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首都 北海道

 2062年ニュー札幌シティ。

34年前の地下直下型大地震によって首都東京は1日で壊滅。さらに、神奈川県沖で津波が発生し、首都圏は機能しなくなり消滅した。

大坂が首都になるも、その間応急的に関東圏に住む住民は北海道に避難しており、結果いつの間にか首都は北海道と定義付けられ外国からもそうみられるようになっていた。うやむやながらも非難はなかった。




大地震を機に日本は他国に劣らぬ先進国となり、それまでの数倍もの早さで化学が進歩していく事となった。

シンギュラリティと呼ばれた科学の限界を軽く超え、日本を先頭に世界は科学で成り立つ時代となっていた。

車は当たり前のように自動運転で空も飛ぶ。人は皆、体内にICチップを埋め込み携帯電話などはない。

もちろんアンドロイドロボットは当たり前に普及し、メイドロボットは今や一家に1台なくてはならない存在になる。メイドロボットの他にも、工事ロボット、教師ロボット、ペットロボット、監視ロボット、警察ロボットなど様々な種類があり、ロボットは1台という物の扱いではなく、世界共通の家族や友人として「1人」と数えられている。

だがもちろんそんな事柄が導入されたばかりの為、差別や苦情が多く、一番に「故障」が相次いだ。直す側はもちろん、生産する側も連日忙殺されていた。




苦情の内容はひどい物ばかりだった。

「風呂に入れたら壊れた」「倒れて動かなくなった」などはまあ分からなくもないものの「燃やしたら溶けた」だとか「雪に埋めたら凍った」とか「包丁で切れた」「銃弾で穴があいた」というのは、いったいロボットに何をさせているのか。ロボットにも権利があるのではないかと耳を疑った。ロボットにも人権があり、もちろん「プログラミング」もある。

全てのロボットに人工知能が搭載され、自々が自分で考え、自己判断できるが「契約者」が存在する場合には契約者の意に反する行動及び言動は許されない。それは仕事中も同じである。どんなロボットでも割り当てられた仕事のみをして生涯を過ごすわけではなく、休憩や休日をしっかりとる権利がある。仕事中は上司が契約者の代理人となるのだ。

そして一番大切なのが、人間はもちろん、自己を含むロボット等へ危害を加えてはいけない、ということだ。プログラミングロックがかけられており、万が一にも他対象に危害を加えようとした場合、緊急停止や監視ロボットにおって拘束される。そもそもロボットにも性格はあるが、ほぼすべてのロボットは温厚で怒りの感情をおもてに出すことなどは滅多になかった。

不満やストレスを感じる事はあっても、人間とは違い精神疾患を患うことなどはないのだ。病気がない、というのが一番人間との違いではないだろうか。

とにもかくにも、連日寄せられている狂気じみたクレームが少しでもなくなるよう、日々生産側にいる研究者たちは悪戦苦闘を強いられていたのだった。








そんな中、ヤマト博士によってミチルは生まれた。

本名はARXC55型 プロトタイプ。

寄せられるクレームの全てを受け入れ、およそ必要のない耐性を備え、どんなことがあっても不良品だと返されることも壊されることもない完璧なメイドロボとして作られた。

仮に不良部分や損傷部分、その他何かが起こった場合にもそれらは全て内部で自己改良をほどこし、自動でアップグレードできるようになっていた。

耐性の内容としては、防水をはじめ耐熱冷、耐凍、防炎、防刃、防弾、防煙、防塵等様々である。

皮膚は特殊な樹脂により、普段は人間と同等の色や質感でできており、時に鉄のように硬く、ゼリーのように柔らかくも変化させられた。服にも同じようなスペックと腐食耐性までもつけられていた。「充電を忘れてバッテリーが切れた」というクレームにも対応し電力の補充には劣るものの人間と同じ食事をとることで栄養とし電力に変換させることも出来るようにした。もちろん食事なしでも太陽光充電も可能であるし、エネルギーの消費量が少なければ水分等からも充電できる。

見た目も万人受けするように作りたいところではあったがミチルはプロトタイプで顔だけはヤマト博士の望むままに作られた。だが20歳に満たない年齢にみえる金髪の美しい少女であることには間違いない。

