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セカイ 神殺し  作者: 妄想野朗
序章 神社所有者
2/3

序章 集会

 

 人間界に太陽が昇る頃、漸は疲れきったような表情で長い石段を上っていた。

 その木々のトンネルの様な場所に存在する石段の頂上には真っ赤な鳥居が堂々と構えており、そこは神社だと誰でも解る。

 

「疲れた……」

 

 そこで漸は深々とため息をついた。

 夜の森から光の柱が現れてから数時間が経過した頃だろうか、どうにかこうにか妖怪退治を終えた漸は里で報酬を貰い、家である幻神神社に帰ろうとその長い石段を疲労しきった身体で上っていた。

「む、無理だ……疲労感が凄い……」

 足が棒の様に動かない。

 これは死人に鞭を打つ様なものではないか、と漸は一人歎いていると石段の上から一つの人影が現れた。

 太陽の光が逆光して顔は解らないが、長い髪をしている。

 漸にはその人物が誰かは直ぐに解った。

「あ、お兄ちゃんだ」

 長い髪の人影が漸を見つけてそう言った。

「た……ただいま、麗」

「うん、お帰りなさい」

 目の前の前髪を適度に切り揃えた黒髪は腰辺りまで伸びていて、巫女装束を纏っているこの少女は五十嵐漸の妹、五十嵐麗(イガラシレイ)である。

 この鳥居を潜った先の幻神神社の巫女をしていて、漸と麗はその神社の所有者。

 正しい職業は『神社所有者』という職業である。

「お兄ちゃん、ヨロヨロだけど疲れてる?」

「見ての通り、疲れてる。 悪いけど少し休ませてくれないか?」

「うん、いいよ。 じゃあ私は庭掃除に戻るから休んでてね?」

 麗が心配そうに漸へ声を掛け、すぐそこに掛けてあった竹箒を手に取り鳥居の向こう側へと歩いてゆく。

(できれば、肩を貸してほしかったんだけど……)

 口の中で漸はそう呟いてようやく石段を上りきり、ふらふらとまるでゾンビの様に鳥居を潜る。

 そこは小さくとも大きくともない木々に囲まれた敷地に、本殿が一直線先にそびえ立ちその隣に生活スペースの和風建築の一軒家がある。

 正直、神社としての設備が足りない気もするが、一応神社として認められており、大した問題ではない。

 そしてそんな参拝客が一人も居ないガランとした空間を、漸は生活スペースの家へとふらふらと向かって行った――。

 

 

 太陽が丁度真上に昇った頃だろうか、家の居間にて漸の妹の五十嵐麗が思い出したかの様に口を開いた。

「そういえばお兄ちゃん、今日は冥界で神社所有者の集会じゃなかったっけ?」

「え?」

 その言葉に漸は停止した。

 そして見る見る内に全身から汗が噴き出してゆき、

「れっ、麗!! 今は何時だ!?」

 ハバッ、と時計は何処だ! と周囲を見渡した。

「今は正午だよ」

「正午!? まずい、周囲は一時からだ!!」

 遅刻する! と漸は慌てて身支度を始める。

 ちなみに神社所有者の集会とは、様々な世界に存在する神社所有者という職業の者共が集まり、その仕事に関しての集会を開いているのだ。

 そして漸も神社所有者なので、主席しなくてはならないのだが、忘れていたらしい。

 人間界から冥界までは約2時間は掛かる。

 また、麗も神社所有者だが神社所有者が一つの世界に複数存在している場合、片方のみの主席で大丈夫なので麗は留守番専門である。

「麗!! 留守番は任せた!!」

「あ、うん、いってらっしゃい」

 漸が慌てて部屋から飛び出し、麗は手をひらひらと振って見送る。

 集会まで、あと一時間――。

 

 

 

「迷った……」

 

 薄暗い竹林の中、漸はまた呟いた。

 ここは冥界と人間界を繋ぐ通り道である竹林。

 冥界に向かうにはここを抜ける必要があるのだが、漸はいつもこの竹林で迷っていた。

 大して入り組んでいる訳でもなく、それ程広い訳でもない。

 だが、景色はほとんど同じで見渡す限り竹。

 その景色が漸の方向感覚を麻痺させていた。

「遅刻だ……」

 深いため息をつき、漸は周囲を見渡す。

 すると前方に一筋の光。

 出口だった。 救いの光である。

「……」

 漸は無言で走り出した。

 冥界の神社、霊泉神社へと向かって――。

 

