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第1話 幼女のヒモ

初投稿のしがないサラリーマンです。よろしくお願いいたします。

投稿は本業が暇なときに。

 人類史上最悪とも呼べる災厄、魔人アルフレッドの顕現に伴う世界崩壊から一〇年。

 ラグナ・ルル・ネストリア王が盟主となり発足した大陸大連盟は世界復興の礎となり、その末端組織である、連盟参加国すべての国境を飛び越えて派遣される連盟魔剣騎士団<ファフニール>の名声も日に日に増していた。

 それでも今だ災厄の影響は大陸中で燻っており、とりわけ人々の生活基盤には欠かせない妖精鉱石ジグナリウム不足は深刻だった。

 なにせ、火をおこすのにも必要なのである。火がなければ調理ができず飢え、また厳寒となる大陸の冬を越すこともできない。

 そんな状況に貨幣経済は疲弊しきり、今ではジグナリウムでのみ売買を受け付ける商店ですら出てくる始末であった。

 いわゆる、世界恐慌。

 大陸大連盟により、国境線の版図は安定はしたが、結局はそれだけだ。

 現状、ラグナ・ルル・ネストリアが開拓した新たな流通ルートを巡って、大連盟参加国で駆け引きが行われている真っ最中であり、庶民にまで回ってくるには至らない。

「つい最近じゃ、とうとう連盟議会の最中にラグナ王がブチ切れて槍を振り回したそうだぞ。逃げる他国の代表たちの尻をつっついて回って大問題になったらしい。なんでも尻を二つに割られた国家元首もいたそうだ」

 黒髪黒目の青年は皮肉気に唇を歪めて笑う。

 ぱっと見は中肉中背で二十歳くらいの、どこにでもいるような男だった。

 だが、その眼差しは鋭く、それでいてどこか暗く底知れない輝きを纏っていた。

 半袖の黒シャツを着ているが、そこから覗く二の腕は良く鍛えられた実践的な筋肉がついている。

 一言でいえば、胡散臭い、そんな青年である。

「で、ジンさんよ。それが半年分の家賃を滞納することと、どう関係あるんだ?」

「………………」

 ジンと呼ばれた男は、額に手を当てて、何か考えるそぶり――実際は冷や汗をぬぐっただけではあったのだが――を見せた。

「俺としちゃあ、三〇万ソルきっちり払ってもらえればそれでいいわけだが。別にジグナリウムでしか受け付けない、とは言わんぞ? いや、ジグナリウム払いなら別にそれでもいいが。ああ、こないだみたいに玄関閉めて立てこもらないでくれよ? 今回は壊したくない。なぜなら俺の財産だからな、この家は」

 この家は、に力を込めて男は蓄えたひげを撫でつけた。頭は禿げあがって久しいが、髭だけはむやみに生えている、そんな男である。

「ちょっと待ってくれよ、バグさん。払うって。払う。金は大事だ。それはわかってる」

 ジンはなるべく真摯に見えるよう、バグと目を合わせながら言った。

「そういってもう半年だ。お前、本当に金の価値をわかってるのか?」

 揚げ足を取られたジンは、うぐぅ、と呻いた。そして、

「マールギアだ! マールギアを呼んでくれ!」

 と叫んでみる。

「ダメだ。あいつはお前に甘いからな。てか、穀潰しが人の娘を馴れ馴れしく呼ぶなと何度言ったらわかんだテメェ! あいつの手作り料理、俺だって食ったことがないんだぞ! それをこの半年間ただでがつがつ食いやがって……ああ、そうだ。食費代も上乗せすっからな、クズがっ!」

 言っているうちに興奮したのか、ガンガンと戸口を蹴っている。

「いいかっ! 今日中に六〇万ソルだ。払えなきゃ出てけっ!」

「いや、なんで二倍になってんだよ!」

「食費だつったろが!」

「そんなかかってねぇだろ、このハゲッ!」

「今どんだけジグナリウムが高いのかわかってんのか!? マールギアのやつがテメェに弁当作るようになってからどんだけジグナリウムの買い付けに苦心してると思ってやがる!」

