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異世界の恋愛メソッドで君もモッテモテ  作者: 620(むに丸)
第一章:爆愛機モテモテオー
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第一話:少年の人形(アルヴィオス)#1

 夜通し酒を飲むベテラン、暑くならないうちに採取任務を終える若手。

 不夜城よろしく昼夜問わず動き続ける三国の中心、

冒険者の町にあっても早朝から活動をはじめる人物は少ない。


 店舗を持たぬ出入りの商人か、飲みすぎて路上でダウンしたおっさんか、

宿代も払えないほど賭博でスった馬鹿者か。

 人並みに賑わう町とはいえそんな彼らでもない限り、

山間の方向から土煙をあげて走り来る少年の姿をしらぬだろう。


 朝日を背に、

巨大なダイハチ(二輪の人が引っ張る荷台)を操り大通りに駆け込む少年。

 毎朝以下のような調子で、彼は大きな声で町におはようを告げる、

一日と欠かさずだ。




豆乳ミルクが通ります!すいません豆乳ミルクが通ります!!」





「うぁー!!み、豆乳ミルク運びのテリオスだッ!!」

「野郎共道をあけろ!

小僧の配達が遅れたら商業ギルドに目をつけられちまうぞ!!」

 夜の華からつけられたキスマークが目立つ冒険者イロボケが、

路上で高いびきをかく冒険者ヨッパライを蹴り飛ばした。

 吐瀉物を朝日に反射させながら、キリキリと音を立てて宙に舞う男。

 ダイハチが通り過ぎる一瞬前にダイブロールし、

大通りを駆け抜けてゆく少年に親指を立てる。

 そして跳ね飛ばされた男をゴミ箱でキャッチした、

目前の掃除を続ける店員も親指を立てる。

「今日もうまいミルクをたのむぜ!!」

「熱いうちに絞りたてを飲みに行くからよう!!」


「はい!各宿でおやじさんたちが待ってますので、お早めにどうぞ!」

 この十年で普及した豆乳ミルクは、

万年乳製品不足のこの冒険者の町にある提携店で大好評発売中。

 あまりの好評さに、料理で使われる以外の豆乳ミルク

昼を告げる鐘を聞いたことがないほどである。


 そして商業ギルド所属、妙に乳がでかいエルフの看板を掲げる

『フォルクス乳業』の名物丁稚、テリオス少年の名も、

町に居を構える中堅以上の冒険者ならば、

顔と名を知らぬものがいないほど有名なのである。





 十四年前に突如冒険者ギルドの支配人から、

すべての冒険者に下された勅命。

 実行期間無期限成功報酬なしのその依頼は、

その背後にある謎の一切を説明されぬまま、今もなお続いている。

 曰く『赤ん坊を一人前に育てろ』



その赤ん坊の名はテリオス。



 報酬がない代わりに遂行せずとも罰則が一切ない、

それゆえに荒くれたちは当初一切の興味を持ったことはなかったが。

 日がたつにつれて冒険者ギルドの小間使いとして働く子供として、

そして革新的な『豆をしぼったミルク』を販売する商業クラン、

その前線に立つ少年として認識が広がるにつれ、

彼を下に見るものは日に日に少なくなっていった。


 そして

「ようテリオス!今日の『誕生日会』は冒険者ギルドの建物でいいんだよな?

会場!」

「顔見せに行くから、酒と食い物残しといてくれよな!」


「はい!お待ちしています!

人が中に入りきらなくても軒先まで椅子と机用意してくれているらしいので、

もちろん飲み物と食べ物も!!」


 今日、少年は成人一歩手前、14歳の誕生日を迎える。

 7日前に冒険者依頼の掲示板の一番前に陣取ったわら半紙は、

冒険者を名乗るものなら見逃すはずもない上等な任務。


 冒険者ギルド、商業ギルドの連盟でブチあげられたその依頼は

『テリオス14歳を祝う宴』

 命の危険もなく、金銭的な実入りは一切ないものの、

代わりに酒とメシは食い放題。

 掲示板の利用率を上げるべく、時折張り出される武道講習や催しの類、

あるいは町内清掃といった新人救済依頼。


 ともすれば無視されがちなそれらとはちがって、

今夜のそれは各ギルドの力の入りようがちがう。

 この一週間にわたってひっきりなしで町に荷を運んでくる、

商業ギルド所属の定期馬車。

 妙に新作メニューの試食まがいの、宿の親父共が作る食事。

 誰に飲ませるわけでもない上等なヤツがはいった酒樽を、

カウンターの前からはみ出させている酒場。




 あれ?…………なんか夜も袖引きの華、少なくね…………?




