1836.8.18.
拝啓 謹呈
松平播磨守殿 御座前
初秋の候、大人におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。急を要する儀がございまして、不躾ながら、ここに書状を奉り、事情を申し上げたく存じます。
このたび、当地天竜の地におきまして、七月下旬ごろより、付近の山中に異形の妖怪が現れ始めました。毎夜のように出没し、里人を害すること、すでに二十余名に及びます。山々からは夜ごとに怨みの泣き声が響き、村民は戦慄し、昼なお戸を閉ざして外にも出られず、田畑は荒れ果て、人心は不安に満ちております。私めも幾度か配下の武士を率いて山中を捜索いたしましたが、山の中腹に差し掛かると、妖気に惑わされ、刀も矢もまったく通じず、かえって数名が恐怖のあまり引き返す始末でございます。もはや弓矢・刀剣の力では、この魔物を相手にすることはかないませぬ。
かかる事態に至り、やむを得ず、ただもう陰陽の術に頼る以外に道はございません。何卒、大人の御慈悲を賜り、御領内の陰陽師を早急に当地へお遣わしくださいますよう、伏してお願い申し上げます。御手をお煩わせすること、重々承知の上にございますが、ひとえにこの地の安寧のため、黙して過ごすわけにはまいりませぬ。大人の御賢明なる御裁断を仰ぎたく、何卒、御返答を賜りますようお願い申し上げます。百姓一同、当地一同、心より感謝いたす所にございます。
慌ただしくも取り急ぎ申し上げ、言葉の足りなきを御容赦くださいますようお願い申し上げます。どうかご自愛くださいますよう。
恐惶謹言
天竜在住
佐々木平八郎
天保七年八月十八日
松平播磨守殿
御侍中様方 転呈にてお届け願います




