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Stand Alone Stories

Live thing,Love 寝具

作者: 枕
掲載日:2014/07/04

 モノに感情があるかないかって質問なんですけどもよ、こいつをどう思いますでしょうか?


 何馬鹿なこと聞いてんだこいつって印象くらいしか抱けないかもしれないなと思うわけです。


 そう言う質問が出てくること自体、こちらの正気が疑われてしまうかもしれませんのです。


 でも多分、これを読んでいる――読むことができている以上、少なくともおそらくあんたは人間なんじゃあないだろうかって、勝手に解釈するんで。


 いや、きっとそうだ。もしよっぽど奇態な妄想癖の持ち主で自身を人類を超越した何かだとか人語を理解する猿なのだと言い張るような、突飛極まる救い難い種類の人格の持ち主でもない限りは、あんたはそう、自分を人間なんだろうと解釈している事でしょう。


 改めて考えてみるとどうでありましょうか。

 

 あんたら人間――と思われる連中とモノの違いってやつについてだってんです。


 最初の質問についての回答が得られるとしたら大凡、次のようにおっしゃられるだろう。


 感情を持つのが人間、持ってないのはモノ。


 感情とは、意思と言い換えてもいいんす。


 モノは動かない。静かなものだ。基本的には、人間が作り出し生み出した場合が殆どと言えるからだよ。


 自然界に、ただ突然ぱっと出てきて動き出すようなモノってのは殆ど無いんじゃないかな。


 だから死んで動かなくなった、死体はモノになると基本的には言えるかもしれないの。


 動物たちはそうやって自然界のサイクルに組み込まれているんだものね。


 ――動物とモノの違いは、動くかどうか。


 そりゃモノは動くかもしれないが、自発的には動いてくれない。現象として動いたりはするかもしれないが、大抵はそこにはカラクリが必要だ。


 自発的、つまり意思――emotion――無くして動き――motion――はあり得ない。


 単純だなぁ。まあ多分それでいいんだと思う。こんな感じなのです。偉い人がそういう風に言ってる。受け売り。


 あんたらの概念では、それでいいんだ。間違ってないんじゃないかと思う。


 おそらく周りを見渡しても、モノと会話出来るなんて人間は殆どいないんじゃないだろうか。


 もしいたとしたら、そいつは未来を生きている。


 そう、こっちの世界の話だ。


 ちょっと前置きが長くなったが、ここからがその、こっちの世界の話なのよさ。


 実を言うと、こっちは言った通りそのまま、未来って所からこの文章を書いて、この小説投稿サイトの誰だか知らないアカウントをハックして、勝手に送りつけてるわけだす。


 もう何年も先の未来だもんで。


 当然あんたらが生きていない未来だのです。


 生きることの無い未来だのです。


 誰も知らない未来だのです。


  だから、このアカウントの持ち主のなんちゃら言うこいつが、この不正行為に気づいたらこの文章は何か突然勝手に投稿されている不気味でわけわからないもんだと思われて削除されるんだろうと思うし、ハッキングは上手くいったからいいとしてしかしそれ以前に投稿の時点で何らかの不都合が起こる可能性もあるから、誰の目にもこの文章が触れないってことも考えてる。


 ちゃんと考えてるんだ。考えてる。考えてるのよ。


 だからそれはいい、しかしとりあえずここまで読んでくれた人は、拙いこちらの文章にも、何とか興味を持って付いて来てくれてる人たちだと言うわけす。


 お礼の変わりに最初の問いに答えよう。


 あんたにも自分なりの考えがあるかもしれないが、一方通行なやりとりしかできないのだから一先ず聞いてくれ。


 モノにも感情はある。


 日々思考している。


 それは、今日の晩御飯のおかずはなんだろうとか、家に帰ったら部屋の掃除してごみ捨てなきゃとか、そういえば皿洗いもしなきゃいけないし洗濯物も出しっぱなしだなぁとかいうことを考えているわけではないが、それぞれのモノたちのコンテキストにおいて思考しているのである。


 それはもう試行錯誤している。


 自分たちの受け皿たる地球と言うものを知っているのかは知らないが、とにかく自分らがそこに存在していると言う確固たる自信と、存在証明を己の胸に抱いている。


 胸に抱くと言うのはおかしいかもしれないが、胸と言うのはハートだ。心臓のことではなく、心だのです。


 それぞれが心を持っているのす。


 細胞だの原子だのなんだののレベルで心がどこにあるのかなんてことはどうだっていい。確かに心はあるのだ。どこにあるかなんてまったく問題じゃない。探して見つかるものじゃないのす。覗いて見ようと思っても見れるものでは無いのす。基本的には。


 この文章が未来から送られているものだと言う事について、信じる信じないはともかくそういう未来もあるんだなという程度の認識、理解ににとどめておいてくれても結構なの。どうせあんたはこの未来を見ることは無いの。