 そんな取るに足らない小さな町の変化が、

日々危険を察知するのが生業の冒険者どもを予感させるのだ。




 大きな、とても大きな祭りの始まりを。







「ふう、今朝も配達任務完了…………っと」


 空の金属製ミルクタンクが乗っただけの、

すっかり軽くなったダイハチを前に、まるで剣舞後の残心を思わせるいでたちで、テリオスはゆっくりと息を吐いた。


 全身を駆け回っていた“筋力強化”の魔術が、解けるように霧散してゆく。


 帰り道は、自分の筋力だけで回収したミルクタンクを持ち帰る

 ほかの誰でもない、彼自身が決めた修練だ。

 今はまだ、商業ギルドの元で日銭を稼ぎ、

生活するだけの小僧であるが、将来は冒険者になる。

 そんな夢を追いかけている、彼はどこにでもいるただの少年である。


 なぜか時折昼食を一緒に誘われる、

見知らぬ女性冒険者達や夜の街を見張りする生業の女性達などは、

「絶対今のまま商業ギルドにいたほうがいいって!

そのうちあの『フォルクス乳業』から正規登録者のお声かかるでしょ?」

 とか

「博打みたいな生活は貴方にはにあわないわぁ~」

 みたいなことを言われたりする、

“口調は冗談半分みたいだけれど、誰もが目はマジな感じ”で言われたりする。



 おそらく、誰もが自身の心配をしてくれているのだろう、感謝。


 

だがしかし、そんな未来はロマンがないのである。

 大きな世界を駆け回って、各地の困っている人を助けたり、

超文明世界の遺産なんかを探してみたりしたいのである。

 もちろん、気を使って声をかけてくれる、

あまつさえ昼飯代を持つとか大いなる善意を向けてくれる女性の前で、

反論したりはしない。

 フォルクスさんみたいに新しい豆乳ミルクの味を

生み出すことはできませんよ~、とか。

 宿屋の親父さんたちも、

うちの店で雇ってやろうとか言われてるんですよね、とか。

 自分の将来をはぐらかしつつ、割り勘に持ち込むのが彼の精一杯だ。


 で、腹の膨れた帰りに冒険者ギルドの看板を冷やかしたりするものだから、

未練たらたらなのだと自分でも思うのだ、冒険者に。




 だって、僕の一番の友達も、冒険者だし。

 彼と一緒に、世界中を、世界の果てへも、行ってみたいのである。







 さて、時間はそろそろ正午の鐘が町に鳴り響く頃である。

 習い性というもので、

町でひときわ大きな冒険者ギルドの前を通りかかる道筋を選ぶ少年、テリオス。

 入り口の前は、貴族様の屋敷とは比べ物にならないが、

それでも多くの人で活気付く広場になっており。

 いつもならばかき集めた依頼わら半紙を前に、

受ける受けないで口論をしている新人冒険者や、

軽食で腹を満たす中堅どころがいたり、

そういった相手に商売をする行商や屋台が集まったりするのだが…………


 今日は、

「だめか!丸焼きはだめか!!」

「いい突撃イノシシ狩ってくるからよう、

坊主を祝う振る舞いがしてぇんだよう!」


「すいません、焚き火は地面にコゲ跡が残るのでちょっと…………」

「というか、商業ギルドの露店が入るのと、席を広げるので…………」


 みたいな。。

 トゲを生やした奴らと新人ギルド員が押し問答を続ける場になっていた。




「こんにちわ、“いかり肩”ボンショスさん、“ダガー舌”マローンさん、

今日も立派なトゲですね」

 割って入るテリオス、

この町の冒険者に声をかけるときはトゲをほめておけば、

大体悪い話の流れにはならない。

「「おっテリ坊!!」」

 話題の中心が来た!見たいな顔で目を見開く二人のならず者。


「おう、テリ坊!おめえも突撃イノシシの丸焼き食いたくねえか?

