1/5
プロローグ
満面の笑みで写る女性の写真を線香の煙がぼかしてゆく
膝を抱えてすすり泣く少年を疎ましそうに見つめる父親の手には酒の瓶が握られている
父親の視線に気付くとびくりと肩を揺らし、袖口で涙を拭き取り声を殺した
大好きな母親はもういないのだ。これからはこの癇癪持ちの父親と二人っきりの生活を送らなければならない
そう思うと頭がグワンと痛くなった
父親のワイシャツにアイロンをかけ、母親の抜けた穴の大きさに涙を滲ませる
「おい、酒持ってこい」
何とかコクりと頷けば薄い財布を投げつけられた
「…父さん、お金足りないよ」
叫ぶ少年の声と肉の焼ける匂いが部屋に充満したのだった