 竹林を抜けて、しばらく走ると、真っ白な塀が見えてくる。

 四方を壁で囲み、一カ所のみに入り口を作った塀で、その入り口には灰色の鳥居がそびえ立ち、更にその向こう側には灰色の屋根の本殿が神社にしては珍しく左側に存在し、右側には母屋が建っていた。

 ここが冥界の神社『霊泉神社』。

 約一時間の遅刻だが、なんとかたどり着く事が出来た、と漸はため息をついて鳥居をくぐったその時だった。

 

「遅い!!」

「うおっ!?」

 

 突如、耳元から怒声が響いた。

 その声量により耳がキーン、と耳鳴りの様に痛む。

 漸は耳を押さえながら恐る恐る隣を見ると、

「い、櫟……」

「遅いわよ! 何時間待たせれば気が済むのよ!?」

 灰色の長髪に巫女装束を纏った吊り目の少女が更に眉を吊り上げで漸に怒鳴ってきた。

 その少女は冥界の神社所有者の霊泉寺櫟(レイセンジイチ)

 今回の集会の場を提供してくれた幽霊の神社所有者である。

「で? 今回で何度目の遅刻かしら?」

 ジロリ、と霊泉寺が漸を睨む。

 それに漸は『さ、30分くらい……かな?』と霊泉寺に目を合わせずに笑った。

「一時間ッ!! 何度遅刻すれば気がすむのよ!? 今回は二時間以上待たせて……待たされるこっちの身にもなりなさいよ」

「え? 二時間以上って……集会が始まる時間よりも早く待ってたのか? 別に部屋で待ってりゃいいのに」

 漸が首を傾げる。

「うっ、うるさい!! とにかく皆集まってるわよ、さっさと行った行った!!」

 その言葉に霊泉寺は顔を赤らめて漸の腕をガシッと掴み、皆が集まっている母屋へと漸が『いや、いきなり引っ張るな! こける、こけるって!!』という叫びを無視して強引に引きずって行った。

 母屋に入ると、座布団が一定の間隔で配置されている部屋に通され、そこには様々な世界から来た神社所有者が座っている。

 そんな母屋の中には重い空気が漂っていた。

 理由は言うまでもない、漸がまた遅刻したからだ。

『またか』 『また遅刻か』 『いい加減にしろ』 といった声が聞こえてくる様な錯覚を覚えながらも一番端の空いている座布団に腰をかける。

「はい、これで今回召集された皆は揃ったわね」

 霊泉寺が部屋を見渡し、言う。

 

「では、集会を始めましょうか」

 

 すると、霊泉寺の隣に建っていた一人の女性が呼びかけるように言った。

 背中からは竜の羽根が生えており、古代の神話に出る神様とかが着ていそうな衣装を纏っているその女性は、竜界の神社所有者でありこの集会の議長である。

 そしてその議長の一言により、集会が始まった。

 

「では、まずはセカイで起こる事件についての話し合いから始めましょうか」

 

 議長が皆の前に立ち、そう言った。

 このセカイには様々な世界が存在している。

 人間が住む人間界や幽霊が住む冥界、妖怪が住む魔界や、神様が住む神界など、様々な世界が存在しておりそれらの世界を総称してセカイと呼ぶ。

 そしてそんなセカイでは、基本的に人間以外の種族には能力者が存在する。

 能力を持つ者が居れば必然的に何らかの事件が発生してしまう。

 それをどうにか解決するために、セカイの最高権力を持つ神界の上層部が、神社所有者という組織を結成した。

 神界以外には必ず一人神社所有者が存在し、その世界で起きた人為的な事件や自然現象で発生した問題などを解決する。

 簡単に言えば神社所有者は、セカイの治安を守る者という訳だ。

 ちなみに、神社所有者の住まう神社にもちゃんと神様は存在し、神界から直々に配属された神様を祭っている。

 ちなみに漸の担当である人間界には狼神という神様を祭っているのだが、まだ一度も会った事がなかったりする。

 と漸が馳せていると、竜人の議長が部屋を見渡して、

「まず、最近皆さんの担当の世界では何か不穏な気配はありませんか?」

 まずは人間界の神社所有者は? と議長が漸に問い掛ける。

「いや、別に何も無いな。 あるとすれば妖怪退治の難易度が上がったくらい」

「そうですか……では、この冥界では?」

「私も特に無いわね」

 霊泉寺も即答する。

 すると議長はそうですか、と一呼吸してから

「魔界、天界の方はどうでしょうか?」

『何も無いね』

 男と女、二人の神職がハモった。

「解りました。 私の担当の竜界も安泰です。 また、水界の方は諸事情で来ていないそうですので次の議題へと移らせていただきます」

 そして議題は皆にそう言う。

 それからはというものの、大した議題もなく平行線で集会は進んでゆき冥界の太陽が傾く頃に神社所有者の集会は幕を降ろした。

 