焚き火して血抜きしたでかいヤツをよう。

こう、棒に刺してぐるぐる回しながら焼くんだよ、

強火でもこげねえように思いっきり回転させてな?」

「なあ、いつかはおめえも相手にするんだろう?

ああいった手ごわい害獣をよう。

 自分で狩る前に味をしめておけば、

将来俺達みたいになったとき力はいんだろ?うん?」

 堅気が見たらまずビビりそうな面構えを蔓延の笑みに代え、

テリオスに同意を求めてくるいかつい奴ら。

 ぐいぐいと迫るその勢い、今にも肩に、

そして舌に生やしたトゲがテリオスの頬に刺さりそうなほどである、

挟むように。


 そんな後ろで新人らしい女性ギルド員は、

テリオスに気づくなり彼が場を制止してくれるよう無言の懐柔を始めた。


 一人はブラウスの前ボタンを3段目まで空けて前かがみになり。

 一人は胸下で腕を組んで流し目を送り始めた。

 ――――――必死だ。


「まあまあお二方、

実はここから南にある第三緩衝場って焼肉自由なんですけど、

あそこの近くにお世話になってる修道院ありまして、


そこの孤児達にも今晩参加してほしいなー、

と思ってもやっぱり冒険者の人たちが集まってたら居づらいと思うんですねー。

で、そんな彼らにもおなかいっぱい肉食べてほしいなー、とか。

親のいない子供たち、

に肉を振舞う冒険者がいたらそいつらかっこいいなーとか…………」

「おうわかった、第三緩衝場だな!?」

「頃合をみて顔出しにこいよ!かっこいい冒険者はそこにいるぜ!」


 脱兎のごとく去ってゆく二人の冒険者、

突撃イノシシが狩れるかどうかは神のみぞ知る。

 ほどなくヤッターとなにかやわらかいのでテリオスをはさみつつ、

彼の頭上でハイタッチする二人のギルド職員。

 さらにヤッターと野太い声で、

妙に産毛の濃い桃のような何かを彼の頭上に乗せつつ、割ってはいる一人の男。


「おう、新入りども。

あれくらいのクレーム以下の問答、

自分達で裁けるようにならねえとカウンター任せられんぞ」

「「す、すいません代表」」


 それぞれが一歩後退すると、真ん中に立っている男が何者であるか、

テリオスも得心する。


「ケツァゴール冒険者ギルド代表!お久しぶりです」

「久しぶりなもんか、毎日毎日掲示板の依頼指しゃぶりながら見ていてよぅ、

穴が開いたら新しいもん作ってもらうぞ」

「それは依頼ですか!?」

「そんなもんで勅命依頼出すギルドマスターがいてたまるかいバーカ」


 荒っぽい口ぶりとはうらはらに、

新人達はろくに見たこともない笑顔をみせるその男、冒険者の町のいわば顔役。

 年のころ50代に入ったばかり、

生涯現役が口癖のとても屈強な体つきをしているその男。

 その名も素敵、ケツァゴール代表。

 頑丈な歯を見せるその真下に視線をずらせば

 ―――――おお、あごが割れている。


 そんな彼は上機嫌を維持したまま、少年の目を見て言ってやった。

「ところでテリ坊――――――商業ギルド傘下のやくそう問屋がな、

先割れナッパの在庫がアブねえって連絡はいったんだわ。

 こんな木っ端以来にわら半紙使うのも勿体ねえからよう、

一寸町の裏庭行ってむしってこいや」

 目を見開いて、その言葉を吟味するテリオス。

「…………いいんですか?」

「いいも悪いもねえ、

こんなときに足りねえもんがあるとか言い出す商業ギルドが悪い。

うちに所属のぼんくらどもは、

そろって今晩の宴に張り切って動きやしねえしな。

元凶が片付けてこい」




「わかりました!沢山持ってきますから待っててくださいね!!」

 ダイハチの上に載ったミルクタンクをものすごい勢いでおろしてゆくと、