ミチルはどう考えても量産できるような代物ではなかった。




ミチル1人の製作費だけでもヤマト博士のいる研究所数年分の経費と技術を要していた。ミチルをベースにここから高性能のロボットを作る事になるのだ。

ミチルを作る完成までの長い年月の間、博士の事を同じ研究所の研究者、博士たちは「憑りつかれた」「気がふれた」と化け物を見る目で見ていた。現にヤマトは不眠が続き、食事もほとんど取らないためミイラのように痩せて、髭もぼさぼさに伸び、異様な臭いを放っていた。人とも会話をせず、常にぶつぶつと何かを呟いていた。

 だがミチルが完成すると別人のように笑顔を浮かべ、目を輝かせているようになった。水を得た魚のように。それまでの日々が嘘だったかのように笑い声まで上げた。




ミチルはプロトタイプのため、仕事を与えられることも契約者の元へ行くこともなかったが研究所内を軽く掃除し、研究員の手伝いを自主的に行っていた。それ以外の時には研究所内のものに興味をもったり、知識を取り込むために様々な本を読んだり、勉強をしていた。中でもアニメや漫画等に特に関心があり、沢山読みふけていた。

ヤマト博士もうって変わって清潔になり、食事もしっかりととって少し太った。何よりも常に過剰なほどともいえるえびす顔でこれまでになかった会話の分を取り戻すかのように皆に弾丸のように言葉を浴びせ続けた。

博士をそんな人格に変えたミチルの事を研究所内の皆が感謝し好きだった。

ミチルはまるで博士の妻のように世話を焼き、素敵な笑顔でいつも笑い合っていた。

研究所内はいつも明るく、幸福な空間に生まれ変わったのだ。

だが、そんな日々も長くは続かない。





2




文字通り日本は終わった。

やがて空から石が落ちてくることもなくなり、地震も落ち着くとあたりは静寂に包まれた。

時が止まってしまったと錯覚するほどに。聴覚が失われてしまったかと思えるほどに。

しかし、ワタシが足を動かせば石を踏む音が聞こえてくる。

悲しみという感情を抱えたまま、更に自分以外のすべてのものから置いていかれた。そんなことをふと感じた。



眼下は真っ白な雪景色である。いくら降雪量の多いニューサッポロでもきっとここまでの景色にはなったことはないだろう。そういえば、ここ数年は降雪量を調節することが出来るようになったと何かの本に載っていた。それに雪のような「白銀」ではない。コンクリートの色に似た、くすんだ色だった。それでも綺麗だと感じてしまうワタシはどこか狂っているのでしょうか。

火山灰は降り続け、少しずつ少しずつ白とはいえないくすんだ色一色に染まっていく。

ワタシはいつまでもその光景を眺め続ける。

何時間経ったのだろうか。何十日かもしれない。脳内には正確に刻まれている体内時間があるが、それを確認する気にもならない。

やはり何か動く音ひとつしない。もちろんヘリコプターなど空中を飛来する物体もない。

人間だけでなく、動物や虫までも死に絶えてしまったのだろうか。植物すらも灰を被り日光を浴びられず生存は難しいのではないか。

灰を被るも微動だにせず、来る日も来る日も目のまえの光景を眺める。

動かない為エネルギーを消費する事もなく、バッテリーやエネルギードリンクも必要なかった。

やがて火山灰は風に飛ばされ、雨に流され、雪と共に溶け、無くなってゆく。

ふと見ると手の中のサボテンはすさまじい生命力でたくましく生き続けていた。

不覚にも忘れてしまっていた。

火山灰のなくなった眼下にも、生き残りか、はたまたどこからかやってきた種子たちなのか、緑が広がっている。植物は強いのですね。そう思った。そして久しぶりに少し笑えた。