 二人は睨み合う。確実にバグの方に正当性はあるのだが。

「だいたいテメェ、最初はファフニールだとか言ってたじゃねぇか。だから安心して貸したんだが。そのお仕事はどうしたんですかねぇ?」

「くっ……そ、それは……」

 ジンが言葉に詰まったその時、

「その辺で勘弁してあげてよ、パパ」

 嘆息交じりにそんな声が響いた。

「おお、マールギア!」

 ジンは喜色満面、味方を見つけたといわんばかりに笑顔でマールギアに片手を上げて挨拶をする。

 年のころは一〇歳。少し赤味かかってくすんでいる金髪が風に靡いていた。

 くりっとした双眸に青い瞳。勝気そうな口元と鼻が彼女の実年齢相応の好奇心旺盛な性格を表していた。

 白いワンピースに包まれた身体の凹凸は年相応に平坦でいろいろと小さくはあったが、バグの遺伝子を受け継いでいるのが不思議なほど、将来有望な美幼女であった。

 おそらくは母の遺伝子がよほど優れていたのであろう。

 そんなことを考えながら、ジンはマールギアにすがるような瞳を向ける。

 二十歳の男が一〇歳の幼女に向ける表情ではないのではあるが。

「マールギアッ! 何で来たっ!?」

「いや、ジンさんがちょっと心配で。あ、これ今日のお昼ご飯ね」

 と、なぜか頬を染めながらマールギアは言った。

「お、おう。ありがとう、マールギア。いつも助かる」

 布に包まれた弁当を受け取り、ジンは自分の頬を人差し指で意味もなくひっかく。

「くぅぅぅっ! ジン! テメェ、俺の娘になにをしたぁぁぁぁっ!」

 その様子にただならぬ気配を感じたバグが、拳を固めてプルプル震えている。

「だからパパ、ちょっとは落ち着きなってば。ジンさんにはあたしが勝手にごはん作ってるだけだよ」

 そうして明後日の方に視線をずらしながら、

「そ、それにまだなにもされてないし。たまにジンさん部屋でお昼寝したりするけど」

 と言った。

「うぐああああらぁぁぁぁぁぁっ!」

 もう、バグの禿げ頭は真っ赤だった。感情が爆発して言葉になっていない。

 早いところ落ち着かせないと、頭の血管がやばいのではないか、ジンですらそんな不安がよぎったころ、

「でもジンさん、そろそろ家賃払ってくれないと、ちょっといろいろ無理かなぁ」

 マールギアは眉をひそめて言った。

「マ、マールギアさん!?」

 大いに焦ったのはジンである。

 いつもはバグを宥めすかしてその場を取り持ってくれるのだ。主に、ジンの都合のいい方向へ。

 目的がなんなのか、イマイチわからないジンではあったが、そんな彼女に甘えていたのは事実であった。

 一〇歳の幼女に甘える二十歳。客観的に見て情けないことこの上なかったのではあるが、ジンにとっては切実な理由があった。

 なぜならば、金がない。一日の食費ですらなく、マールギアのお弁当が日々のご馳走だ。

 彼女の都合で弁当がない時は、街の広場の噴水の水を飲んで凌いでいる有様である。

 そう、ジンはまごうことなきヒモであった。

 それも、この不況な時代に、一〇歳の幼女に寄生するろくでなし。

「おお、ようやくマールギアも目を覚ましたか……そうだろう、そうだろ。こんなクズ、今パパが追い払うからねぇ」

 血色が戻り、にこにことした笑顔でマールギアに告げると、鋭い眼差しをジンに向ける。

 唇の端を釣り上げると、指の関節をゴキリと鳴らした。

「さあ、ジンさんよ。痛い目に合うか、自分の足で出ていくか、選べや」

 それはもう、清々しい笑顔だった。

「う、ぐぅぅぅぅ……」

 正直に言えば、ジンにとって力ずくでバグを制圧することは簡単だった。

 しかし、相手は善良な一般市民。悪いのは自分だという自覚はさすがにジンにもあった。

 ここで手を出すと、ファフニールの奴らに指名手配されてしまう。

 いまだ復興中の大陸にあって、暴力は一番の罪だ。

 人手があればいつか復興はする。しかし、人手がなければ復興は出来ない。

 自明の理。だからファフニールは暴力は許さない。暴力にはより圧倒的な暴力でもって制裁を加える。

 ジンにとって、それは避けなければならないことではあった。

 ――たとえ、それが彼にとって些末な、どうでもいいことではあっても。

 (進退窮まるとはまさにこの事だな……)

 いよいよジンは観念し、

「わかりました。荷物をまとめますんでちょっと待ってください」

 と言った。

 今日からは噴水広場のゴミ箱を漁って下水あたりで寝ようか、あそこは臭いさえ我慢すれば意外に暖かい……とそんなことを考えながら部屋へと身をひるがえす。

 が、そこでマールギアが動く。

 彼女はそっとジンのシャツの裾を握った。

「ねぇ、待って。ジンさん」

「マールギア?」

 いぶかしげにバグは娘に声をかける。

「家賃、チャラにしてあげるわ」

「「は?」」

 ジンとバグの声が綺麗にはもる。

 真意を問おうと顔を向けた瞬間、マールギアはニヤリと笑う。

 悟った。ハニートラップだ。一〇歳の幼女に半年掛かりでハニートラップを仕掛けられたのだ。

 対価は何か、彼女は何を求めているのか。

 場合によっては武力制圧も必要かもしれない。そこまで至ったところで思考が落ち着き冷静になる。

 訓練の賜物だった。ある程度頭に血が上ると、自動的に思考を冷却させる技術。

 長期にわたるマインドセットが可能とする、自らを客観視する技巧。

 ジンは、努めて冷静な声で言った。

「何が望みだ?」

 その冷たい声にマールギアは一瞬ひるんだが、それでも彼女は言った。

「わたしに、魔剣術を教えて」

 その言葉に、

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?」

 バグの絶叫が響き渡ったのだった。

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