肉食系少女と草食系男子君 1
なんだか今月のガガガ文庫の某作品を読んでたら書きたくなりました。続くかは未定です。
ご意見、感想などありましたら遠慮無くお願いします。
「……ありえね~。」
目の前の悪友は、俺を見るとそう言った。
こころなしか、こちらを見る視線が冷たいような気がするが、向けられている俺の方はそれどころじゃなかった。
なんだよ俺の存在を全否定か、徹底抗戦してやるぞ。全否定していいのは全否定される覚悟がある奴だけだ、とか口から出かかったが、無理だった。
何故か?
俺の口は物理的にふさがれていたからだ。
ついでに、両手両足はロープで拘束されてるので逃げることも出来ない。どうしてこんな状況になってるのかはサッパリ理解不能だが、犯人はわかっている。
目星がついている、というわけじゃなく事実はもっと単純だ。犯人は現在もすぐそばで犯行中なんだよ。
トリックはわからないので、自供させる方向でもっていくか。
問題は、麻酔銃つきの腕時計と眠らせて探偵役に仕立て上げるチョビ髭がいないことだが……、ま、いいや。
そう考えて、ふうふうと荒い息を吐きながら俺の口に自分のそれを密着させている人物を見た。
多分、10人が見れば9人までは美人だと判断する面立ちに、まとまった長い黒髪が映えている。普段は理知的な印象を見る者に抱かせる目は、何かに酔ったような色に塗りつぶされ俺を見返していた。
なにこの状況。少し酸欠になりかけてる頭で考えるが、全く飲み込めない。口腔に送られてくる唾液は絶えず飲み込ませられているが。
誰か俺に説明して欲しい。ABCのAってフレンチじゃない方で良かったんですか。
いや違う。
舌で口の中を撫でるみたいに時に優しく、時に荒々しくなぞられる感覚に意識が飛んでいきそうになるが、あきらめたらそこで試合終了。
なんとか心を強く持つと、唯一動く頭を反らして舌の誘惑から逃げようとする。
が、女子とは思えない剛力によって俺の頭が固定された。
一瞬離れた舌が、ぴちゃり、ぴちゃりと音をたてて再び口腔を陵辱していく。俺の苦しそうな目を見たせいか、相手は獲物に食らいつく肉食獣の目をしていた。
ああ、喰われるんだ、俺。
肉が伝える快楽に負けそうになりながら、それを俯瞰して受け入れている自分がどこかにいる。
いや、そりゃね。襲われるってのはアレだけど、正直に言えば性的な快楽には抗いがたい。相手が美人なら、基本的に道理や理屈よりも目先の性欲に目がいってしまうのが童貞の悲しさなのだ。
童貞→性欲≧愛情の図式は、俺も例外ではない。
「うわ。モロだよモロ。非モテの敵だ。」
オイ写メ撮んじゃねえよ。
てか止めろ(予防線)。
野次馬根性丸出しの知人(悪友から格下げした)を睨むが、次の瞬間にはカチャカチャというベルトを外す音で半強制的に別のことを考えさせられることになった。
大人の階段を昇ることに反対意見は?
――――――賛成でしょ。
――――――賛成だな。
――――――避妊はちゃんとしろよ?
――――――大丈夫だ。避妊具はちゃんと財布に入れてある。
――――――見栄張って買っといて良かった……。
1秒以下で脳内会議が終わる。結果は賛成多数で可決されました。
使うことなんて無いんじゃねーかなーと思いながらも、なんとなく見栄で買っておいたゴム製品が日の目を見る機会がくるとは。
感慨深く思っていると腰に違和感。ベルトが荒っぽい手つきで外され、ズボンが下ろされる。よってマイサンと外気を隔てるものはパンツ1枚だけになった。
それを見た彼女の反応は劇的だった。
それまで赤ん坊のように吸い付いていた俺の口を放すと、名残惜しいと感じる間も無く、その場でひざまずいたのだ。
そして、息がかかりそうなほど近くから、え~と、その、ジョイスティックのある場所を凝視する。満面の笑顔の中で、目だけが爛々と光っているのは少しばかり怖い。だが、同時にこれからどうなるんだろう、むしろどうされちゃうんだろう的な期待があるのも否定は出来なかった。
俺ってMなのかしら?まあ別にいいけどさ。
今確実なのは、あらい息が微妙にかかるせいかそれが刺激になって俺の身体の一部がメタモルフォーゼしようとしているってことだ。
日本人の膨張率は世界一ィィィ!できんことはないイイィ―――――――ッ!!