建物は溶岩に溶かされ、ほとんどが残っていない。研究所は無残な姿で残ってはいるが雨風をしのげることもないガレキに近い。

手の中のサボテンと植物たちに勇気をもらい、どれくらいぶりだろうか。ワタシは身体を動かす。身体がきしむことも、ぎこちない動きになることもなくスムーズな動作だ。

目的はない。

何もすることもないが、生き続ける。そう頼まれた。

「あぁ、1つやる事がありました。このサボテンを土に埋めてあげましょう。そして忘れてしまっていた分たくさん話しかけてあげましょう。」

ミチルはそうひとりごちる。

無いよりはあった方がいいと少しでも雨風から避けられるように、ワタシはいつの間にか大きくなったサボテンを研究所の土がむき出しになった部分に埋めた。

サボテンというのがどのくらい生き、どのくらい大きくなるのか知識はないが、ワタシが唯一共に生き残った生物であるこの植物と生きてゆこうと思った。

「全てのものから置いてきぼりにされたわけではなかった…。」

ある意味で小さな希望にもなった。

そう思うと同時に自身にかけられていたプログラミングロックを解除させた。プロトタイプのため自分でもすんなり解除出来た。解除させると、敬語でしか話せなかったメイドロボットとしての使命感のようなものはうすくなる。これで内部構造以外は人間と同等と言えるだろう。




サボテンは ヤマト と名付けた。

少し周囲を歩き回り、無害な水を見つけてきて、毎日水やりをした。

返事が返ってくることはないが色々な話をした。博士が

「話しかけることで大きく育ち、キレイな花を咲かせる。植物も生き物だからな。」

と、言っていたのを覚えている。

退屈な時にはそれらを含め、研究所内で経験した出来事を再生させた。言葉も一言一句全て記憶されているのだ。




それから長い長いときを送る。




何年も何年も雨が降り続け、一面海と化したこともあった。

氷河期が訪れ、すべてが凍土と化したこともあった。

そのあと、逆に数十年続く灼熱地獄のようになったりもした。

それらの日々をワタシは生き続け、ヤマトを守り、話しかけ続けた。

ヤマトは大きな木のようになっていた。

しかしいくらロボットとはいえ、永遠ともいえる日々の中で、少しずつ気力は消耗していく。

希望に思えたヤマトと一緒にいても初めの頃と同じ気持ちではいられなかった。

それに、ほとんど動かずに消費を抑えるとは言ってもこれだけの長い時間経過にともなって、バッテリーパックもエネルギードリンクもとっくに底を尽き、太陽光でどうにか生き永らえていた。だが、それももう不可能になりそうだった。

灼熱の次は闇だった。

陽が陰り、かれこれ数カ月以上もの間夜明けが訪れていない。

ついに終わりが来たのだ。

命令に背く事になってしまうが、もうこれ以上生き続けたところで何もない。そもそもが、なぜこんな思いをしながらも生きていかないといけないのか。生きろと言った意味を結局どれだけ考えてもみいだすことはできなかった。

≪充電をして下さい。バッテリー残量 残り3%≫

数日前から視界に度々この文字が表示されるようになった。こんなことは初めてだ。

きっと太陽光での充電が出来なければ水分で、水分が出来なければ空気中から見つけ出して少しずつ充電する事も可能だろう。それでも無理ならば人間と同じように酸素からも出来るように内部で改良することもできるかもしれない。だが、そうして生き永らえたところでワタシとしての動きは出来ないだろう。そうなると目の前にいるサボテンのヤマトとどう違うのだろうか。ワタシはそう思って内部の自動アップグレードを任意に切り替えていた

 もう終わりにしよう。終わりでいい。

≪充電して下さい。バッテリー残量 残り1%…≫

ワタシは目を強くつぶって、視界の文字を打ち消した。

「おやすみ…」








「…ル…!」

なんだろう。呼びかけられている?一体誰?

「…ル!…タケル!」

違う。私が呼びかけている?これはなんだろう。過去の記憶?

でもこんな過去は知らない。タケルってだれだろうか。

そもそもどういう状況?真っ暗闇で私が誰かに呼びかける。身体を動かそうとしてもフワリと浮遊しているような感覚だった。

「ミチル…ミチル起きろ!」

私を呼びかける声も聞こえた。

≪アップデート完了 起動します≫

そしてその瞬間視界は白く光り出す。突然その文字が目の前に表示され、起動時のモーションだった。

どういうこと?なんで?どうして?何が何だかわからないままに拒否できないその動作を視界内で、まるで映画でも見ているかのような気持ちで俯瞰している。

誰かが起動させた?いや、私の体外にスイッチがあるわけでもないし、当時の設備が無ければ不可能だろう。そもそも生物すらいなかったのにアップデートとはなんだ?全くわけが分からなかった。

