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吉川さんと吉川くん  作者: Light Up Field
前編 受難の高校生活
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第四話 思いやり? いや、違うか

 買ってくるように頼まれた冷たい紙パックを片手に持ち、足元に生えている雑草を踏みつけ、掃除場所のトイレに向かっていた。校舎から少々離れているため、毎日ここに通わなければならないのだと思うと、気が滅入る。

 今回は吉川くんの言いなりになってしまったが、明日の掃除では勘弁してもらいたい。さて、今度強く言われたら、断ることができるだろうか。

 重い足を引きずり、なんとかトイレに到着する。吉川くんの姿はない。本来の目的を果たすために掃除道具入れから箒を取り出す。一つ一つの動作が億劫だ。溜息を吐くと、タイミングを見計らったようにぬっと現れた人物と目が合い、全身が固まった。吉川くんは紙パックを掻っ攫うと、すぐにストローを挿し、口を付ける。そして、トイレ前の、何故ここに置かれたのか疑問の残るベンチでふんぞり返る。座ったまま動こうとしない。やはり掃除は私がしなければならないようだ。思いやりとか、温かい気持ちを彼は持ち合わせているのか、甚だ疑問だ。

「お前のは?」

 トイレの入り口を掃いていると、のんびりとした口調で話し掛けられた。相変わらず意味が不明だ。どう返事して良いのか分らないので、聞こえなかった振りをして、箒を持った手を動かす。無視はしたものの彼の言わんとしたことを全力で考えていた。

「あっ」

 吉川くんの方へくるりと向く。大事なことを忘れていた。お釣りだ。おつりを渡さなければならない。彼と目を合わせないように俯き加減で数枚の硬貨を渡す。

「今度からは自分の分も買って来い」

「……へっ?」

 口があんぐりと開く。かなり間抜けな表情になっていることだろう。だが、無理もない。あのキング吉川が他人を気にかけたのだ。明日は雨が降るかもしれない。いや、違う。天変地異の前触れか。

「だから自分の分も買って来いって」

 声に棘を感じて我に返った。

「う、うん」

 よくよく考えてみると「今度から」ということは、次もパシることを前提としている。また扱き使われるのだ。私を気にかけているかもなんて、錯覚だった。

「早く掃除しろよ。俺、暇じゃないからな。早く終らせろ」

 エゴイストだと思わずにいられない。彼の一言が私には重い。

 掃除場所は一か月交代。彼の言葉を聞いているだけで精力をそがれる。一か月後には精力が尽きて干からびているかもしれない。もしくは、彼の言葉を聞き流せるくらい神経が図太くなっているかだ。

 後者だったらいいなと切実に願い、箒を握りなおした。


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