不意にどこからともなくナチス将校の電波が飛んできたが、まあそれはどうでもいい。
威嚇するように自分の姿を大きくしている俺自身に彼女は笑みをいっそう強くし、そうして最後の防護壁に手をかける。
さようなら子供だった俺。こんにちわ一つ大人になった自分!
じわじわと布が下ろされていき、もう少しでギャランドゥが見える部分になった瞬間。突然彼女がびくんッ!と背を仰け反らせた!
え?
反応できずにいると、今にも出てくる棒にむしゃぶりつこうとしていた身体が崩れ落ちる。
さらに理解不能になった状況に、知人に視線を向けるが奴はしゃがみこんでガタガタと震えていた。
鬼でも見たような怯え方だが、何故?
声をかけようか迷っていると、薄暗い部屋の中に、さっきまでいなかった人影があることに気付く。
「ねえ。大丈夫?清君。」
その人影は、倒れた彼女の後ろに立っていた。
着てるのは制服だから、同じ学校の女子生徒だろう。そしてこの学校で俺を名前で呼ぶ人間なんて1人だけだ。
「怖かったでしょ?先輩がいきなりあんなことしてるんだもん、私びっくりしちゃった。」
全く驚いた様子の無い口調でそう言っているのは、ショートヘアの、子猫を思わせる顔立ちの美少女だった。
ただし、その右手に今もバチバチッと電流を流す音が聞こえる髭剃りのような機械が握られていることを考えると、○○に刃物状態の、という枕詞をつけるべきかもしれない。
「すごく捜したんだよ?先輩ったら清君を探知するための愛の電波まで妨害するんだから。」
もう、と頬を膨らませて言うあざとい動作に、舌打ちしたくなってきた。
くそ、また発信機つけてやがったのか。後で盗聴器も仕掛けられてないか確認しとかないと。
半裸のまま倒れた先輩のお腹に、容赦無く蹴りを入れている少女は俺の視線に気付くと、「いけないいけない」と言って近寄ってくる。
ちょっとやばそうな音が出てたけど、先輩は大丈夫だろうか。せめて全治2週間くらいだといいんだが。
地雷女がロープを外している間、俺は自分に起こったことについて思い出していた。
たしか、昼休みに教室で飯を食おうとした瞬間、突然教室に乱入して来た先輩にさらわれて放送室にやってきたんだったか。
当初は言語によるコミュニケーションを試みたが全く通じず、逆に肉体的コミュニケーションによって気絶させられ、目が覚めるとさっきの濡れ場に強制参加させられていたんだった。
ほとんど面識が無い先輩が何故こんなことをしたのかと言えば、原因は俺である。
細かい事情は省くが、俺は今いわゆるモテ期の真っ只中らしい。生まれてこのかたモテたためしなんて無いのでそれは嬉しいんだが、問題は迫られ方が尋常じゃないことだろう。
今回のように半強制的に行為に至ろうとされることはほぼ日常。
考えようによっては素晴らしいかもしれんが、やり方がアマゾネスみたいにこっちの意志が関係無いので、手放しで喜ぶことはできない。
しかし、悲しいかなそれでも童貞の自分は反応してしまうのだ。
「先輩たちにも困るよね。清君は私のものなのに。」
俺はお前のものになった覚えは無い。そう喉のあたりまで出かかったが、視界にエレキテルな輝きが映ると、それも消沈する。
生身で電流を流されて平気なのは世界最強の生物かアマゾンの野生児路上格闘家くらいだ。そしてそのどちらでもない俺は賢く沈黙を守るしかない。
先輩以上に爛々と輝く目から視線を外すのには神経を使ったが、何も言われないままロープが全て外される。
ああ、そういえばボタンがとんだ制服、どうしようかな。
そんな現実逃避をして、俺はとりあえずそこから逃げることにした。