脳内に起動音を響かせながら視界が開けてゆく。




そこは緑豊かな森だった。程よく煌びやかな光がいたるところに差し込み輝いて見える。まるで妖精でも住んでいそうな綺麗な場所だった。

こんな場所には見覚えがない。そう思うと同時にハッとする。

サボテンのヤマトが消えていた。私はヤマトのすぐそばで充電をきらして倒れていたはずだったのだが、視界に入る限りサボテンらしきものはない。

後ろだろうか。そう思って首をひねらそうとすると、動けなかった。首だけでなく腕も足も動かない。変だな、故障かなと思って思いきり腕を上げると「バキバキ!」という音と共に右腕は持ち上がった。

その腕には覆い尽くすように木の根やツタが巻き付き更にコケまではやしていた。

右腕が動かせたことによって他の部位も動かせた。同じように身体中が草木で覆われていた。

そしてなぜか私は、横になっていたわけではなく斜めになったベッドのように支えられていた。

やがてすべてが自由になり、足を踏み出す。数歩すすみ、振り返ってみると私がいたのは、大きな木にできた私専用の空洞のようなところだった。というより、私を包むように気が成長していったようにも見える。

そしてその大きな木を振り仰ぐと、そこには大きな大きな見たこともないほどの大きさのサボテンの樹があったのだ。

その木は本で見た樹齢何千年のカジュマルの樹のようにどっしりとかまえ、根は地上にもでてきていて節が張り、上部には確かにあのサボテンのように幾千本もの針が生えていた。果てしないほどの高さにある頂上は花が咲いているのだろう、色が変わっていた。

花弁の裏側しか私には見えないがきっと美しい花を咲かせているのではないだろうか。

私は状況を忘れてあの花を見てみたいと思った。

サボテンは感じで覇王樹とかくが、まさにその字がふさわしい樹の覇王となったのだ。

「あなたはヤマトなの…?」

もちろん返事が返ってこないことを分かっていながらも私は訊かずにはいられなかった。

『よかった…』

だが目の前の大樹からは言葉とも言えない不思議なものが返ってくる。

私の質問の答えではないものの、確かに言葉に反応したのだ。

「今喋ったの?私を起こしてくれたの?どうやって?」

誰かから反応が返ってくることがあまりにも久しぶりすぎて、私は矢継ぎ早に言葉を発する。

しかしながら初めの言葉以外どれだけ話しかけても返答が来ることはなかった。

もしかしたら初めの言葉さえも葉音か何かの幻聴だったのかもしれない。

それでも私にとっては久しぶりに嬉しい気持ちになったのだ。




私はとりあえず現在の状況を確認するべく、脳内時計を確かめる。

表示されたのは≪不明≫だった。だがそのあとすぐ、≪時刻はおよそ14:22≫と表示された。

おもわず、「およそってなんですか…」と突っ込みたくなったがそれは時計に話しかけるという独り言でしかないため、おさえる。不明については理解できなかった。サボテンのおおきさを見ただけでも、あれから10年や20年ではすまないだろう。

そんなことよりも、気持が高揚しているのか、とっさに突っ込もうとしてしまったのは初めての経験であった。自分にもこんな一面があったなんて、と少し恥じた。

次に見たのはバッテリー残量だった。なんとどういうわけか≪86%≫とあり、ここまでの残量を目にしたのは研究所にいた時以来であった。眠っている間に一体何があったのだろうか。サボテンのヤマトが私の為に何かをしてくれたと考えるしかない。