 

「……腹減ったな」

 人間界の平原で、漸は呟いた。

 あれから集会が終わると神社所有者は皆久しぶりの顔合わせだったが特に雑談や談笑をするわけでもなしに、流れるかの様に解散して現在神社所有者の五十嵐漸は幻神神社へ一直線である。

 そして目の前には木々のトンネルに包まれた神社へ続く石段の入り口が見えてきたところで漸は絶望したような表情で

「……うへぇ、また登んのか」

 ぷしーっ。 まるでまりから空気が抜け出したかの様なため息を漏らした。

 そう、今朝登った疲れている場合のみの心臓破りの石段である。

 それをまた登らなくてはならない。

 しかも今日は色々用事でかなり疲労しているため死者に鞭を打つような状態であった。

「……」

 そして漸は重い足取りで石段を上がり始める。

「あ、お兄ちゃん」

「……ただいま」

 と石段に足を乗せたところでまたまた石段の最上段から巫女服纏った妹の五十嵐麗が現れた。

 この構図は朝にもあった気がする、と漸は口の中で呟くが今はどうでもよい。

「集会はもう終わったの?」

「ああ。 いつも通り眠くなるような集会でしたよ」

 と漸がため息混じりに答えながら石段を登りきる。

 そこで麗が口を開いた。

「そういえば、今胡弓ちゃん来てるよ?」

「え? 胡弓が?」

 また来たのか、と漸は少し意外そうに呟いた。

 ちなみに言うまでもないだろうが胡弓というのは漸の友達の一人の事である。

「最近よく来るな、あいつ」

「うん、ほぼ毎日じゃない? お兄ちゃんの事が好きなのかな?」

「いや、あいつはお菓子目当てだろ。 というか胡弓がそういうつもりだったらそれはそれでアウトじゃないか? 見た目的に」

 麗の笑みに漸は苦笑いでそう返して鳥居を潜る。

「まあ、とりあえず会いに行くかな」

 