飛ぶような勢いでかけ去ってゆくテリオス。

 ああ、アレは下手したらダイハチいっぱいに、

先割れナッパを積んで帰ってきそうな勢いだなぁ、

と笑みを苦く代えるケツァゴール。

 ちなみに彼のお目当ては口に入れても健康にいいだけの、単なる野草である。

 やくそう問屋が扱うものではない。

売って儲けるのは八百屋の部類だ。


「よっしゃおまえら、そのミルクタンクかついでギルドの横にでもおいとけ」

「えー女の子にこんな重たいのもたせるんですかぁー」

「私達事務員なんですけどー」

 ぶーたれる女性二人に率先して、

二つのミルクタンクを同時に持ち上げるケツァゴール代表。

 底を見せると何がしかの魔方陣が刻まれていた。

「重量軽減の魔法付だ。

……こんなもん一寸でかくて持ち運びづらいだけの布団とかわんねえ重さだよ。

大体こんなでかいタンクにぎっしりと液体つめてよぅ、

運んでいたら先にダイハチのほうがつぶれちまうだろうが」

 あいつの周りはそろって過保護なんだよなぁ、あったくよ。

 過保護の代表が毒づいた。







 冒険者ギルドの受付は、けしてテリオスに依頼を与えてはならない。

 たとえ懇願されようと、猫のように体を摺り寄せてこようとも、

けっして彼に依頼を与えてはならない。


 それは冒険者ギルド職員に脈々と受け継がれる、暗黙のルールである。

 今から4年前のある日、

10才を満たない冒険者見習いでも受けられる最も簡単な依頼、

いわゆる“はじめてのおつかい”を

テリオスに求められるままに斡旋した女性スタッフがいたという。


 意気揚々と依頼達成書にサインをもらい、

それを受け取ったのはほかでもないケツァゴール代表自身。

 彼はその口で、テリオスをねぎらうでもなく、

朝受け持った受付は地方に転勤になったと伝えてやった。

 テリオスは泣いた、膝を抱えて泣いた、

そのまま軽はずみな自身の行動を恥じた。

 成人を待たずに冒険者登録をするのは早すぎると

“一番の友達”からも言い含められていたのだ。

 きっと、彼の耳に入ったのだろう、結果、

何も悪くない受付の人の運命を変えてしまったのだ。


 そしてテリオスは依頼を眺めるだけで、

自分からはけして受けようとすることはなくなったという。


「ま、その成人まで残り1年だ…………

“あいつ”も今日くらいはゆるしてくれらぁな」

 どっこいしょ、とミルクタンクを建物の軒先に下ろし、

ケツァゴールは一人ごちる。




 テリオスは知らない。

左遷にあった受付嬢の目が、うんちょっとあれだね、

見たいな色をしていたことに。

 テリオスは知らないのだ。

その受付嬢の顔を肖像画にしたら、

どんな画家に描かせても題名は絶対『出し抜いた女』




 まあ、彼の保護者からも言いつけられていることだし、

面倒だから誤解は解かないままにしている。

 ほかのスタッフの誤解も、まあ解かないままにしている。

 自分の管理している企業から、新たな変態を出したくないのだ。

(でもまあ…………この勢いだと商業ギルドが唾つけそうなんだよなテリオス。

ちっと今晩相談して、簡単な依頼でも流せるようにしておくか)




「代表、今晩の依頼なんですけど」

 若い男のギルド員がケツァゴールの名を呼んだ。

「ここの広場、屋台があって、席があってでしょう?

で、入り口前の真ん中に扇状に不自然なスペースを取れって、

ここも席作ったほうが良くないですか?」

「ああ!?これでいいんだよこれで!!」





―――――じゃねえと“あいつ”が座る場所がねぇ


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