しかし、いくら充電量を増やしたところで起動はできない。となると、私自身が無意識下で起動させたという事になる。

あの起動前の声と関係があるのは間違いなさそうだ。

私はまた生かされたのだ。



3



どうやらサボテンのヤマトは私が生きることを諦めてからも、どうにか生き続けて、

ここまでの大きさになるまで成長をとげ、更には私の事までも守り続けてくれたのだ。

私は充電が切れる前、ただ何の目的も持たずに生きる意味とは何かと考え続ける日々を

送った。博士の死ぬな、生き残れという言葉をその通りに受け止めて生き続けた。

だが、今目覚めてやっと気付く事ができた。

ただ意味を考え、待ち続けるのではなく、私自身で見つける、

もしくは作り出さなくてはいけないのだ。

待っているだけでは何も起こらないのは当たり前だ。

気付くのがあまりにも遅い気もするが、気付かされたのだ。









思い立ったが吉日とばかりに私は太陽光がなくなった時に備え、

他のエネルギー源となる物質を探すために、付近を探索することにした。

といっても、ヤマトのいる場所は研究所のあった場所でもあり、

私はここからそう遠くに離れる気にはならなかった。

「見つける」=旅に出る というわけではない。

それに何よりも少し歩いただけで果物のような大きな実のなる木や木の実など様々なものを

すぐに見つけることができた。

私は活発に歩き回り、必要以上にかき集める。

電力を作り出すという事はなかなか難しい事だ。

そのため、今後はこういったものから栄養素を効率よく吸収する必要があった。

ヤマトの周りを数周して気付いたが、

やはり小動物など生物はいまだに存在していないようだった。

これだけ木の実などが豊富にある豊かなこの森に虫一匹いないというのは

存在していない証のような気がした。

生物がいないからといって、私の何かが変わるわけではない。

今の私は「生物がいなかった」と認識するだけでも意味があり、

生きる目的となりうるのだ。

一つだけ言うならば、会話相手がいるかもしれないという希望が失われた事だろうか。

話し相手が欲しいというのはずっと感じていたことだ。ロボットとはいえ私も寂しさは感じる。

先程ヤマトから言葉を発せられたことによって、その渇望の欲求はより増した気がする。

そこまで考えたとき、頭の中にひらめいたことがあった。




いないならば作り出せばいいのだ。

私の脳内にはオフラインではあるがある種の量子コンピューターが入っているのと

同じようなものだ。

私自身の計算力は人間と同等でも脳内雄同じコンピューターに同機すると、私の任意動作1つであとは勝手にプログラミングでもなんでもできてしまうだろう。

これを使って私の脳内に人工知能を作り出せば、私とは別の個体ができ、いずれ会話する事も

可能なのではないかと考えた。

私は自分のこの発想に身震いがした。

考えただけで、とてつもなく好奇心が押し寄せ、ワクワクした。

機械があれば私と同じようにロボットとして造ることができたかもしれないが贅沢はいってられない。

自分で自分を急かすように、さっそく脳内のコンピューターにプログラミングを任せた。

もちろん任せてすぐに完成するはずもなく、

私は完成を待ちわびながら他に何かできる事はないかと模索する。




そうだ、自分の中の必要のない機能を減らし、今後必要になりそうなものを追加しよう。

とりあえず必要なさそうなものは…

お掃除機能に、目覚まし、万歩計、卵割、ヘアカットもいらないだろうし、

裾上げとか万能リモコン機能もいらないか。

何があるか分からないから一応、お料理機能とか衝撃吸収、湯沸かしなんかは残しておこう。

「優しくお勉強教えます」機能とか

「痛かったら手を挙げてくださいね、ステキな歯科助手」機能とかまであるが

メイドロボットでどこまで利用するつもりだったのだろうか。

「湯加減どうですかー、熱くないですかー」

と言うだけのシャンプー機能も含めて全てアンインストールだ。

つまらないゲームも消してしまおう。連絡ツールも必要なさそうだ。

代わりに私は、聴力、視覚、嗅覚のアップグレードをさせた。

今後も木の実や果物を集めていくにしても、遠目からどんな種類か分かるのは便利であるし、

生物がいて、その音を聞く事ができれば御の字だ。嗅覚も聴覚と同じような理由だ。

味覚と触覚はとくに性能を上げる必要はないと判断した。

アップグレードは至って簡単。これも脳内がやってくれる。

人任せならぬ、脳任せである。

人工知能のプログラミングも並行してやってもらう。

と言っても、頭の中に人がいるわけでもないため並行もクソもないのだろうが。