「あ、漸帰ってたんだ」

 母屋の縁側に向かうと、そこには芝生の様な色をした緑髪のポニーテールに子供らしい顔立ちの花柄の緑色の着物を纏った少女が座っていた。

 その少女の隣には楽器が一つ。

 三本の弦を張った和楽器で、茶味線を小型化したものを想像してもらえば解りやすいだろうか。

 その楽器の名前は『胡弓』。

 そして、

「で、また来たのか胡弓」「だって暇だもん」

 この漸の言葉に可愛らしい春の太陽の様な笑顔で返す少女の名前も胡弓(コキュウ)という。

 なんでも、常に楽器の胡弓を持ち歩いているから胡弓と呼ばれている。

 そして、胡弓は温かい笑顔を崩さずに続けて

「それに森の木の実や薬草ばっかじゃ飽きちゃうもん」

「ああ……」

 胡弓の台詞に成る程な、と漸は呟いた。

 この少女は『薬草の森』という場所に棲んでいる。

 そこには特に彼女の家があるわけでもなく、触れただけで毒が回る様な危険な毒草が生い茂る危険な場所だ。

 何故そんな場所で野生動物の様に生活してあるかと言うと彼女、胡弓は妖怪だからである。

 彼女は妖怪で、能力も持っている。

 能力は『楽器の胡弓から流れた音色を鎌鼬に変化させて攻撃する』といったかなり強力な能力者だが、胡弓は戦いが苦手で、戦いになれば彼女はきっと泣き出すだろう。

 妖怪でも子供だと言うことだろうか。

 しかも妖怪なのに考え方がかなり人間寄り。

 そしてそんな性格が災いしてか、まれに他の妖怪に人間と間違われて襲われたりするので妖怪でも近寄らない程危険な毒草が生い茂る薬草の森に棲んでいるという訳だ。

 始めて胡弓を見る者は『こいつ、本当に妖怪か?』とか思いがちだが胡弓は妖怪だ。

 正真正銘の妖怪だ。

 ただ人間寄りなだけ。

 ちなみに妖怪といっても人間達に害を与える妖怪と、人間と共存も可能な妖怪の二種類がいる。

 そして胡弓はその後者に当たる妖怪だろう。

 里の人間とも仲が良く、よく里で演奏会を開いたり里の子供に和楽器の使い方を教えたりしている程仲が良いのだ。

「そういえば、漸何の用事だったの?」

 と、ここで胡弓が漸に話を振った。

 それに漸はうん、と頷いて

「神社所有者の集会だ。 また遅刻したよ」

 と苦笑い。

 そしてそろそろ遅刻癖なおさないとなぁ、と言葉を沿える。

「また遅刻したの? ダメだよー、仕事に遅刻しちゃ」

「うん、まあ努力はする」

 微笑む胡弓の言葉に漸が首を縦に振ると、

「じゃあ頑張って努力してね? お兄ちゃん」

 背後から妹の麗が漸の物陰から植物の様にニョキッと現れた。

「お前居たのか」

「ん? 居たよ? 結構前から居たのに気付かないなんて周囲の動きに気付かなく成る程胡弓ちゃんと一緒に居るのが楽しいのかな?」

「なんだそれ」

 漸がため息混じりに呟く。

 そこで麗はまた口を開き、

「あ、そういえば胡弓ちゃん」

「なに?」

「ふと思ったんだけど胡弓ちゃんって、なんて種族の妖怪なの?」

 唐突にそんな疑問を声に出した。

 しかも話ががらりと変えられている。

 そして唐突な質問に胡弓は何かを思い出そうと『んー』と人差し指を頬に当てて考える仕草をしながら、

「確か、鎌鼬の派生系とか何とかだったと思うよ」

「へー、そうなんだぁ。 イタチかぁ・・・・・・」

 と麗がにへ、と薄ら笑いを浮かべて何か危ない目で胡弓の頭とお尻の部分に注目し始める。

 それに胡弓ははっとした顔で

「ないよ! 耳や尻尾はないからね!?」

 とお尻部分を両手でガード。

 ちなみに麗は大の動物好きで動物本来の姿でも人に耳や尻尾が生えた姿でも見境ない。

 時々だが、動物疑惑が浮上した人相手の服を剥ぎ取ろうとするくらいだ。

 動物の事となればもはや、変態の域に達しているかもしれない。

 

 

「麗、少しは場をわきまえないといつか捕まるぞ?」

「えー……わかった」

 

 麗が仕方なさそうに頷い。

 

(というか本当に服を剥ごうとしてたのか……?)

 もしもここが公衆の往来の中だとして、そんなことをすればもうどんな仕返しをされても文句は言えないだろう。

 

「……ところで二人とも、さっきから何か変な臭いがするんだけど……」

 

「……嫌な臭い?」

 

 と、ここで麗が何か思い出した様な顔をして、見る見る内にその顔が青くなってゆく。

 

「どうした? 麗」

「あああああーーーーっ!! 魚焼いてたの忘れてたーーっ!!」

 

 そして麗がそう叫んで弾丸の如く部屋の中へと飛び込んで行った。

 確かに魚の焦げた様な臭いがする。

 あと鉄臭い臭いも感じられた。

 

(……鉄臭い?)

 

 ここで漸は思考を止めた。

 何故、鉄臭い臭いがするんだ? と首を傾げる。

 魚を焼いてもこんな臭いは出ない筈だ。

 この臭いは魚と言うよりは血の臭い。

 嫌な予感がした。

「……」

 そしてその嫌な予感は漸だけでなく、胡弓も感じ取っている様子。

 少々不安そうな表情をしている。

「何か……いるよね、あそこ」

 

 胡弓がそう呟き、前方の草の茂みを恐る恐る指差す。

 漸がそこへ目を向けると、確かに何かが居るみたいだった。

 草の茂みがゆれている。

 動物だろうか? と一瞬思ったが違う。

 そこからは蛞蝓の様にベッタリと張り付く様な妖気が感じられた。

 

「妖怪か……?」

「え、そ、それって……危ない妖怪?」

 

 漸の呟きに胡弓がビクッと身をすくませる。

 妖怪なのに妖怪を怖がってどうする、と漸は一言呟き、前方から漂う妖気に向かって身構えた。

 

「……誰かいるのか?」

 

