第六話 古今の相違点
まるで何かを決意したような瞳で、私を真っ直ぐ見つめてくる。目が逸らせなかった。笑いなど一切許されない緊迫した空気が神経を尖らせる。
「俺と付き合え」
時が止まる。杜城くんは瞬きをせずに、私に穴が開くのではないかというほど見つめてきた。視線で射殺されそうだ。微動だにできない。
「いくら由でもこの意味は解るよな?」
この状況、タイミングからすると、「付き合う」ということが、単に用事に付き合うというような意味ではないことに察しは付く。だが、何故そんなことを言い出すのか見当が付かない。
心中に存在する大いなる疑問を消し去ろうと働きかけることはできなかった。余分なことを口にしたら、さらに自分を窮地に追いこんでしまいそうだ。彼には理屈が通じないところがあるから。
「由に、決定権はない。昔みたいにな」
私の黒い過去が一斉に押し寄せてくる。何もかもが蝕まれ、もがき苦しんだ日々。本当に解放されるのは何時だろう。
歯を食いしばる。
抵抗できない。言いつけられたことを実行に移す私は、彼の傀儡でしかない。それを知っているくせに。何て卑怯な人。
悔しい。押し黙ってしまう自分が情けない。
「俺は許せない。由は変わったよ。前だったら、怯えて話にならなかった。隙なんて見せなかったのに。さっきの菓子屋でヘラヘラ笑ってたよな? いらつくんだよ……そういう仕草全部が」
吐き捨てられた台詞に思わず俯く。想い人に切られた前髪はすっかり伸び、完全に私の表情を覆い隠してくれる。
「俺の前で笑うな」
彼の言葉は両刃の剣となって私を容赦なく切り付ける。耳を塞ぎたいのに、杜城くんの底冷えする視線が許してくれない。声音も口調も態度も、私を従わす憎き要素だ。
「う、うん」
凍てついた視線がふと消えるのを確かめて、ゆっくりと息を吐き出した。
「俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ」
「うん」
躊躇いなく同意した。酷く機械的な動作だったけれども。
こうやって、どんどん自身の意見を述懐することが難しくなっていくのだろう。以前はそれが当たり前だったのに、今は違和を覚える。自分が自分ではないみたいだ。私は自我を失いたくない。――願わくは、ある一つの想いだけは侵害されることのないように。
成就することのない想いなんて忘れてしまえばいいと思ったことは正直あった。しかし、今、切実に感じるのは久しい感情を簡単に捨てたくないということ。杜城くんは私が変わったと言った。確かにもの考え方は変化したのだ。
杜城くんには屈しない。昔と今の私は違うのだから。