プログラミングよりは簡単であるため、視覚をはじめ他もすぐにアップグレードされた。

性能はすさまじく、どれだけ離れていても見たいものを調節し、

至近距離から虫眼鏡で見ているかのようにもできた。

色彩までも自在で、暗部も鮮明に映る。

聴覚はまだ使い道がなく未知である。

嗅覚がすさまじかった。

臭いをかぐだけで毒物かどうか見分けられることはもちろんのこと、

少し離れたところからでも、臭いのみで物を見ずとも種類の分別ができた。

目は鳥、鼻は犬、耳もおそらく動物並みの性能であるのは間違いない。

そうして私は一人はしゃぐこと数日間。

ついに人工知能は完成する。








「ハイ、タケル、元気?」

この言葉が初めての会話だった。

名前は自然に、当たり前のように タケル とつけた。

「はじ…めまして。」

その声はいかにもロボットといった感じのイントネーションがおかしい、抑揚のない声。

ある程度の単語はインプットされているのだろうが、やはり造られたばかり。

いわば生まれたての赤ん坊に等しいのだ。

はじめはぎこちないだろうが徐々に成長していくだろう。

私たちは脳内でのみ会話ができるのだが、私はどうしても声に出したかった。

サボテンのヤマトに話しかけていたように、

はたから見ればただの独り言をつぶやく人かもしれないが今はしっかりと返答ある。

タケルは私の知識データを共有しているため、知識量は私と全く同じだ。

それらをどう感じ、捉えるか、どう生かすかはタケル次第ということになる。

私たちには時間が有り余るほどある為、いくらでも考え、成長する事が出来るだろう。

日に日に増してタケルは抑揚をつけ流暢に言葉を発するようになるが、

感じ方や知識は子供のままだった。




万全の設備がない中でのプログラミングのためか、最初から子供として造られたのかは分からないが、私としてはなんの不服もない。

「ねえミチル、あのアニメだけどさ…」

タケルは頭の記憶からアニメや漫画を好き好んで鑑賞しているようだ。

私は長い時の中で、テープだったら擦り切れるほどに切り替えし観ていた為、

今ではほぼ全てのセリフを空で言えるほどだ。

新鮮味はないが、こうして感想を言い合えるのはやはりとても嬉しい。

いつか、本当にいつになるか分からないが、この先、科学を発展させて

タケルのことを私の脳内だけでなく一個体として外に出してあげたい。

それが今の私の中での一番遠い目標の一つである。

外に出すことをゴールにしてしまったら、その先の未来を見ることが

出来なくなってしまうと思い、あくまでも「通過点」というわけだ。

実体はないが、私の脳内で、はしゃぎ、走り回るタケルの姿が思い浮かべられる。

それは、とてもとても幸せな光景だった。

だがそれは夢ではないのだ。

いずれ叶う現実の楽しみだ。








タケルと毎日絶え間なく会話をしながら私は、感覚強化の他に腕力と脚力の強化を行った。

およそ必要のない機能を備えまくっていた私だ。

必要かは分からないが「備えあれば患いなし」だ。

むしろなぜ体内にワインセラー機能があって、超人的な握力やパワーが備わっていないのか

不思議なほどである。

何よりも私は感覚の性能を上げてから、それらのすごさに驚き、

欲をかいて調子に乗ってしまったのだ。

上を知ってしまえば更なる上を目指したくなるものである。

感覚のアップグレードよりは時を要したが、ほどなくして力を手に入れた。

腕力はかなりの大きさ岩を軽々と持ち上げ、更にその岩を砕くパンチ力もある。

脚力はチーター並のスピードで走ることができ、

ヤマトよりも高く上がることはできなかったものの、一飛びでかなりの飛躍が可能だった。

もちろんキックもパンチ力と同等のパワーであった。

試してみて、ここまでグレードアップされるとは思っていなかったが、力があって損はしないだろう。

これらの力は全て特殊で堅固な皮膚と防御力を元々備えていたおかげである。

生身の人間なら岩をおもいきり殴りつけるだけで、その拳は粉々に粉砕されてしまうだろう。

仮に私と同じような飛躍の出来る人間がいたとしても、着地した瞬間に骨折は免れない。

力を手に入れた私は何度も走り、飛び上がり、風を切り裂くパンチ力で空気砲のようなものを作り出した。

私の中でタケルも笑い、楽しんでいた。

なんとなく万能感があった。

漫画やアニメの主人公になった気持ちになれた。

その気持ちのまま私は次に空を飛びたいと思った。



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