頬をつたい、顎から何滴も滴り落ちてくる。

緋谷さんも、手で頭を抱えて、ガタガタをその場で震えている


俺はその威圧感と、恐怖心でゴリラから目が話せなかった。それでも見つからないように、壁に身を隠し続けながら、その動向を見守る。


ゴリラはトカゲが潰れているであろうラーメン店へと入っていき、何分かその店から出てこなかった。その数分は体感時間で何十時間にも感じた。


トカゲを食べていたのか、店から出てきたゴリラの口周りには青い液体が、汚らしく付着してあった。

歩くたびに、ドラム缶の様に太い腕が、地響きとして鳴り響く。いったいどれだけ強い力で歩いているのだろうか。


俺たちは息を殺して、その道から通り過ぎるのを待った。一歩、二歩、三歩。地響きがするたびに緋谷さんの身体も一緒に呼応して一回、二回、三回とビクビク震える。


道から見えなくなった所で俺もその場へと座り込んだ。貯めこんだ息を大きく吐き出す。緊張感からか嘔吐感を出てきた。一息ついたところで、緋谷さんへと話しかけようとしたところだった。


「あ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


恐ろしく低い、絶望を感じるような方向がこの地域へと縦横無尽に走った。

急に嘔吐感が口いっぱいに広がる。あまり噛み砕かれていない乾パンの残骸と、少し酸っぱい胃液の味が口内を攻撃するが、それを吐き出さずにぐっと喉の奥へと押しこむ。


ゴリラは何かを感じ取ったように、勢い良く俺達の居るこの家へと爆走してきた。

その太い体型から速度は遅いんじゃあないかと、心のなかでどこか思っていた。


その巨大な腕で地面を踏み込み、ジャンプするようにこっちに走ってくる。あれは何キロくらい速度が出ているんだろう…。


そう思っているうちに、この家の1階の窓が粉々に砕けた音がした。考察をしている場合じゃなかった。


「緋谷さん!逃げます!」


そこからの俺の行動は早く、鞘から菊門を抜き手に握ると、右手に炎が強く燃えたち、そのまま目の前にあった窓ガラスに向かって思いっきり振った。

剣術の心得も無い俺は、型も何も考えずに、力任せにそのままだ。


窓ガラスは耳をつんざく音を発し、耳内に不快感を走らせる。

俺は窓から飛び降りる(・・・・・)ために、窓の桟に残ったガラスを菊門でさらに細かくしていく。


1階からはタンスなどを倒すような音が鳴っている。一層俺の恐怖精神を煽ってくる。顔を青ざめさせながらも緋谷さんをかつぐように持ち、そのまま二階から一気に地面へとジャンプした。


家自体が結構高く、4、5メートルあったのだろうか、地面へと着地する時間が長かった。

足をバネにして衝撃を地中へと逃がし、緋谷さんを地面へと立たせた。


「走ります!!」

「は………はいぃぃぃ」


全力疾走すると周りの景色が流れていくようだ。この武器が表れてからの身体能力の上がり方が本当にすごい。

あまりにも夢中で走っていたので、横に走っているはずの緋谷さんが見えず、焦って後ろを振り向くと5歩くらい後ろでヒィヒィ走っていた。


それと同時に、獣の方向と壁を思いっきり殴るような音がした。

岩というかコンクリートが砕けるような音がそこら中に鳴り響く。


後方を見ながら走っていたが、ついに遠くの方で黒い物体が凄いスピードで走ってくるのが見えた。

おいおい……やっぱり、やらなくちゃいけないのか?


