第二話 偶発的に
笑うしか私にはできなかった。だが、寒さの所為か顔が引き攣って、歪んだ顔にしかならない。何故、何故彼がここに。これは夢の続き?
幻に違いないと確信して目を擦るが、彼は変わらず佇んでいた。
「なんだ、そんなに俺が珍しいか? そうか、二年ぶりだもんな」
突然の再会に言葉が見つからず、じっと観察することしかできない。
杜城くんはここからは決して近くない公立高校の制服を着ていた。中学校の時と変わらない詰め襟の学生服に私服を取り入れ大きく崩した姿は、過去の彼を彷彿させる。
両耳には存在感があるシルバーのピアス。日が沈み辺りが暗くなっているのではっきり断言できないが、髪色は中学生時代よりもさらに明るくなっているのではないか。彼の容姿が派手になっていることは容易に判断できる。
「こ、んにちは」
やっと口が動くと、鼻で笑われる。
「相変わらずボケてんな。こんばんは、だろ。……それに、フツー駅のベンチで寝るか?」
常識人は寝ない。だが寝不足で、睡魔に負けてしまったのだ。それは誰の所為なのかこの人は知らない。だいたい起こす必要なんてなかったのに。
こうして駅で出くわす計算を全くしていなかったのが、悔やまれる。互いの高校は離れているので、中学の同窓会に行かない限り出会わなくて済むはずだった。
「どうしてここに……?」
「ダチとこの辺りで遊んだ帰り。俺が居たらダメか?」
「そうなんです」とはさすがに言えない。二年前と性格が変わっていなければ、彼を邪険にしたら最後、断罪するまで追い掛け回される。
答えに窮していると都合よく電車が到着し、杜城くんに軽く頭を下げて乗り込む。帰宅ラッシュをやや過ぎたので混み合ってはおらず、すんなり座席に着くことができた。
「一人で行かなくてもいだろ」
私を見下ろす人物にふと気付き息を呑む。そうだ。私は大事なことを忘れていた。杜城くんは同郷なのだ。同じ電車に乗ることは必然。唯一の救いは左右の席が埋まっていることだ。私とは離れているが空席はある。そちらに座ることを願い、下を見つめ続けた。
視界に映る二足の靴は、私と杜城くんのもので一向に動く気配がない。それは私の前から彼が動いていないことを意味する。冷や汗を首にかき、この時間が早く過ぎることを願った。
電車が自宅の最寄り駅に到着するまで、沈黙が続いた。
世間話なんてできない。中学生時代の大半の思い出は杜城くんとのものなのに――なんて薄っぺらい関係なのだろう。
互いに別れを告げずに駅を後にする。
今日の再会はアクシデントだ。まざまざと杜城くんとの距離を突きつけられた。私の中学生活はとても虚無だったと思わずにはいられない。そして、私への嫌がらせを全く覚えていないというよりかは無自覚で、とてもすっきりとした顔をしていた杜城くんを恨んだ。