 でもイメージして。それが力。


 想像は出来る。


 あんたたちにはイマジネーションがある。


 どうしてモノにも感情があるなんて話が出てきたのかについて話そう。


 実のところ、モノは結局自らの意思で、人間との意思の疎通を図れた訳じゃあない。


 人間側がコンタクトをしてきたのだ。


 とある天才がいた。――天才と馬鹿は紙一重と言うらしいが、やはりコインの裏表と言う表現がしっくりくる。


 はっきりいって、この技術は世にはまったく知られちゃいない。暗黒の技術とも言える。何らかの法に抵触している可能性もある。


 そうだな、ロボットなんてものがそっちでは今、かなり研究が進んでいるのかもしれない。


 こっちは当然もっと進んでるが、先ほどから言っている技術は、会話出来る相手を創り出すと言うのではないす。


 要は言語を持たない異星人と文化的なやりとりを行う場合を想定して行われていた、個人的な研究の成果としての副産物と言えるものだのです。


 そもそも相手に元から意思がある場合を想定しているのである。


 それがひょんなことから、研究目的が若干ズレを見せ始めたのだ。


 手始めにこの天才は、自分が毎日使っている枕と会話をしてみることにした。


 たまにはお洗濯してほしい、と枕は答えました。


 なるほど、モノにも意思があるんだな。


 天才はその事を知った。


 ここからが悪魔的だ。


 毎日使っている枕には愛着がある。


 モノに対する愛着と言うのも凄まじい。


 擬人化と言う表現があるのは周知の事実だろうが、こともあろうにこの天才はそれを実際に現実世界でやってのけたのだ。


 想像力の発露である。


 同じく暗黒の世界を生きている人工臓器研究者――完全な人工人体の研究も進めていた悪徳の研究者である――と共謀して、とんでもないことを始めた。


 クローン人間は相変わらず禁止されている。


 人工授精で作られた子供についてなど、色々まだまだ問題はある。


 先の人工臓器研究者は試験管の中で育てるのが駄目なのならば、人体――つまり母体の中に試験管――人工子宮を埋め込んで育てればいい、何も問題は無いじゃないかなどと言って、顰蹙を買った経緯があったので、まあ根深い。


 基本的には、人間を創り出すのがまずいと言いたいのだろう。


 しかしそれと並行して、女の身体を男の身体に、男の身体を女に作り替える技術と言うのも別ベクトルで発展している。そっちはどういう訳だか歓迎されているらしく、人工臓器研究者――ドクターとしてはなんだかおもしろくない。


 手術は実に簡単だが、薬を手放せなくなったり色々と問題が有るらしい。とにかく男が女に、女が男にと言うのがごく自然な営みの一つとして迎えられ始めているのである。


 さて、そんなドクターの気に入らない世間の風潮はひとまず置いておいて、悪魔の実験が始まった。


 元はと言えば、モノ言わぬモノ。


 先の天才――マスターが発明した、モノとの意思疎通を図る機械がなければ、そもそも会話も成り立たない。会話ができると思う以前に、モノに意識が有ると言う事を信じていなければ、これは出来ない芸当なのだが、研究の出発点を鑑みるにマスターは宇宙人――地球外生命体を生命とは見做していないとも考えられるれす。


 例えば鉱物のような生命だか物体だかなんだか解らない地球外からの来訪者が隕石の体でやってきたとしたら、いかにして意思疎通を図るべきか。そういう事態を想定していたのであるますて。


 人工人体も、意思が無い以上自発的に動くことは無いモノなのす。もぬけの殻、モノ言わぬモノに違いは無いの。


 二人の研究者は共謀して、この人工人体に、枕の意識を移した。簡単に言うが、彼らは枕における意識の所在――心のありかを発見していると言う事になる。


 つまりそれならば、生物物体構わず全てにそれは応用でき、動物や人間の心――魂を入れ替えたりなど想像を絶した狂気の実験を行える力を手にしているわけですて。


 ……その悪魔の実験は成功しました。


 見た目は人間なのだが、中身は枕なのである。


 擬人化をしてしまったのだ。ちょうど、この天才は、自分の理想の人体――ちょうど理想的な年頃の娘をトレースして作ったもの――に枕の意識を移したのであるから、天才ながら大馬鹿者としか言いようが無い。


 見た目は人間の娘でも中身は枕なのだから、とりあえず枕なのである。枕と思って見るべきなのだ。


 二人はこの枕娘に人間のイロハを叩き込んだ。多少知識が偏っていたが、元が空っぽだったためか枕はそれらの内容をよく咀嚼し理解し、自らの糧としていった。


 こうして、枕娘は、自分を枕だと認識している点を除いては完璧に人間に近くなった。


 ほぼ人間と言っていい。


 ただ、自分は人間だなどと思いこみ始めてしまうと、良くない事になってしまうかもしれないと言う事まで自分の意思で考えて、やっぱり自分は枕なのだと定義していた。


 人造人間――それをついに生み出してしまったのだ。しかし枕の意識を乗り移らせたなどと誰が信じるだろう。


 意味不明な実験で、命を弄んだと糾弾されるのが関の山だ。


 ――命を弄んだ?


 どこに、命があるのだろう。


 命と心は分けて考えられるものではないのか。


 枕に意思が、意識があったところで、枕のことを生きていると、あんたたちはすぐに認識することができるだろうか。


 いや、言えない筈だ。理屈はわからないが、今自分のベッドの上においてあったり天日干しにしてある枕が、生きているなどと思えないばかりか、意思を持っているなど言われて、そんな馬鹿げた話、とてもじゃないが信じられるはずは無いだろう。


 こっちの未来では、まあそういう実験が行われて、こうして私が、文章を打って遊んだりすることが出来るわけなのれすから。


 ――はい、私は枕です。


 字で書くと馬蔵れむです。マスターとはもう七年ばかりの付き合いになりますが、私の周りにはたくさんの仲間がいるのす。


 一方的なやり取りで申し訳なかったけど、今回はこのくらいで。


 読んでくれてありがとう。


 多分もう会わないかもしれないのれす。


 でも、あんたには自分の枕を大切にして欲しいのれす。


 あんまりいじめたりしたらいけないのです。


 枕も生きているのすから。


 優しく、ぎゅってしてあげてくらさい。


 それでは、ばいばいなのれす。

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