 漸は草の茂みにそう呼びかける、だが返事はない。

 すると漸は(念のために何かいないか見てみるか)とその茂みへと足を進めた瞬間。

 

 ――草むらを突き破り、物凄い勢いで何かが漸へ向かって突っ込んできた。

 

「――――っ!?」

 漸は咄嗟に横へ大きく跳んでそれを躱し、突っ込んできたモノへと目をむけた。

 すると、視界に飛び込んできたのは薄汚れた着物を纏った厳つい大男。

 頭には小さな角のような突起があり、腕や足には赤いものが滲んでいた。

 どうやら先程の鉄臭い臭いはこいつからのものらしいが、今はそんなことはどうでもよい。

 

「お前……昨晩の奴か?」

 漸のその問いに、対する大男は口を開いた。

「そうだよ、昨晩はよくもやってくれたな?」

「お前らが無闇に人里を荒らすのが悪いんだろ?」

 漸は呆れてそう言う。

 そう、この大男は昨晩退治した筈の妖怪の内の一人である。

 今こうして目の前にいるということは退治しそこねたのだろう。

 

「うるせぇ!! 昨晩滅された仲間の敵、取ってやるよ!!」

 

 と、ここで目の前の妖怪が叫び、再度漸へ向かって突進。

「ああもう、めんどくさいな!!」

 いい加減休ませろ! と一言叫び、漸は懐から一枚の御札を取り出して迫る妖怪へと放った。

  そして御札は手裏剣のように弧を描いて妖怪の顔面に命中し、そいつは地面に崩れ落ちた。

「ぐ……かっ……」

 妖怪の大男は御札がかなり効いたのか、息をしづらそうにもがきつつも額にくっついた御札を引きはがす。

 ちなみに今の御札は妖怪の動きを封じる御札であるが、思ったよりも簡単に剥がされた事に漸は内心驚いていた。 御札に耐性があるのだろうか。

「てめぇ、何しやがる!!」

 引きはがした御札を破り捨てるとそいつは、額に血管を浮き上がらせて怒号を発してまた突っ込んで来る。

(御札が効かないなら……)

「もうめんどくさい、もう一気に片付けてやるよ!」

 それに今日はもう体力の限界だ、と言葉を付けたして、

「これでも喰らってろ!!」

 勢い良く右手を迫り来る巨体へと突き出す。

 その瞬間、

「!?」

 漸の右手からは神々しい、透き通った金色の光を放たれて迫る妖怪はその神々しい光に包み込まれる。

「『光神こうじん』に焼かれてろ!!」

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!?」

 最終的に、その光、光神こうじんはその巨体を焼き尽くした。

 ――――そしてこれが漸の能力『神技を使う』能力である。

 親しい神様から神技を借りてそれを能力として発動する能力だが、今の漸には親しい神様はあまりおらず、いまの光神しか使えないが。

「クソ……何で人間なのに、能力が使えんさよ……!?」 

 焼かれた妖怪が地面に倒れながら言う。

 普通、人間は魔法使いでない限り能力は使えない。

 だが、漸は人間でありながらも能力を使えるのには一つ理由があった。

 神社所有者には少なからず神力がある。

 とはいえその微力な神力では能力を得るには足りないのだが、漸は違った。

 他の神社所有者よりも、多くの神力を持っているのだ。

 それが能力として現れただけという話であった。

 


 

「――――え? お兄ちゃん戦ってたの!?」

 麗は驚いた。

 あれから約十五分が経過しただろうか。

 麗は先程の騒ぎに気づかずに焦がした魚の処理をしていたらしい。

「気づかなかったんだ……」

「うん、ところでその妖怪は?」

「ああ、あいつならもう帰らせた」

 もう里を荒らさないという約束付きでな、と漸は言葉を添えて空を見上げる。

 空はもうほとんど闇がかかっていた。

「そういや麗、夕飯は?」

「あるよ。 魚は焦げたからおかずは漬物だけど」

「……」

 できれば魚を食べたかったなぁ、と漸は口の中でつぶやく。

「あ、そうだ。 胡弓ちゃんもご飯食べてく? もう遅いし」

「え? いいの?!」

 胡弓の表情が太陽のように明るくなる。

 食べ物のことなら食らいつく様だ。

「問題ないな。 よし、じゃあ早いとこ部屋に戻ろう」

 そして三人は部屋の仲へと姿を消していった。

 あのあとは特に問題なく三人は一日を過ごしていった――。

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