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吉川さんと吉川くん  作者: Light Up Field
前編 受難の高校生活
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第一話 二人の吉川

 何故私は「吉川」という苗字を持っているのだろう。

 生まれてこのかた十数年。高校二年生になって初めて持った、苗字についての疑問だ。例えば苗字が赤尾だったりしたら、今ほどに冷や汗をかく必要はなかった。

 進級し、最初のロングホームルームの議題は、委員や掃除当番決めが主だ。外トイレ掃除の当番決めがななかなか決まらず、進行は止まっている。その事態が私を焦らせていた。

「吉川……二人とも悪いな。男子便所だけど、狭いから楽だと思うし」

 担任教師は申し訳なさそうに頼んできたが、とても返事を返せる状態ではなかった。困りかねた先生は黒板の前でうろつく。

 この二年E組にもう一人居る、「吉川」という苗字を持つ人物、吉川(よしかわ)伸考(ただよし)くんの方をちろりと見る。あからさまに不機嫌オーラを全身から発し、今にも誰かに噛み付きそうだ。

 このクラスの男女混合出席番号の最後は「吉川」。先生が出席番号の始めから掃除場所を振り分けていたら、運悪くも、私と、吉川くんが男子トイレ掃除になってしまった。掃除といっても、一か月後には交代するので、トイレだろうが我慢すれば良い。しかし、私には、そのように楽観視する余裕はなかった。そう、同姓の吉川くんの所為で。

「……なんでこの女と」

 吉川くんが少人数にしか聞こえないような声でぽつりと洩らした。小声だったのは、私に聞こえないようにとの配慮なのか。生憎ばっちり聞こえてしまった。彼の声を聞いた隣席の日比くんなど、数人のクラスメートは渋い顔で視線を投げかけてくる。その他の生徒はどうでも良さそうに寝ていたり、極少数の女子は私を睨んできたり、また、これも僅かだが、真剣に先生の話を聞いる生徒もいた。

「何で俺が便所?」

 黙っていた彼が動き出した。彼が本能的に苦手なため、彼の抗議の声は有り難い。

「私は……構いません」

 蚊のなく様な声で返事をすると、スポーツマン風の担任教師がほっとしたように頷いた。

 先ほどの発言から、吉川くんはトイレ掃除などボイコットすることが容易に想像できる。私は男子トイレが嫌なわけではなく彼との活動を避けたいわけだから、元凶の彼が居なければそれで良いのだ。

「俺は嫌だ。サボるから」

 俺様。エゴイスト。それが彼に対する私の評価だ。

 話せば長くなるが、小学生の時から彼のようなクラスメートにパシられたことが堪えているのだと思う。吉川くんはきっと私の名前も知らないだろうし、気にかけてはこないと思う。けれども、あの小学生の男の子と吉川くんとが重なり、いつ扱き使われるか、かなり心配している。二人の性格が似通っているからだ。

 自己のことを一番に考える吉川くんの性格が、私のピンチを救おうとしている。つまり彼が掃除をしたくないと突っぱねれば、一人で掃除をすることができる。好都合だ。

 先生は少しずつ吉川くんを説得していた。吉川は勿論拒否し、その度に先生が納得させようと説く。それを永遠に繰り返していたら、ついに六時間目終了のチャイムが鳴った。

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