俺は緋谷さんを一回見て、唇をきつく食いしばり、目をギュッと少しだけ閉じて、大きく呼吸をして、その場に立ち止まった。


「緋谷さん。先行ってください」


俺とすれ違うように走り抜けようとした、緋谷さんは立ち止まろうとして、速度を緩め転けそうになっていた。


「え、で、でも!!」

「いいから!!」


俺のその言葉を聞くと、迷うようなそぶりを見せ、こちらをニ、三度見たが、意を決したように走っていった。


たしかに緋谷さんが居れば、戦力の状況になるかもしれない。

でも泣きながらトカゲと戦って、腰を抜かし怖がっていた彼女がそうなるとは少し考えにくい。


たしかに、俺も怖いし、今すぐにでも腰がくだけて地面へとヘタれそうだ。でも、あの攻防を忘れたわけじゃあない。

まだ、俺は戦える。


だんだんと、黒い点が形を成していき、俺の目へとその姿をはっきりと視認させる。


「いくぞ、菊門」


俺は肛門の名前を発言した。別に何も変わるわけじゃないが、気合をいれるだけの行為だ。


もう近くまで来ていたゴリラは、俺の手から燃え盛らる炎を見て、警戒心を露わにした。

近くで見てみるとその体躯に圧倒される。身体の太さが俺の何倍だよ…。


グルルルルという、相手の臭い吐息と吐き出した低い声が怖い。睨み合いが数秒続く。こめかみから汗という汗が何滴も顎へと伝ってくる。

俺の焦る吐息がよく聞こえる。


何秒この睨み合いは続くのだろうか。ずっと待っていると、後ろのほうでコンクリートの壁がガラガラと崩れる音が聞こえた。

それが均衡を崩す合図となり、俺もゴリラも動き出した。


威圧感にやられて、俺はゴリラの脇腹の横に避けるようにしたのが幸いした。

ゴリラは地面をその太い指で突き刺し、引っ張る力で俺の方へと直進してきたのだ。一瞬の間に見えた、奴の口の牙は鋭く、俺の腕なんぞわけもなく噛みちぎりそうだった。


振り返られる前に、俺が菊門で背中を攻撃する。火力を高めるために腕の炎を少しだけ強くし、大きく振りかぶり、そのまま脇腹へと斬撃をお見舞いする。


脇腹は5センチほど切れただけで、致命傷には全然いたらなさそうだった。

しかし、燃え盛る炎でゴリラが苦痛のうめき声をあげる。

奴はがむしゃらに、両腕を横に振りまくった。


脇腹から抜けていなかった菊門に捕らわれていた俺に、その腕がクリーンヒットする。

その衝撃で、まるで漫画のようにニバウンドして転がっていくのを、冷静に思い返していた。


肺の中の空気がなくなり、内臓から血がせり上がってくるのが分かる。

それよりもなによりも、頭が揺れて視界がチカチカした。


咽頭に溜まっている血を吐き出し、無理やりでも呼吸という行動を引き起こす。

俺が前を見た時、ゴリラは眼前へとすでに迫っていた。


黒い体毛が俺の視界をいっぱいに埋め尽くす。そして、強い衝撃とともに俺の身体が地面へと叩きつけられた。

こいつのパワーはどこから来るんだ…!抜けだそうと身体を右へ左へうねらせてみるが、一向に状況は変わらない。


もがいているうちに、ゴリラにマウントポジションを取られていた。奴は恐ろしく太い腕を空高らかに振りかぶった。


おいおい……その拳をどうするるつもりだ。


拳は無慈悲にも俺の腹部へと容赦なしに振り下ろされる。俺は菊門でとっさにガードをするが、体勢が体勢だけに力が入らない。俺はこれからくるであろう痛みを覚悟する。

俺の右腕に炎が一瞬だけ燃え盛り、力を入れ叫びながら拳を止めるように刀を押した。


ガヂっという拳と刀がぶつかる音が聞こえた。火事場の馬鹿力というやつか、寸前の所でやつの拳を止めることに成功した…が、そこから奴は、俺の刀ごと拳を押し返してくる。

腹部が、奴の拳でめり込んでいき、痛みはもちろん、胸部も迫されて呼吸が出来ない。


ミシミシという嫌な音が脳内に響いてくるがそれどころではない。

服が吐瀉物でどろどろに汚れる。目からも鼻からも口からも汁が飛び出る。


痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!1


「ああああああああああ、ちくしょおおおおおおおおおおおおお。きくもぉぉおおおおんん!!」


まるで山火事かと思うほどの凄まじい火力。

何もない道路に一人と一匹、そこに一筋の巨大な火柱が発生した。


「ごあぁっぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


ゴリラが叫びながら、炎の中から必死に逃げていくのが視界の端に見えた。

身体が軽くなり、腹部と胸部の苦しさから開放された。


ただ、この菊門を全力開放?したおかげで、俺は倒れるだろう。正直言えば意識がもう、もうろうとしている。


ゴリラはまだ生きている。俺もまだ生きている。

今からやることの答えは簡単だ。この腕から発生した火柱が尽きる前に、あと一振り。

一振りだけ頑張ろう。


それが終わったら倒れてもいいや。

相手がいる方向はだいたいしかわからないけど、そのまま真っ直ぐだ。真っ直ぐ走って刀を振ろう。


ともかく、俺は風のような速度で数歩の距離を走り、何も考えずに横に刀を一閃したあと、急激に眠くなった。


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